2014年10月28日、千葉大学普遍教育教養展開科目「生きるを考える」で行われた木澤義之氏の講義「アドバンス・ケア・プランニング~もしもの時について、患者家族と話し合いを始める~」より。全文(完全版)は当社書籍『「生きる」を考える〜自分の人生を、自分らしく』(>>詳細)に掲載されています。
あなたへのメッセージ
いのちの終わりの1日、1週間、1カ月、1年をそれぞれどのように過ごすかを考えたことがありますか?
人のいのちははかなく、弱いものです。すべての人は老いと死を、そしてほとんどの人は病気を体験します。この10年間、高齢化の進行に伴い「終活」「エンディングノート」などの言葉をよく耳にするようになり、人生の最期をどのように過ごすかについて注目が集まってきています。
それでは、いのちの終わりの1日、1週間、1カ月、1年に、どこでどのような医療・ケアを受けたいかについてはどうでしょうか? ご家族やご友人があなたの代わりに気持ちを代弁することができるでしょうか?
多くの人は「家族のいいようにしてもらったらよいから」などとおっしゃいますが、逆に家族の立場になってみたら、「(愛する人のために)できることは何でもしてあげたい」という気持ちになりませんか? この「できることは何でもしてほしい」を医師が家族の口から聞くと、多くの場合「医学的に可能なことはできるかぎりする」方針を家族が希望していると受け取られます。
その方針が、患者にとって一番よいだろうと推定されることと合致するときは問題ないのですが、しばしば「患者にとっての最善」と「医学的な最善」は食い違うことがあります。そうなると「患者にとってはしてほしくない医療」が行われてしまう、そして始めたものは止めることができない、というような状況になることがあるわけです。
では、どうすれば人生の最終段階(ここではいのちの終わりの1日、1週間、1カ月、1年のことを、そう呼ぶことにします)において、自分が望む医療・ケアを受けることができるのでしょうか? それには「もしものとき」に備えて、いのちの終わりをどう過ごすかについて話し合う必要があります。この話し合いを、アドバンス・ケア・プランニングと呼びます。
アドバンス・ケア・プランニングとは?
アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)とは、将来もし自分が治療やケアに対して判断が難しくなったときに備えて、あなた以外の人に、あなたがどのような医療やケアを望んでいるかを知ってもらうことを目的として、あなたの大切にしていることや望みについて、自分自身で考えたり、他者と話し合ったりするプロセスのことです。それは家族や友人、代理決定者(意思決定が難しいときにあなたの代わりとなる方)と話し合うことを意味します。
具体的に何をしたらよいのでしょうか?
次のことを想像してみてください。
繰り返しになりますが、アドバンス・ケア・プランニングは、あなたが自分自身について話すことができなくなったときに備えて、あなた自身と代理決定者(多くの場合あなたの近しい家族や友人)があなたの信念や価値について、そして終末期にどのような医学的な処置を望み、または望まないかについて話し合うことを指します。また、そのときに誰に囲まれてどのように過ごしたいかについて、話し合うことでもあります。
これらの話し合いを行い、プランを立てておくことで、あなたの考え方や信念・価値が共有され、代理決定者は困難なときに自信をもって、あなたのための判断をすることができるようになります。この話し合いの結果は、いつでも変更することができます。あなた自身がどうしたいのかを慎重に考え、そしてあなた自身の「いのちの終わり」の医療・ケアについて話し合いを始めましょう。
どのように始めるのでしょうか
① いのちが限られているとしたら、自分にとって大切なものは何かを考える
もし生きることができる時間が限られているとしたら、あなたにとって大切なことはどんなことでしょうか? たとえば、次の中から選んでみて下さい。回答は複数でもかまいません。そして、その理由も書いてみましょう
□ 家族や友人のそばにいること
□ 仕事や社会的な役割が続けられること
□ 身の周りのことが自分でできること
□ できる限りの治療が受けられること
□ 家族の負担にならないこと
□ 痛みや苦しみがないこと
□ 少しでも長く生きること
□ 好きなことができること
□ ひとりの時間が保てること
□ 自分が経済的に困らないと
□ 家族が経済的に困らないこと
□ その他(具体的に書いて下さい)
② あなたにとってどのような治療・ケアが最も適しているかを考える
薬物治療や心肺蘇生、血液透析のような医学的処置や終末期ケアについてのあなたの考えや価値、理解について深く考えることから始めましょう。これらについて、あなたが今までに経験したことすべて(たとえば友人や家族との経験やテレビ・映画で見たことでもよいので)について、どのように感じたかを考えてみましょう。同時にあなたの主治医や親しい医療・福祉従事者に、自分が医学的処置について正しく理解しているか確認してみましょう。
木澤 義之 きざわ・よしゆき神戸大学医学部附属病院緩和支持治療科特命教授、「厚生労働省委託事業人生の最終段階における医療体制整備事業」実施責任者、特定非営利活動法人日本緩和医療学会理事長。総合診療・緩和ケアを専門とし、特にアドバンス・ケア・プランニングに興味をもって実践を続けている。
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