第六回
病院から地域へ。精神看護と地域づくりのハザマから見えること。その1
― カフェここいま(NPO法人kokoima)の実践から ―
NPO代表で就労スペース「おめでたい」所長の小川貞子さん(左)と「Cafeここいま」店長の廣田安希子さん(右)。Cafeここいまのドアにペイントを施す。
現場の声から見えてくる、居場所づくりのプロセス
立ち上げから約2年を迎えるこの2017年12月の執筆時現在。現場に張り付いて運営をしているわけではない僕の立場から見ても、訪れる客層や事業運営における広がりと変化はめまぐるしい。少しカフェ開設初期のkokoimaのFacebookページの投稿(小川さんと廣田さんが投稿担当)を追ってみたい。
開店直前に訪れたココ今ニティーメンバーさん*1が、いったん病院に戻ろうとして道に迷った。そこで、Cafeここいまの小川の名刺をまちの女性に示し、迷ったから連絡してとお願いした。小川の携帯にその女性から連絡あり、駆け付ける。お礼を言い名を尋ねると「私の母も、徘徊でずいぶん皆さんのお世話になっているから、お互い様です」と。❤ ❤
そうなんだ! 皆いろいろな事情の中で、他者を大切にしあうことで生きあっているんだ。お互いさまって言葉・・なんて素敵なんだろう。 メンバーは、困った時によく名刺を使うようになっている。それもステキ ❤ ❤(後略)
(オープンから約1カ月後の2016年1月22日の投稿より)
Cafeここいまの料理人、土屋さん*2手作りのたねをみんなで包む「手作り餃子」を行いました。ご近所の常連様や入院患者さんみんなでいただきました。自分の包んだものをいただいたり、人に焼いてあげたりと、ものすごーくにぎやかで熱気ムンムンでした。
同じ日に雑魚寝館の亀井先生*3がお見えになって、美味しい蕎麦寿司を頂戴しました。久しぶりにとくさんも来てくれて、うれしい一日でした。
(オープンから約1カ月後の2016年1月30日の投稿より)
近所で自宅水族館を営む地域のキーパーソン、亀井哲夫さん(左)と、ベトナムからの留学生トゥンさん(中央)。この日はトゥンさんによる「フォー」がテーブルに。
身体治療から回復したNさんは、カメラマンの大西さんや、写真展*4で出会った杉原さんたちに「自分は元気になりつつある」ことを、Facebookで紹介したいと。看板の前で、同伴してくれた師長さんと記念撮影。皆さん、ご安心ください。お元気です。
詩人のJさんは、一人で来店。「今日は調子がとてもいい」と。お店のお客さんの大きな声の雑談の中、詩をつくっていました。詩は撮影したのですが、投稿の許可をいただくのを忘れました…残念。病院を辞めてCafeを経営している小川を気遣う、優しい詩でした。写実的でありながら、思いやりにあふれ、私のことをこんなに思ってくれている人が病院の中に他にいるのだろうかと。このような人を友人といわずして、だれを友人というのでしょうか。
(オープンから約1カ月半後の2016年2月11日の投稿より)
小川さんたちがケアにあたってきた長期入院患者たちは、普段から外出に慣れていないうえにご高齢の方も多く、病院から徒歩10分の距離にある場とはいえカフェに通うのは一苦労だ。それでも、病院とはまったく違った環境で、看護師や医者や家族とはまた違う地域住民や、ふらりと訪れる遠方の客、また近くの関西大学の学生たちとご飯を食べたり、珈琲を飲んだりしながら何気ない会話を紡いでゆく。
「病人」であることを前提に会話するのでなく、いろんな面を持ち合わせているなかで徐々に「その面」についても触れながら、困ったことやつらいことも語る。すると、カフェの常連になってきた地域住民のそれぞれも、実は独居老人で日頃誰かとご飯を共にすることがなかったり、障害者手帳を持っているわけではないけれど、どこか生きづらさを抱えている若者だったり、留学したばかりで孤独を感じているアジアから来た学生だったりが、この場でぐちゃぐちゃと本音を漏らしながら時に楽しく、時にしんみりと混じり合う。
これまでの入院生活では得られることのなかったこれらの体験は、患者にとってこのカフェに訪れる大きな動機となる。もちろん体調が悪いときは来られないし、気が乗らないときもある。でも、カフェ開設当初は病院勤めだった廣田さんや、病院に勤務しながらここいまを支える北村さんら数名の看護師たちも、「今日はここいまに行かないの?」と自然にアシストするなか、徐々に足が向くようになる。そうして一進一退を繰り返しながら、病院のなかでは「患者」という立場が強く働いてしまう状況から脱する「居場所」を、カフェで出会った具体的な◯◯さんとのつながりというカタチで獲得してゆくのだ。
僕が定例で行なっている「暮らしと表現の私塾」の様子。長期入院患者さんとの出会いをきっかけに、地域住民も交えて。映画や文学や音楽を鑑賞して語り合う。
そして時が経つにつれて、Facebookには「理想の場づくり」に対する明確なメッセージも見られるようになる。
まちでつどう。
まちに出かける。まちから帰る(病院へ?)。
やがて、このまちで暮らそう・・となる。
そんな仕掛けをもっともっと考えたい。(中略)
(オープンから約5カ月後。小川さんの個人アカウントからの2016年5月16日の投稿)
うれしかったお話し二つ。
一つめ。
「就職が決まった」と報告に来てくれた人がいる。
就職活動に踏み出せた要因の一つは「ここいまがあったから」
Caféここいまのボランティア(バザーや出張販売のお手伝いなど)が、「自信につながったと思う」ですって!
二つめ。
「ここいまがあるから、ホント助かってる」という人がいる。
「一人でいると(いろんな事考えて)あかんねん」
ボーダレスな居場所づくりがビジョン。時々これでいいのかしらと妙な気分になることがある。それぞれの人にとっての居場所は、時にいろんなものが結合したよくわからないエネルギーとなってCafeを覆うことがある。けど、人の集まる場って、それが「普通」なんでしょ、きっと。
こんな素敵な言葉を聴けたりするのだから、これでいいのだろうと前を向く・・笑。
(オープンから1年約4カ月後。小川さんの個人アカウントからの2017年4月18日の投稿)
…… 看護一筋、やむなく管理も一生懸命取り組んできたわたしとしては、地域、福祉は真っさらさらの領域。というのも変ですが、それぐらい、病院という箱の中でのみ私は生きていたということです。(自戒を込めて)
ということで、理事会をオープンにすることにしました。福祉の先輩たちを含め多彩な人たちからご意見いただきたい!
そんな気持ちを察してか(笑)、いいままで交流があった人がさらにその友人の方を誘って下さったりで、なんと!20名を超える方がご参加くださいました。
私としては、いくつかの迷いが晴れ、新たに工夫が必要なことも理解でき、まさに おめでたく おめでたいという名の就労B開所に向けて突っ走れるわ。……
(オープンから1年約7カ月後。小川さんの個人アカウントからの2017年7月21日の投稿)
「おめでたい」開設と同時期に始まった「オープン理事会」の様子。毎月開催し、障がいの当事者や看護師、福祉やまちづくり関係者や地域住民が混じり合って意見交換。
カフェ開設から2年。やがてリサイクルショップ「ぜろ」(もともとは入院患者のひとりのある夢を叶えるために行ったバザーから派生)がオープンし、そして精神障がいのある人々の働く場として就労継続支援B型事業所「おめでたい」もオープンするなど、より多様なチャンネルで居場所づくりを行っていくことになる。
ここまで書いて改めて。まず小川さんたち看護師が「病院から地域に出てゆく」という相当な覚悟を要する決断をしたそもそものきっかけはなんだったのか。そして、地域に出たあとに、彼女たちの「支援」はどう変わり続けているのか。この「前夜的アクション」とそこから立ち上がったカフェ運営を手始めに継続中の「未来に向けたアクション」を織り交ぜながら追っていこうと思う。次回は、まず前夜的アクションとなった、長期入院患者と看護師とプロカメラマンによる類まれな写真プロジェクト「ココ今ニティ写真展」について、書いていこう。
(つづく)
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コメント:
*1:平たくは長期入院患者の方々のことであるが、この言い回しについての厳密な意味は次回紹介。
*2:ボランティアで関わっておられる看護補助者。
*3:近所で自宅水族館を営むこの地域のキーパーソン。以前から僕との個人的な付き合いもある。次回以降紹介。
*4:大西暢夫氏とココ今ニティ写真展。詳細は次回。