写真:「廃材エコヴィレッジゆるゆる」のサイトより

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すなわち「流動的なネットワーク型の働き方」です。図2にイメージを記しておきました。

 

 

図2  流動的なネットワーク型の働き方

 

 

このように、小さなチーム単位の仕事を自分たちで創造し、さらにそれら複数のチームの仕事を受け持ち渡り歩いていく、いわゆる「創職」や「複業」がより広がっていきそうです。そこでは一つの組織に固定しない働き方、あるいは主たる組織に所属するにしてもそこでの労働時間を大幅に減らし、その分、別のチームをつくってより自由に社会活動を行う時間を増やしていくようなライフスタイルが考えられます。

 

また、こうなると財力よりも人と人との互恵的な関係、つまり社会関係資本が力をもつようになります。多様なジャンルの人々との強弱さまざまな紐帯(ネットワーク)を次々に創出・拡張し、それを巧みに活用する人物が活躍し、一方で関係資本の形成・維持を可能にする情報・社会システムの開発がいっそう進んでいき、その仕組みをうまく活用する人たちがさらに活躍していきます。同じ組織や地域、専門分野の中での人脈だけではなく、多様で異質なジャンルの人々の間の関係資本の創出とその創造的な活用こそが力をもつようになります。

 

実際、私の身の回りでもNPO法人の方や学者、地方議員の中で、このような関係資本の活用に非常に長けた方が活躍していらっしゃいます。彼らはほとんど無償か、もしくはきわめて低額の報酬で共同し協力します。金銭は副次的で「共通の緩やかな関心」のもと「面白さ・愉しさ」や「何か新しいことがやれそうという可能感」が異質な人を結び付けます。そこでまた、新たに知り合うことで一緒に何か面白いことがやれそうという感触が芽生えれば、別の新たな紐帯も生まれていき、互酬的人間関係(という交換形態)はいっそう、派生・伝播していきます。

 

もちろん古くから、ビジネスの業界においてもビジネス(経済利益の獲得)のための「人脈」は従来から重視されてきましたが、これとはまた異なる関係資本のパワーの拡大が予想されます。たとえばビジネスマンが職場外で社会活動に参加する際、そこでは必ず社会関係資本が力を持ちますから、職場外で社会活動を行う人が増えていけばいくほど、翻って職場の労働の内部に対しても、意図のあるなしにかかわらず影響が与えられていくはずです。

 

いずれ他の回で言及する予定ですが、職場外の社会活動に参加されている方々に活動のきっかけをお尋ねすると、職場での権力差や規律や風土へのしがらみ(自由な創造の抑圧)、組織内での閉塞感、専門性や部署間の分断・分化、消費社会への疑問といった点を挙げる方が少なくなく、それゆえ社会活動にはそのような状態を再生産し続ける従来型の社会システムから、どうにか脱しようとする志向性が大なり小なり伴われることになります。こうした活動機会や参加者が増えるほど、周囲に影響を与え、ビジネス業界も自ずとじわじわと変わっていくはずです。

 

ちなみに、社会(貢献)活動が軸というと、何か禁欲的・理性的で、ともすれば偽善的なイメージすらもたれてしまうこともあるかもしれません──実は私もこの用語はあまり好きではなく、暫定的に使っています──。しかし、そこでは金銭の獲得とはまた異なる、次のようなものがモチベーションの軸になり得ます。

 

まず、活動そのものの面白さ。次に、メンバーとともに既存の枠組み(経済資本中心社会や権力者による自由の拘束)を打ち破り新しいsomethingを創造していくプロセスを愉しむことや、自分たちの活動により他者が面白がってくれることで自分も楽しむというという共愉(きょうゆ)感情。そして「自分たちは他者と協同することで自然環境や社会環境をより良い方向に変えていくことができる存在だ」といった意味でのコンピテンシーの発達感。さらに、自分たちの(間接的・直接的な)活動範囲や影響範囲が広がっていくという拡張的主体性。

 

このような「人と人との間から生まれる関係的感情」の創造が持続的なモチベーションになっていきます。また、活動を通して互酬的で親和的な(しかし互いを束縛し合わないような)つながりが生まれ、農村地ではすでに知られているような食材の無償提供や物品類のシェアといった、金銭を介さない(あるいは低価格の)直接的な贈与や財の共有により生活を補い合うような、伝統的な互酬的交換の形態も、さまざまな領域で(新しい形で)復活していきます。

 

現在は、主にNPO法人や社会活動家が上記に該当し得る試みを行っていますが、一般の企業における働き方においても、こうした互酬的な交換形態がいっそう試みられ、広がっていくのではないかと思われます。

 

実際、まだマイナーとはいえ、都心から地方への移住者が既存の価値観を転覆させるようなユニークな活動を始めたり、副業や複業が関心を集めつつあったり(ただし仮想通貨もそうですが、結局は従来型の営利活動の場合もあります)、社内に研修などの一環としてNPO団体の活動を取り入れ連携する動きが生じてきたり、会社の内外で、小さな部活や愉しさを重視したコミュニティをつくるような試みも流行してきており、上記のような働き方が広がっていく土壌のようなものは形成されつつあります。

 

またSNSの一般化により、人と流動的につながり関係をつなぎとめておくネットワーキングが以前より自然かつ容易になったことも、こうした動きの拡大に寄与しています。Wikiなどのピアプロダクションの成功は、流動的で分散的なネットワークのもつ力の裏付けとなり、そのような分散型の集合知という発想の仕方や実践スタイルを普及させました。

 

本連載では今後、新しい働き方や生活の仕方を実際に進めている方たちの事例をご紹介します。どの方々も、たとえ低収入であっても収入が多いケースよりもはるかに生き生きと愉しく生活されています。

 

それらは単に「珍しい人の、もの珍しい生き方」ではありません。また私はこれらを「他益的なボランティア活動」「農村への回帰」「物々交換の社会の復古」「アンチ資本制社会」と、単純に既存の枠に当てはめることに抵抗があります。また宗教そのものを否定するわけではありませんが、少なくともこれらの活動は宗教的なものでもありません。

 

ご紹介する事例には、まだたとえ一部の活動であろうとも、実は資本制の限界を大きく打ち破り、新しくより面白い社会を形成していくような、あるいは未来の社会に必要なものの根幹を言い当て、われわれに問いかけてくれるような重要なエッセンスやポテンシャルが含まれているものと考えています。

 

>> 第2回へ続く

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>> 連載のはじめに・今後の連載予定

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