③ 人生の最終段階の医療・ケアの方法や医学的処置について学ぶ

回復の見込みのない終末期の状態となったとき、医学的処置をしてもらい、できるだけ長く生きたいと望む人たちがいる一方で、機械につながれることは望まないという人たちもいます。これらの医学的処置や医学用語について知っておく必要があります。

 

④ あなたが決定できなくなったときに、あなたの代わりに医学的決定をしてくれる人(代理決定者)を決める

誰があなたの意向を尊重して、それに沿った医学的な決定をあなたの代わりにしてくれるかを、慎重に考えてください。それは、きょうだいかもしれませんし、成人したあなたのお子さんかもしれませんし、信頼できる家族や友人であることもあります。この方、もしくは方々を、あなたの代理決定者と呼びます。代理決定者は一人である必要はありません。たとえば、妻と長女で話し合って決めてほしい、などのように、複数の人となることもあるでしょう。

 

⑤ 話し合いを始める

いよいよあなたの代理決定者、家族、そしてもし必要ならば適切な医療従事者と話し合いを始めましょう。代理決定者は、あなたが受けたいと考えるケアの内容が詳しくわかるこの話し合いをすることが、つらいと感じる場合もあれば、逆に安堵を感じることもあります。あなたがプランを文書にした際は、そのコピーを代理決定者に渡しておくようにしましょう。あなたの主治医やケアにかかわる医療福祉従事者、法律家、家族、友人などにも話しておきましょう。

 

⑥ 話し合いの結果(あなたの意向)を文書にまとめる

あなたが生存を望むことができない終末期の状態になったときに、何を望むかについて書き留めておきましょう。たとえば、機械を使ってもできるかぎり生きることを望むのか(たとえば、人工呼吸器や血液透析など)、まずはそれらの機械を使ってみてその後で続けるかどうか考えるのか、もしくは痛みやつらさをとることを主眼にしてそれ以外の医学的処置は望まないのか、などです。また、人生の最終段階におけるさまざまなケアに関する希望についても、書き留めておくことがよいと思います(たとえば、家で最期を迎えたいか、ホスピス・緩和ケアを受けたいか、音楽をかけてほしいか、など)。

 

 

「人生の最終段階における私の希望」を書いてみましょう

 

次の表の質問に答える形で、あなたの医療・ケアに関する気持ちや意向を記載していきます。よく考え、あなたの代理決定者と話し合ったうえで、質問の答えを記入してください。この用紙に書いた内容は、いつでも変更が可能です。変更するときは代理決定者と話し合ったうえで変更しましょう。

 

 

人生の最終段階における私の希望 1. 代理決定者について『ひとのいのち』は自然の災害や事故、急病で突然危険にさらされることがあります。危篤の状態になると、ひとは自分の意思を伝えられなくなることがあります。今後もし、危篤の状態になって、自分の治療やケアについて、ご自分の考えを伝えられなくなったときに、あなたのことを一番よく知っていて、あなたの代わりに治療・ケアについて判断してもらいたいと考えるのは、どなたですか? その方の氏名(         ) あなたとの関係(      )連絡先〈電話番号〉(          ) 2. あなた自身の心と体の健康にとって最も大切なことは、どのようなことですか?(例:誰かに頼ることなく生きることができること、痛みやつらさがないこと、意識がしっかりしていること、話すことができること、など) 3. このような状態になったら、それ以上の延命を望みたくないという状況はあなたにとってどのようなものですか?(例:周囲の人と会話することができない、生存が望めないにもかかわらず機械につながれている、自分の体を動かすことができない、など) 4. 死を迎えるにあたり、心配になっていることはありませんか?(例:息ができなくなるのではないか、痛いのではないか、ひとりぼっちになるのではないか、尊厳が失われるのではないか、など) 5. 死が近くなったときに、あなたの心を穏やかにしてくれるのはどんなことですか?(例:家族や友人がそばにいる、家でそのときを迎える、好きな音楽をかけてもらえる、など) 6. 人生の最終段階の医療・ケアにかかわる考えや信念・宗教をもっていますか?具体的にお書きください  (特定の医学的処置に関する考えなどでも結構です) 7. その他の意向や希望(人生の最終段階であなた自身を他者が理解し支えるために役立ちそうなことがあれば何でも書いておいてください)   記載年月日:  本人署名:  代理決定者署名:  話し合いに参加した人:  話し合った日:

 

 

◉ 資料

>> 神戸大学「人生の最終段階における医療体制整備事業」プロジェクト

>> 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(改訂 平成30年3月)

>> 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン解説編(改訂 平成30年3月)

 

 

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連載のはじめに・バックナンバー

 

 

 

 

講義を振り返って

 

担当教授:長江 弘子

(前・千葉大学大学院看護学研究科特任教授、

現・東京女子医科大学看護学部看護学研究科教授)

 

 

木澤義之先生は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)を日本で初めて解説された方であり、米国ウィスコンシン州にある「Respecting Choices®」プログラムを受けてACPファシリテータの資格を得た初の日本人でもあります。そして今年、わが国におけるACPのあり方を一つのしくみとして創り上げてくださった方です。

 

木澤先生には「生きるを考える」の講義に2007年から3年間、また2011年から4年間にわたって来ていただき、2011年の講義でその頃まだ新しい言葉であったACPについて学生たちに話してくださいました。本記事で紹介しているように、深刻な状況を例示しながら「自分がその家族であったらどう考えるか」という問いかけをされました。

 

学生たちにしてみれば思いがけない質問であり、「どうすればいいのか」と一瞬にして教室の空気が止まったように感じたことを覚えています。誰にも必ず訪れる死ですが、老いることも病気で死ぬことも、多くの若者にとっては縁のない状況です。ですが、お父さんやお母さんが、お祖父さんやお祖母さんが、突然に意識混濁の状態になったらどうするかという問いかけによって、それは平穏な日常が一変する瞬間として予測のできない事態であることを悟ることができます。また延命治療の是非を考えることで、自身も一瞬にしてその当事者になりうるのだと、リアルな現実を実感する機会になったのは言うまでもありません。

 

そして木澤先生は、だからこそ前もって「もしものとき」の話をしておく必要性を、熱く語ってくださったのでした。

 

この講義を通して、先生が臨床医として向き合う患者・家族の苦悩を少しでも和らげたいと願う気持ちの強さが伝わりました。いつか来る死について考えることは、家族や友人、身近な人の存在の大事さを感じることです。それらの人々と話をすることの大切な意味を、若者たちに教えてくださったと思います。

『「生きる」を考える〜自分の人生を、自分らしく』(長江弘子編集、日本看護協会出版会、2017年6月20日刊行)>> 詳細はこちら

エンドオブライフケアを考える

すべての方へ

 

 第1章:人間の生と死

 第2章:人生と出会い

 第3章:病とともに生きる人生

 第4章:暮らしと医療

 

「生きる」を考えることは……自分の人生を自分が主人公になって切り開き、主体的に創りあげていく姿勢や態度であり、原動力であろうと思います。人と人とのかかわりの中にある生と死を学ぶことそのものではないかと思います。(長江弘子「発刊に寄せて」より)

本書の詳細

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