鈴木貴子

(るかなび看護師・鍼灸師)

第 2 回

自然の中の人 ──心身にかかわる「五行」について

皆さんの今日の体調はいかがですか?

 

忙しいとついつい目の前のことばかりに追われて一日が終わってしまいます。体のことを意識するのは、就寝時に横になって「疲れた~」と感じるときだけになっていませんか。

 

人の心身と自然は密接にかかわる

 

東洋医学では、人と自然界との間の密接な関係を重視しています。自然界の変化は直接的、間接的に人体に影響を及ぼし、人体はこれに対して生理的・病理的な反応を示します。中国最古の医学書『黄帝内経』(こうていだいけい)にも、自然界の変化が体に影響を与えることを意味する「天人相応」という言葉が書かれています。

例えば月の満ち欠けは、潮の満ち引きに影響するのと同様に、体にも影響を与えます。満月では「気血」が充実しますが、「気(エネルギー)」が滞りやすく、むくみやイライラが出やすくなります。反対に新月では、「気」は巡りやすくなりますが、消耗もしやすくなります。

 

養生としては、満月には気を巡らせる軽い運動やアロマテラピー、新月では十分な栄養や睡眠を心がけましょう。

 

また、森羅万象はすべてに、陰と陽があり(陰陽論)、木・火・土・金・水という「五行」に分けられます。木は燃えて火を生み、灰を生じ、土の養分となリます。土から金属は採掘され、金属が冷えると水滴ができ、水は木を育てます。木は土の養分を吸い取り、土は水を濁します。水は火を消し、火は金属を溶かし、金属は木を切ります。このように、相互に働くことで自然は成り立つという考え方が五行論です。同様に、人の体も木・火・土・金・水の5つの要素に分類され、補ったり制御したりしながら体の調整をしています(下図参照)。

 

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ちなみに、東洋医学において人の内臓を示す「五臓」(肝・心・脾・肺・腎)も、五行に分かれます。現代医学の臓器の名前と似ていて働きも同じところもありますが、異なる部分もあります。

 

季節によって体も変化する

 

季節も五行に分かれ、体に影響を及ぼします。

 

春には木の枝が伸びるように(春の五行は木)、冬の間に滞り気味だった人間の体も気血の流れが円滑になり、冬に滞ったものを排出します。春は五臓の肝と関連していて、自律神経などに影響の大きい季節です。風が強く揺らぎやすいように、人の心も怒りっぽくなったり、落ち込んだりと揺らぎやすくなります。

 

梅雨の時期は、じとじとじめじめ、不快指数が上がります。体の中にも、べとべとしたもの(湿)が溜まりやすくなります。梅雨の五行は土、五臓は脾で、「気」の生成や胃腸の働きに関係する季節です。べとべとしたものは胃腸に負担がかかり、関節痛や頭痛の原因にもなります。身体の除湿が大切な時期です。

 

夏の太陽の光は、草木を勢いよく成長させます。五行は火、五臓は心となり、循環や精神をつかさどります。夏は血を全身に巡らせやすく、しっかり汗をかいてデトックスできる時期。東洋医学的には、1年に1度、唯一デトックスできる時期と考えます。ただ、最近は猛暑、酷暑と、夏の暑さが半端なく、安全に気持ちよく汗をかけなくなりましたが…。熱中症に注意しながら、適度に汗をかきましょう。

 

秋は、夏のエネルギーが少しずつ枯れていく時期。五行は金、五臓は肺になり、呼吸や免疫機能に関連しています。物悲しい気持ちになりやすく、それが肺に影響し、風邪を引きやすくなります。一方、秋は収穫の季節でもあります。夏を越した栄養たっぷりの食材は、体を癒し、幸せにしてくれます。食べ過ぎには注意しつつ、秋の味覚で体を潤しましょう。

 

冬になると、動物は冬眠し、植物は葉を落とし、人も手足を縮めて厚着をして寒さから身を守り、戸外での活動を減らします。冬の五行は水、五臓は腎。水分代謝と生命の素を貯蔵する場所、老化にも関係します。現代人は冬も日々忙しい毎日。体をしっかり温め、食事での養生が大切です。

 

体質は人によってさまざまですが、持病や不調の程度が日によって違うのは、このように誰もが自然界の変化の影響を受けているからかもしれません。

 

五行の考えを看護に活かす

 

ナイチンゲールは「健康とは何か? 健康とは良い状態を指すだけでなく、われわれが持てる力を十分に活用できている状態をさす」と述べています1)。「持てる力を十分に活用できている状態」にするためには、まず自分の体や心を知ることです。

 

東洋医学では「治療が3割、養生が7割」と言われています。看護師は治療はできませんが、養生の部分では力を発揮できます。今対峙している病気や、それにまつわることだけでなく、体や心、日常生活、考え方など全体でとらえ、その人が持つさまざまな健康に関する困りごとへの対処法をともに考えることも大切です。人それぞれの生活を整えるうえで、誰もが影響を受ける「季節の養生」の考え方も役に立つのではないでしょうか。

 

私の職場である「聖路加健康ナビスポット:るかなび」で、定期的に行っているセルフケア(養生法)講座では、受講者自身に、まず「今、感じている不調や健康法」を書いてもらい、受講者が自分の体の状態に気づくことから始めます。次いで体調につながる季節の特徴や養生を伝え、自分で不調の原因や、日常生活を整える方法などを考えられるようにしています。

 

些細なことでも「自分でできることがある」「不調はあるけど何とかなる」、つまりセルフケアができると思えたら、安心につながります。安心感を得ることも養生の1つです。

 

春は、変化の季節です。胃腸にもストレスがかかっていたかもしれません。立夏を過ぎ、これから迎える梅雨の湿気が、さらに胃腸への負担になります。今のうちに、油っこいものや冷たいものを控えて、不要な水分を体の外に出すトウモロコシのひげ茶や緑茶などで(飲み過ぎないでくだいね)、自分の養生をしませんか。症状が変わらなくても、副作用はありませんし、体によいことには変わりはありません。自分にも誰かへのアドバイスにも活用してみてください。

 

引用文献

  1. ナイチンゲール著,湯槙ます監修,薄井坦子他訳:ナイチンゲール著作集 第2巻,現代社,p.128,1974.

参考文献

  • 呉小玉著,安達勇・小玉城医学監修:中医看護の自然生命理論,日本看護協会出版会,2020.
連載のはじめに▶▶

教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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