「Nursing Today」2013年12月号

[Web版]対談・臨床の「知」を発見しよう! vol.5

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ボスの“ムチャぶり”から始まった

 

吉田:先生とは2012年に神戸で開催された日本保健医療社会学会のセッションでお会いしたのが初めてですね。この学会は社会学系の研究者と保健医療系の研究者が、互いにそれぞれの専門分野の垣根を越えて「越境」して学び合う場ですが、吉村先生には「チーム医療教育をどうするか?:チーム医療の時代の従事者教育」というシンポジウムにご登壇いただきました。

 

吉村:はい。そこでご一緒した社会学者の三井さよさん(法政大学社会学部)は、吉田先生ともご親交が深いですよね。三井さんにはその後、私たち地域医療振興会が発行する「月刊地域医学」の10月号(Vol.27, No.10, 2013)で、私がエディターを務めた特集「地域医療への学際的接近」に原稿を寄せていただきました。

 

吉田:そうなんですか。この対談もいよいよ次回が最後なのですが、最終回は三井さんにご登場いただく予定です。さて、先生がそのように「越境」にこだわっておられる理由は何ですか?

 

吉村:現場で求められている人材が明らかに変化してきているのに、僕らが教わってきた従来の教育や、専門教育の問題解決型のアプローチなどが、その状況にうまく噛み合わなくなってきているためです。今までの枠を取り払って外の世界から何かを持ってくる必要があるし、多様な人を動員して知恵を結集しないと今後の問題を解決できないのではと感じていて、その気持ちを同じ地域医療の仲間に届けたいんです。

 

吉田:先生は都会よりも医療的な人員や資源の少ない地域医療こそが、今最も最先端の医療・ケアを行っているんだと感じながら、IPW・IPEを中心とした、たくさんの注目すべき取り組みを重ねておられます詳細は本誌を参照)。いったいどのような経緯でここまでの仕組みづくりを成し遂げられたのでしょう。

 

吉村:そもそもは、僕のボスである山田隆司先生(地域医療振興協会地域医療研究所所長)や故・五十嵐正紘先生(元自治医科大学教授)が「ここでただ地域医療をやるだけではなく、人を育てろ」と言われて、教育をミッションの柱に据えたんです。でも15年前に僕が着任した時はそういう経験がほとんどなかったので結構苦しかった。最初は「従来型」の教育しかできないし、現場も見学させるだけでした。でもそれでは学生や研修医たちがつまらなそうにしていたので、イギリスやアメリカの家庭医が書いた本などをチラチラ読んだり、イギリスに指導医の勉強に行くチャンスがあったりして、そうして学んだのが“どんどんやらせる”と“チームの一員として扱って仕事を任せる”、そしてもう一つが“地域の中で医療を教える”でした。あと"Outside the Wall ”ですね。それまでは"Inside the Wall"でなおかつ見学主体だったから、これではだめだなと(笑)。

 

吉田:「従来型」の教育とはどんなものを指すのか、もうちょっと具体的に聞いていいですか?

 

吉村:クリニックで、実際に診察している場に一緒にいてもらって、地域医療の場を見せるんです。とくに医学的に興味深いケースを選んで「どうだっ!」って感じで(笑)。自分もそうやって教えられてきたし、また「教育すること」自体については逆に何も教えられてこなかったから。それにまだ地域医療の現場で働く自分たちのアイデンティティをつかめていなくて、「こうだよ」って自信を持って言えるものがなかったんです。

 

吉田:地域医療に携わる医師が、現場でどんなふうに診断し治療していくのか、そういう医師としての実践の「見学」が主題だったんですね。

 

吉村:あと何が欠けていたかというと、リアリティなんでしょうね。例えば「この患者さんに朝昼晩の薬を出しても、たぶん忘れちゃうだろうな」とかいうような部分を全部カットしてたんです。学びに来ている相手にある意味で迎合していたんでしょう。でもそれがある時から苦しくなってきた。なんか嘘ついてるようだし、イギリスやアメリカの地域医療ではそんなことしていないんだし。Independent visitと言って、来診してきたおじいさんの家までついて帰ったりとか、そういうのってありなんだなって考えたら「これって最先端医療かも」とか思い始めて(笑)。それで実際にやらせてみると彼らが生き生きとしてくるんですね。患者さんも「一緒に来てもらってありがとう」って喜んでくれるし、そこでもうWin-Winが発生してるわけです。

 まわりのスタッフも、最初はそのような教育に対しては「ノー・サンクス」だったんですよ。でもカルテ運び係だとか調剤を手伝うとか、自分たちの仕事が少し楽になるような戦力として彼らの立ち位置をはめ込むと、結構みんな機嫌がよくなってきました。最初は苦し紛れで自分のそばから離すために仕込んだんですけどね。「あー楽になった」って(笑)。もちろんこういうやり方に不満を持つ学生もいるんですが、でもそういうフィードバックをもらいながら、実験と検証を繰り返し続けたわけです。

 

吉田:試行錯誤の連続だったんですか……。

 

吉村:まあ、山田先生と五十嵐教授のムチャぶりだったんです(笑)。教育なんてやったこともないのに「◯◯大学から学生受け入れたからね。あ、明日から来るから」とか言われて(苦笑)。でもすぐに煮詰まっちゃって、必要に迫られて苦手な英語の論文を読み始めたんです。

 

 

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