連  載

「まなざし」を綴じる

─ZINEという表現のかたち

第3回:他者をまなざすZINE

藤田 理代

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掌の記憶 ─ 音川』より

   第3回:他者をまなざすZINE

他者をまなざすということ

 

「自分の家族の記憶も綴じてほしい」という言葉をいただくようになったのは、祖母の遺品を綴じたZINE『otomo.』の展示を始めた頃でした。身内だからこそ触れ、綴じることができた、遺された家族の心に浮かぶ故人との記憶や伝えられなかった想い。誰に向けられるでもなく微かにこぼれ落ちた語り、つまりは喪失を経験してはじめて語りとして表出した言葉たちを、静かに集めて見つめなおし「綴じる」という行為で本の中に留め、そっと置く。その本が読み手の心の中に沈んでいた記憶をも呼び起こして共鳴し、依頼へと繋がっていきました。

 

一方で「家族の記憶」といった繊細なものに他者が触れる、さらにはそれを預かり綴じるという行為をどのようにしてかたちにするのか、とても悩みました。家族が共にした時間と同じだけの厚みをもって、僅かな時間を共にしたにすぎない他者が綴じることは難しい。そのうえ相手の方の気持ちに不用意に踏み入り傷つけてしまうようなことがあってはいけない。

 

中には、なるべく早く本にして贈りたいという切実な理由のある方もいらっしゃいました。適切な間をつくり、お互いが無理のない時間を持ち寄って、なるべく早くその想いに応えることができるかたちはないか。そのような想いから試行錯誤で始めたのが、“大切な記憶”を預かり、掌におさまる豆本に綴じて贈る「掌(てのひら)の記憶」という活動でした。

 

 

「掌の記憶」- tenohira no kioku –

 

たとえば あなたやご家族が

ずっと大切にしてきた暮らしの品

心をこめて作った手しごとの品

心の中にある大切な記憶

 

いつかは消えてしまうかもしれない

けれども100年先にも遺して伝えたい

掌に触れてきた大切な品々や

あなたの記憶はありませんか?

 

「掌の記憶」はそんな記憶の欠片を

ZINE作家 michi-siruveが拾い集めて

和紙に綴じてお贈りする

小さな手づくりの本です

 

その土地 その家 その品に宿る記憶

そして心の中にある大切な記憶を

写真におさめ 言葉を紡ぎ 本に綴じる

 

本は2冊綴じ 1冊はお贈りして

もう1冊はmichi-siruveがお預かりします

 

手にとり眺めることのできる

掌におさまる記憶の欠片が

ふとした時に 過去の記憶や今を見つめ

未来へと続くみちしるべとなるように

 

掌から掌へと記憶をつなぐ

この「掌の記憶」を贈ります

掌の記憶 ─ はじめに』より

 

 

この文章は、2015年の秋に「掌の記憶」を始めるにあたり、案内に添えたものです。この言葉に共感してくださった人からのご依頼で、さまざまな人たちの故郷や暮らす町を巡りながら「大切な記憶」を預かりました。

 

たとえば1冊目の音川篇は、生まれ育った富山を離れて10年以上になるお孫さんからのご依頼で、故郷で暮らすおばあさまの家まで伺い、暮らしの品をおさめたもの。2篇目の御手洗篇は、広島の大崎下島にある小さな港町を訪ね、江戸時代から続く町並みや3軒の古いお家に眠る記憶を1篇にまとめました。15篇を越えた頃から展示を始めると、本を手にとった方からも「私の家族の記憶もお願いしたい」とご依頼をいただくように……。

 

お孫さんからのご依頼で、和菓子職人だったおじいさまの記憶を綴じた守口篇、おじいさまの代から続くダリア農家のお孫さんからのご依頼で、ダリア産地の村の記憶を綴じた上佐曽利篇、ご家族が他界されてからの10年を、ご自宅にある思い出の品をもとに振り返った鞍馬篇、息子さんの絵画作品から親子で歩んだ23年の記憶を辿った伊丹篇、あるいは東日本大震災の後、宮城県の牡鹿半島でOCICAというアクセサリーづくりを続けている3人のお母さんの制作の様子をおさめた牧浜篇のように、私が本を手渡しながら伝えていきたいと感じ、こちらから取材をお願いして綴じたものもあります。この「掌の記憶」をつくりながら大切にしていることを中心に、「他者をまなざすZINE」のプロセスの一例をご紹介します。

 

 

掌の記憶 ─ 牧浜』より

 

流れに委ね、そっとまなざす

 

プライベートな空間で、大切なものを写真におさめる。その人の輪郭に直接触れるほどの距離でまなざすこの取材では、流れに委ねるということを最も大切にしています。案内された場所にそっと腰かけ、暮らしのリズムを乱さぬよう、進行はご家族や友人など本の依頼者に委ねる。時には一緒にお茶やご飯をいただいたり、お餅つきをしたり、お風呂に入ったり、お手伝いもしながら、流れに身を委ねます。

 

大抵いつの間にか始まっていく撮影は、1台の小さなカメラで、照明なども使わずスナップ撮影。とにかく目の前の流れを断ち切ることがないように一瞬一瞬をおさめることを心がけ、改まって声をかけたり、対象を動かすこともほとんどしません。撮影のためにやむを得ず場所を移動させる場合も、極力私は手を触れずにご本人に移動を頼み、目の前に置かれたありのままをおさめます。

 

その人の暮らしの一瞬を、少し離れた他者からのまなざしで写真におさめる。「何だかええもんみたいに写ってるね」と喜ばれたり「埃一つもいとおしく感じます」とお言葉をいただいたり。そうした言葉に「そのままおさめただけですよ」とお返事できる瞬間が、一番嬉しい瞬間でもあります。

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