臨床と研究のコラボレーション

任:いま実習指導の現場では、学生を指導するために教員が入り込んでいますよね。現場のナースには新人だけでも手がいっぱいで、学生を指導する余裕なんてほとんどないですから。もちろん学生の質保証のために病院側もカンファレンスを行ったりしながら丁寧な指導をしてはいますが、教員のサポートがないと十分ではない。でも教員の本音を言えば、病院にもっと任せてしまいたいというのが正直な気持ちでしょう。そうできないのは、学校で教育していることと現場での実践の間にある違いを、自分たちが学生に「翻訳」する必要があるからです。では、両者横たわる乖離を埋めるにはどうすればいいのか。私は、教員が学生と一緒にケアにあたっている時間を、病院の業務カンファレンスとか基準づくりなどを一緒に考えることに充てられればいいと思うんです。教員は「学生の指導も済んだら学校に帰って研究だ」じゃなく、自ら看護活動に参加した病院に学生を送る、という形が必要だと思います。

 

牧本:アメリカのジョンズホプキンス大学やミシガン大学などの附属病院では、卒業して臨床に就いた優秀なナースを実習の間、雇用するんですよ。そうすることで現場は大学が持っている最新の知識を学ぶことができる仕組みです。

 

任:それはいいですね。臨床ナースは大学というリソースを現場に活かし、教員は現場を離れても臨床の感覚を忘れずにいられるような、相互にとってメリットのある関係づくりを実現したいですね。

 

牧本:そうですね。実践を変革するためにどのように必要な情報を入手し、どのように議論をして現場に適用していくかといった面で、スタッフ個々やチームの自律的な成長をサポートしながら、自身は研究者として現場と密接な関係を築くことができています。

 

任:看護師はやはり、実践家として言われたことだけをやるのではなく、自ら発信する力を身につけていく必要があると思います。日々目の前のことでせいいっぱいの状況を続けているだけでは、前へ進むことができません。これは繰り返し申していますように、当人だけではなく環境や仕組みを変える必要のある問題ですね。

 

牧本:臨床家と教員の連携にはそれぞれの雇用形態も大きく作用します。アメリカでは教員が臨床から離れすぎてしまったことが問題になり、例えば全労働時間の2割は病院で働いて、その部分の給与は病院から支給されるような自由さがあります。連携が決してボランティアじゃないんですね。

 

任:日本も大学がこれから変化していくかもしれません。年棒制が導入されるところも出てきそうですし、京都大学の場合も職務として、附属病院では教員が勤務時間内に附属病院で働くことも可能で、現場のナースが非常勤講師として学生に講義をすることもできます。少しずつですがだんだんいい方向に向かっているのではないでしょうか。どちらも人手不足の中で、これをうまくやっていくモデルづくりをがんばらないといけないのですが。また、文科省の「看護職キャリアシステム構築プラン」でも、大学とその付属病院間の人事交流を前提としたさまざまな計画に資金を提供しており、つまり国としてこの課題に問題意識を持っているということです。

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