第2回:デジタルファブリケーション
Fab Nurse Projectによるプロトタイプの数々。
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ここで、いくつか事例を紹介していきましょう。
〈フレキシブルガーグルベイスン〉(製作:若杉亮介)
これは、ガーグルベイスンを柔らかい素材で顔にフィットするように制作したものです。比較的幅広い体型や姿勢に適合するようにつくられている一般的なガーグルベイスンでも、患者さんの吐き出す力が弱かったり、痩せていたりすると横から漏れて失敗することがあり、衣服が汚れるだけでなく自尊心を損なうことにもつながります。
そこで患者本人の顔をスキャンし、顔にピッタリ合う形状を算出して立体モデルをつくり、3Dプリンタで柔らかい素材を用いて出力することで、顔に当てた時でも負担なく使用することができます。
〈吸引練習用ツール〉
吸引を必要とする患者が在宅で過ごす際に、介護者の家族をサポートするために考案されました。写真のものは、以前に作成したプロトタイプ(改良を見込んだ最初の模型)ですが、現在はCTからモデルを生成して(下の写真)より手技の再現度が高いものを作成しています。
呼吸器関連の疾患で吸引を必要とする患者さんの中には、ご自宅で家族が吸引を行う場合があります。病院で指導を受けて退院されることがほとんどですが、疾患の進み具合によっては在宅で技術を習得するケースもあります。そのような患者さんやご家族が安心して在宅での暮らしを続けられることを目指して制作されました。従来からある解剖を学ぶ医療者向けの人体モデルとは違って吸引の手技に絞られたものですが、とても安価に制作することができ、患者さんごとに大きさを変えられるなどの細かい調整が可能です。
〈自助具〉
次はコンピュータなどからUSBケーブルを引き抜くためのツールです。これは神経系の疾患で腕の上下動作は可能でも手を握るなどの行為が難しい患者さん向けに開発しました。USBケーブルはプラグが平らなので、結構つまみにくいつくりになっています。それを指に引っ掛けられるカバーで覆うことで、つまむ力が足りなくても容易に引き抜けるようにデザインしました。
自助具の多くは、生きていくために必要な食事などの支援を目的につくられていますが、自立した社会参加をより円滑に促していくためには、実際の社会生活に必要となるような動作をできるだけ隙間なくサポートしていくことも重要だと思います。
〈プレパレーションツール〉
上の写真は小児用の治療や処置の説明のためのプレパレーションツールを3Dプリンタで作成したものです。従来品であれば、プレパレーションツールは病棟で共有されるものでしたが、3Dプリントで一つあたりの価格を下げることで、一人に一つ説明用に準備することができます。また、稀な処置や治療機器に関しても、モデリングすることさえできれば、必要に応じて作成することもできるわけです。
〈サージカルテープ〉
これはレーザーカッター(レーザービームを用いて素材を彫刻・切断する道具。3Dプリンタとは逆のプロセスでもの成形する)を用いた試作品です。医療に用いられるサージカルテープをさまざまなイラストレーションのデータに基づいて切り抜いています。実際の使用まで至っていませんが、イラストのデザイン次第では点滴固定用テープなどに機能的な工夫ができるかもしれません。
また、病室というパブリックな空間であっても患者さんが少しでも自分らしさを表現したり、好きなものを身につけられるような環境をアレンジし、プライベートな瞬間を生み出すことも看護とものづくりのコラボレーションができる支援の一つではないかと思います。
ケアとものづくりのこれから
以上のように、看護におけるさまざまなものづくりの事例をご紹介しました。これらの作例は患者のニーズを前提に、看護師が行うケアの意図とその工夫を「もの」に込めることで生み出されてきました。
看護ケアは個別性に合わせて提供されますが、大量生産によるものづくりの考えでは、適用できる一定程度の患者数が確約されている領域を対象とせざるを得ません。そうするとむしろ、ポピュレーション・アプローチ(多くの人々が少しずつリスクを軽減することで、集団全体として大きな恩恵をもたらすことに注目する)的な視点で大多数の人々が標準的に抱える課題からものごとを眺めがちです。
しかし、ここでご紹介したような発想に基づく「もの」づくりでは、看護が提供しようとするケアの発想に極めて近い形で行うことが可能になります。それは、デザインやものづくりで支援できるケアの領域をより拡張し、看護ケアの質を飛躍的に向上させる“革命”ともなりうる可能性を秘めているのです。
もしかするとそう遠くない日に、病院の一室に置かれた3Dプリンタから次々と生み出される「誰か一人ため」にデザインされたさまざまな「もの」が、ベッドサイドで当たり前のように活躍する日がやってくるかもしれません。
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