─ 最終回 ─

 

第4回「アクティブラーニングが

社会と学校をつなぐ」

 

 

 

キャリア教育においてもアクティブラーニングが重視される

 

アクティブラーニングは、社会と学校との接続においても重要だと認識されるようになってきた。「キャリア教育」という言葉を目にされたことがある方も多いと思うが、これは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す」(中央教育審議会、平成23年1月31日答申)教育のことである。基盤となる能力や態度を育てることが課題とされており、単なる就職指導とはまったく異なるものだ。

 

高等学校におけるキャリア教育の経緯を見てみると、当初は1学期や1年に1度、社会で活躍する人の講演などを聴いて感想文を書いたり、文化祭、体育祭等を通じたりするイベント型のキャリア教育が主流だった。そうした時代が1994年から10年間ほど続いた後に、日常型と言われるホームルームや部活動の中でのキャリア教育が重視されるようになった。そして、今は日々の授業の中でのキャリア教育が重視されるようになってきているのである。

 

といってもイメージが湧かないかもしれない。「社会的・職業的に自立に向け、必要な基盤となる能力や態度」とは、端的に言えば、特定の専門性に属さない、どんな職業に就こうと必要とされる能力のことであり、ジェネリックスキル(汎用的能力)とも呼ばれる能力のことである。具体的には、課題解決するための能力であったり、コミュニケーションやリーダーシップなどの対人的な能力であったり、あるいは自己管理などの能力であったりする。

 

これらの能力を育成するには、当然、一方通行の講義だけでは不可能である。さまざまな授業の中でグループワークで議論したり課題解決に取り組んだりすることを通じて、育成されるべきだと考えられている。つまり、アクティブラーニングを通じてキャリア教育を行うという大きなうねりが高校教育では起こってきているのである。

 

そして、同様に大学においても社会からの要請により、高校と同様に求められるようになってきている。

 

ここでは、その中のリーダーシップ教育に焦点を当てて紹介したい。

 

 

アクティブラーニングでリーダーシップを育成する

 

リーダーシップという言葉から、どのようなことをイメージされるだろうか。「俺についてこい!」型の指導者だろうか。天性のカリスマ性を持ったリーダーだろうか。日本では、「船頭多くして、船山に登る」という諺がある。多くの人がリーダーシップを発揮すると、組織は迷走するという意味だ。

 

しかし、これは日本でしか通用しない、世界の中でもかなり特殊なリーダーシップ理解である。世界標準のリーダーシップとは、権限がなくても誰でも発揮できるものであり、教育や訓練によって誰でも身に付けることが可能だというものだ。

 

次の図は、グローバルなコンサルティング会社として有名なマッキンゼーの採用担当を長く務めた伊賀康代氏が著した『採用基準』という著書の中で示されている、「1人がリーダーのチームと全員がリーダーのチームとの違い」である。

 

 

『採用基準』(伊賀泰代著、ダイヤモンド社、2012、p.73より転載)

 

 

 

たとえば100人の集団があるとする。100人の集団で全員がリーダーシップを発揮すれば、目標達成はより容易になる。ただし、そのためには全員が「俺が、俺が」となってしまっては不可能であり、誰かが形態的にリーダーの役割を引き受けたら、残りの全員がそのリーダーをフォローしつつ、目標の達成のために協力する。ただし重要なことは、形式上フォロワーとなったとしても、常に自分がリーダーだったとしたら、という立場で考えて議論し行動することである。そして、それも立派なリーダーシップだということである。こうしたリーダーシップのことを「フォロワーシップ」と呼ぶこともあるが、いずれにせよ、単にリーダーの指示に受動的に従うだけでなく能動的に関わり、リーダーの誤りがあった場合には積極的に是正することも期待されている。

 

ただし、リーダーシップを発揮するためには不可欠なことがある。それは、①目標共有、②率先垂範、③同僚支援の3要素である。

 

しかし、この内容を大学の講義で説明されたとしても、それだけで学生はリーダーシップを身に付けさせることはできない。グループで課題解決などに取り組むアクティブラーニングを行うなど、学生がリーダーシップを発揮できる場を設け、それを実践して自分の行動を振り返り、「リーダーシップとは何か」という自分なりの理解=持論を書いて検証するということが、大学などのリーダーシップ教育の場面では行われている。

 

立教大学経営学部のビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)については連載第3回でアクティブラーニングの側面から紹介したが、今回はそれがいかにリーダーシップを育成しているかについて紹介したい。

 

このBLPが10年前にスタートしたときから現在まで一貫して合言葉になっていることがある。それは「授業への不満を提案に変えて持ってくる」である。授業への不満があったとすると、これまで多くの学生は授業に出ない、あるいはサボるという行動でそれを表現していた。しかし、それを授業への改善提案に変え、自分で率先垂範し、同時に仲間の学生を巻き込んで授業をもっと良くするという目標を達成するのである。

 

しかも、BLPでのリーダーシップ教育の目標は、身に付けたリーダーシップをBLPの教室の中だけでなく、他の科目で、家族の中で、サークルや部活動の中で、さらにはアルバイトや社会に出てからの仕事の中で発揮することだとされている。

 

 

医療や看護師の世界でもリーダーシップが必要とされ

アクティブラーナーであることが求められている

 

ここで、看護師という職業に即して考えてみよう。

 

筆者はチーム医療については門外漢ではあるが、チームで行われる以上、リーダーシップは医師にだけ求められているのではないはずだ。すべてのチーム構成員に求められているのが、前述したリーダーシップの考えである。目標はチーム医療である以上、患者の回復等、明確であるはずだ。その目標達成のためにチームの構成員一人ひとりが、何ができるかを考えて、まず自分が能動的にできることを行い、さらに同僚に働きかけてより目標を達成できるように関わる。これが医療の現場で求められているリーダーシップに他ならない。

 

あるいは、病院の中のリーダーシップだけではなく、これからの時代の看護師の在り方についてはどうだろうか。看護師も、固定された病院の中で、固定された役割のみを担うとは限らない時代が始まっている。地域包括医療など、これまでになかった新しい働き方や、看護師の役割を自らで切り開いていくことも求められる。

 

これまでのように、単に決められたことを担っていくだけでは通用しない時代が到来しようとしているのである。しかも、医療の知識も大学や看護学校で学んだことは、すぐに古くなってしまう。自分自身で新しいことを能動的に学び続けていかなくては対応できないはずだ。こうした時代に求められる能力こそ、アクティブラーナーとしての能力であり、リーダーシップではないだろうか。

 

アクティブラーニングは、このような時代に対応できる能力の育成をも、その目標に含んでいるのである。

 

ただ、そのために必要なことは、教員側のパラダイムの転換である。アクティブラーニングは単にグループワークを取り入れて学生を議論させればよい、という教育手法の技術的な問題だと捉えている限りは、アクティブラーナーの育成もリーダーシップの育成も困難である。教授者中心から学習者中心のパラダイム転換の上に立った、アクティブラーニングの推進が求められている。

─ おわり ─

 

 

もっと知りたい人のための参考書

 

キャリア教育について...

 

 『キャリア教育のウソ』(児美川孝一郎著、筑摩書房、2013)

 

 

 

 『生徒主体のドリカムプラン―福岡県立城南高校の試み―』

(福岡県立城南高校著/中留武昭編、学事出版、2002)

 

 

 

リーダーシップについて...

 

 『採用基準』(伊賀泰代著、ダイヤモンド社、2012)

 

 

 

 『大学教育アントレプレナーシップ』(日向野幹也著、ナカニシヤ出版、2013)

 

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