鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

第 3 回

陰陽の考え方と看護

東洋医学では、森羅万象すべてに陰陽があると考えます。世の中に存在するすべてのものは陰と陽の2つの要素から成り立ち、互いに対立し、かつ影響し合い、そしてバランスよく存在します。バランスがとれた状態のことを、中庸(ちゅうよう)と言います。

 

陰陽の例を挙げると、太陽と月、男と女、右と左……というように無数にあります(表1)。性質としては、陰は衰退・静止・寒性・不変など、陽は亢進・動・熱性・変化しやすいなどです。今回は、陰陽の考え方で人の心と体をどう捉えるか、そして看護にどう活かせるかについてお伝えしていきます。

 

表1主な陰陽の組み合わせ

 

自然の流れと陰陽

 

1日の中にも陰陽があります。夜は陰の時間帯で、陰気が最も強いのが0時、陽気は体の奥にある状態です。日が昇るにつれ、陰陽のバランスは徐々に逆転し、お昼の12時が最も陽気が強く、陰気は体の奥にあるという状態になります。

 

季節も陰陽に分かれます。春分を境に陰から陽に変化し、陽気はだんだんと強くなり、夏至の頃にピークを迎えます。夏至を過ぎると陽気は減少し、秋分を境に陰気に変化します。冬至にかけて、陰気がだんだんと強くなります。その後、立春に向けて陰気は減少していく、というサイクルを繰り返します。

 

人の心身と陰陽

 

もちろん、人の体も陰陽に分かれます。たとえば、お腹側は陰、背中側は陽、体の内側は陰、外側は陽、五臓(肝・心・脾・肺・腎)は陰、六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)は陽、というような具合です。

 

季節や1日のリズム、食事などの影響を受け、体は常に陰陽のバランスを調整しながらよい状態を維持しています。調整がうまくできなくなると、病気になります。食欲旺盛(陽)、小食・食欲があまりない(陰)、暑がり(陽)、寒がり(陰)など、病気ではないけれども、体質が陰と陽のどちらかに傾いていることもあります。皆さんは、陰・陽どちらのタイプでしょうか?

 

人は、生まれたときがいちばん陽気が強いと言われます。赤ちゃんが温かくて、ピンク色なのはそのためです。

 

東洋医学においては、男は16歳、女は14歳で「天癸」(てんき)に至ります。生殖機能を促進する発育物質の「天癸」は、現代医学で言う性ホルモンの作用によって、生殖能力が備わるという考えです。

 

「天癸」に至った段階で、旺盛な陽気が体の深い部分(臓器)に収まり、陰陽が整っていきます。体だけでなく、精神的にも、子どもの天真爛漫な感じから、だんだん落ち着いた大人へと変化していく思春期にあたります。

 

陽気が外向きから内向きにシフトし、陰陽のバランスが変化するため、思春期特有の心の揺らぎや体調の変化が表れやすい時期となります。「口数が減る」「親に八つ当たりする」「嗜好が変わる」などの行動は、自分の心と体のバランスをとるための反応かもしれません。

 

子どもの頃に陰陽のバランスを崩していると、思春期特有のトラブルが出やすくなります。この時期のメンテナンスを怠ると、大人になっても陰陽のバランスがとれず、本来なら心と体が落ち着いてくるはずのところが、不調を抱えやすくなるのかもしれません。子どもの頃からの養生は、穏やかに成長していくためにも大切です。そして人は年をとるにつれ、だんだん陽気が減少し、やがて死を迎えます。

 

陰が強すぎると、陽が不足し、陽が強すぎると、陰が不足します。太極図は、陰陽のバランスをうまく表現しています。陰は内で陽を使い、陽は外で陰を守る、陰だけでも陽だけでもよくありません。そして、「陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ず」というように、行き過ぎると逆に転じると考えられています。何事もバランス(中庸)が大切ということですね。

 

太極図

 

人の人生も、悪いことばかり続いていても(陰)、いずれはよい方向に向かう(陽)ということでしょうか。人生よいことばかりでも、悪いことばかりでもありません。

 

病気と陰陽

 

病気や体質の診断をする際にも陰陽を活用します。表2のような情報を取りながら証(しょう:東洋医学における診断)をたて、その人に合った漢方薬や鍼灸治療、薬膳などを選択します。

 

表2陽証と陰証の特徴

 

 

陰陽を看護に取り入れる

 

看護では、陰陽の考え方をどのように取り入れることができるでしょうか。人の体も朝起きて夜眠る、自然の中の陰陽のリズムに合わせて動いています。ですから、少しでも自然のリズムに合わせた生活を意識することが大切です。

 

朝は陽の時間で、人は体温を上げ、活動的になります。カーテンやブラインドを開けて室内に陽気を取り込み、体の活動をサポートしましょう。

 

夜は陰の時間で、副交感神経を優位にして眠る準備をする時間です。電気の光やスマホの光は陽なので、交感神経に作用して睡眠の妨げになります。不眠の人には特に、寝る30分前に消灯して、気持ちを落ち着けるようにするなど環境を整えることが大切でしょう。できれば23時までの就寝が理想です。東洋医学では23時から3時までは、体や自律神経を整え、陰を補う大切な時間と考えます(夜勤のあるナースの場合はそうは言っていられませんので、睡眠を中心にできるだけ体の負担を軽減できるように、今の体の状態が陰なのか、陽なのか、自分で感じて食事やツボなどで養生を取り入れられるとよいですね)。

 

発熱していたり、興奮気味だったりする患者さんは、陽気が強いので少し薄暗くして、静かな環境をつくったり、体を冷ます食材や飲みものをとっていただいたりするとよいでしょう。気分が落ち込んで陰の状態の患者さんには、明るい陽射しがあるときに窓際に案内する、散歩する、負担にならない程度の明るい音楽やお笑い番組を視聴してもらったりするなど、1日の生活の中で、陰陽の考え方をふまえた工夫を取り入れてみるとよいかもしれません。

 

ちょっとした心や体の変化を陰陽の視点から捉えることを、看護や日々の養生に活かしてみてはいかがでしょうか。

連載のはじめに▶▶

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