ウェルビーイングを考える

対話と共感、自律的な価値の生成について

はじめに

 

インターネットにおけるコミュニケーションの広がりと深化、あるいは人工知能の急速な進歩と応用がもたらす未来について一般的に語られることの多くは、イノベーションへの信奉かもしくはそれに対する脅威論が中心であるように思えます。

 

情報技術の革新は、必ずしもその一つひとつが目に見える形でジャッジされ、社会的に承認されていくわけではありません。むしろ多くの場合、それらは気づけば私たちの生活に浸透し、よくも悪くも無くてはならないものとなっていきます。意識する・しないにかかわらず、利用者である私たち一人ひとりが自律的に選択できる余地はごく限られているのです。

 

あらゆる技術の前提には人間の設計や思想があります。情報技術が社会にこれほど多大な影響を及ぼすようになった現在、国家の政策や法律などと同様に、その背景を支える理想や倫理に注意を向けることは非常に重要です。とりわけヘルスケアの観点から眺めていく必要性はより大きいのではないでしょうか。

 

起業家であり情報学研究者のドミニク・チェンさんと、カフェ型ヘルスコミュニケーション「みんくるカフェ」などの活動で知られる医師・孫大輔さんに対談をお願いし、それぞれの分野で人々の健康〜ウェルビーイングを包括的に考える意義について語り合っていただきました。

孫 大輔 そん・だいすけ

1976年佐賀県出身。東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター講師、日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医、一般社団法人みんくるプロデュース代表理事。プライマリ・ケア、家庭医療、ヘルスプロモーションが専門。医学教育および研究に携わりながら、家庭医としての勤務を続けている。研究テーマはヘルスコミュニケーション、医学生の共感とコミュニケーション教育など。2010年8月より市民・患者と医療者がフラットに対話できる場「みんくるカフェ」を主宰。また2015年より東京の下町である谷根千(谷中・根津・千駄木)をフィールドにCBPR(市民参加型アクションリサーチ)を進めている。へるす出版「在宅新療0-100」2017年6月号の特集「対等な関係性って何だ!? 医療者のコミュニケーション考」を企画構成。

ドミニク・チェン どみにく・ちぇん

1981年東京生まれ。早稲田大学文学学術院表象メディア論系准教授、株式会社ディヴィデュアル共同創業者。UCLA School of Arts & Architecture, Design/Media Arts (B.A.)、東京大学大学院学際情報学府修士、博士(学際情報学)。主な監訳書に『ウェルビーイングの設計論:人がよりよく生きるための情報技術』(BNN、2017)、著書に『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック:クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社、2012)『電脳のレリギオ:ビッグデータ社会で心をつくる』(NTT出版、2015)などがあり、写真アプリ「Picsee」、コミュニティアプリ「シンクル」でApple「Best of Apps」を受賞。7月4日に松岡正剛氏との共著『謎床──思考が発酵する編集術』(晶文社)を刊行。

孫さん・ドミニクさんの近著

在宅新療0-100 2017年6月号「対等な関係性って何だ!? 医療者のコミュニケーション考」

孫大輔 企画・構成(へるす出版)

患者中心の医療の方法、対話モデル、患者のナラティブ、傾聴の技法、FTE(Emotion Focused Therapy)、「共感」の技法、オープンダイアローグ、終末期ケアと死生学、コミュニティとの対話と協働など、先進的な取り組みやモデルを通して「対話と共感」の本質を浮き彫りにされています。>> 詳細

 

謎床──思考が発酵する編集術

松岡正剛 × ドミニク・チェン 著(晶文社)

情報はどう育まれ、多様な変化を起こしていけるか?  ITと編集力が融合すると何が生まれるか? 定義済みの意味が溢れる社会の中で、内在的に意味を“発酵”させるために必要な「謎」を探り出し、それらに向き合う両氏の対話を収録。今回の孫さんとの対談にも登場する「共話」や「見立て」といった日本的なリアリティについて、普遍的な学習論やコミュニケーション論につなげて論じられています。>> 詳細

 ◉ 2018年2月9日刊行

『対話する医療─人間全体を診て癒やすために(孫大輔著、さくら舎刊)>> 詳細

>> 協力:COUZT CAFE + SHOP

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