対談

03

積み重なり、つながっていくのが

研究の醍醐味

 

川島:第2版の「はじめに」で菱沼先生が書かれていますけど、研究への関心が高まっているとはいっても、今でも看護には伝承の技術、狭い範囲だけで行われている技術が多い。また、いざ根拠を明らかにしたいと思っても、その方法がわからないという現実があります。

でもね、約140万人いる看護職のうち、病院で日々、臨床実践をしている人が圧倒的多数なんです。その人たちが本気になって看護技術を探求すれば、すごいパワーになるはずでしょう?

 

研究って、部屋に閉じこもって難しい文献を読んだから生まれるものじゃなくて、現場の混沌とした環境で、そして変数がたくさんある中での疑問や疑念から始まるもの。研究の動機は皆「いい看護がしたい」ということですから、そのナースの人間性がもろに現れるんです。

この本は、従来の看護研究の本と違って、そういう研究者の思いや人間性が何となく感じられる点がユニークです。読み物としても面白いと思いますね。

 

菱沼:初版は、「看護にこんな現状がある、なぜだろう」と考え始めたハシリだったと思います。結果はまだ出ていなかった。今回の第2版は、ある程度の結果があって、さらに研究の積み重ねがみえるところまでいっています。

 

研究って、一つやってそれで何かがわかってしまう、終わってしまうというものじゃないですよね。自分の関心が変化していくし、一つの結果から次、また次というように研究がリンクして、つながっていく。そして「現場から上がってきた疑問を裏づける」「現場に返す」「現場の人と一緒に研究する」「現場に研究者が入っていく」というように循環していきます。そういう意味で、初版に比べて、研究の導入書としても、読み物としても格段に充実したと思います。

 

川島:【第3部:臨床での疑問から始まる看護研究】には、現場の方のヒントになることが本当にたくさんあると思います。「モーニングケア」なんて、ナースによっていろいろなやり方があって、変数も多様でしょ。そういうものをひとくくりにして効果をみようなんて、看護研究でないとできません。ナースでなければ、まず発想が浮かばないわね。

“根拠はわからないけどよさそうな技術”というのは、何かエビデンスがあるはずで、検証に値するテーマです。この本からは、そういうヒントがたくさんつかめると思います。

 

研究を一つやって、もう終わったという人もいますけど、それは入口に立っただけです。「これで終わり」というのがないのが研究で、そこが苦しいところであり楽しいところ。始まったばかりの研究であっても、ある程度完成された研究であっても、質は違っても、らせん階段をのぼるように研究はつながっていくんです。

 

 

臨床の疑問を語れる

ナースへの期待

 

菱沼:私の大学院生時代に、文献を一切見ないで、自分が「不思議だ、知りたい」と思ったことをとにかく実験してみる解剖学の教授がいらしたんです。結論がみえてきて初めて、論文にまとめることを視野に入れて先行文献を調べる。

 

この先生には「研究ってそういうものだよ」と教えていただいた気がしますし、自分の関心・興味に従ってものごとを探求していくときの、ごく基本的な姿勢だと思います。

 

看護界では、研究のルールとして、まず文献を読むことを教えます。そのこと自体、間違っている訳ではないけれど、誰かがやっている研究で納得するだけでなく、たとえ発表できなくても、自分でやってみるという、一見無駄な寄り道ができないと、これからの人材が育たないんじゃないかという気がします。

 

川島:そういう意味では、研究はできなくてもいいから、“臨床の疑問を語れるナース”がもっと増えてほしいと思うんです。そこから、研究者にとってすごくいいヒントが見つかるのよね。

 

菱沼:そうですね、いま、臨床の疑問を語る場がないというよりも、忙しさの中で疑問が意識化されない状況です。

 

川島:忙しくても、ナースには踏みとどまって考えてほしい。入院期間が短くなって、患者さんの名前を覚える暇もないまま退院させているのが現実で、本当の看護ができていませんからね。

 

菱沼:でも、医療を取り巻く状況がこれだけ変わっているのに、看護の体制が同じままで対応できるわけがないとも思います。患者さんが5日間で退院するなら、ナースも5日間続けて勤務して3日休むとか、曜日ごとに出勤者のシフトを組んで、月曜日の入院者は月曜日のナースがみるとか、それなりの対応をしないと無理でしょう。

この本に出てくる研究も、研究者が大学院生としてじっくり患者に向き合って、密着して観察しているときのデータがあります。そのときはいいデータがとれるけれど、日常の勤務の中で、いかによいケアを継続させるかというのは大きな課題ですね。

 

川島:看護ってお金がかかるし、費用対効果がみえないし、本当は経営効率を考えていたらできないものかもしれない。でも、本来の看護ができるような組織のあり方については、私はこれから発言していくつもりです。あと20年若かったら自分で実践するんですが(笑)。

それはともかく、看護らしい看護をして、その醍醐味を体感するためにも、「ナースである以上は一人ひとりが臨床看護の研究者であってほしい」というのが私の願いです。そういう問題提起をしているという意味で、この本はぜひ大勢の方に読んでいただきたいと思います。

(2013年4月8日/JNAビルにて)

 

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