上:青梅市立総合病院にて、ポートフォリオを手にする新人看護師とプリセプター。

下:同院発行「青梅新聞」のポートフォリオ特集号。

>> 拡大する

菊池 発表からは、看護師として本当によく勉強されていることが伝わりました。「病院を良くしよう」という気持ちと、当院の合言葉である「医療の主人公は患者さん」を念頭に置いて、当院の質を上げようと熱心に取り組まれていることが、非常によくわかりました。

 

特に参考になったのが、取り組みの結果だけではなく、経験によって得た知恵、暗黙知を蓄積していくプロセスです。診断や治療の結果にこだわらなければならない医師の世界では、結果を競う成果主義に陥りやすく、プロセスを共有する視点が見失われがちです。でも、今日の発表を聞いて、このプロセスを共有することこそが後に続く人の学び、ひいては組織全体の成長につながると実感しました。


鈴木 ポートフォリオは「臨床知の顕在化」を実現します。結果ではなく、プロセスのシェアが最も価値があり、面白いところだと思います。成長したい人はプロセスに興味を持っていて、「どうしたのか」「どうしたらそんなにうまくいったのか」を知りたがっています。物事の本質や普遍性はプロセスに潜んでいます。ポートフォリオのページをめくることで、そのプロセスをシェアできるのです。

 

小坂 今日、島根県立中央病院の発表会を見学させていただき、改めて実感しましたが、プロジェクト学習では発表者一人ひとりにスポットライトが当たります。そのときに、周囲の先輩が対話とコーチングで承認を示すことで、何者にも代えがたい自信をもらい「自分はこれでいいのだ」と思える。これこそがポートフォリオとプロジェクト学習の要ではないでしょうか。

 

池田 そうですね。上司や同僚がスタッフの成長を共に喜ぶことが、その人のみならず組織全体のモチベーションアップにつながっていくのだと思います。

 

当院では今、育児休暇等で90人ほどが休職しています。力のある看護師が抜けた部署も多く、この1年間「今の教育に何が必要なのか」をずっと考えてきましたが、今日の発表を見て「大丈夫! この人たちは、こんなにすごい人たちだったのだ」と目が覚めました。この感動は、管理者としての自信にもつながります。

 

ポートフォリオや発表を見ていつも思うのですが、ベテラン看護師の経験や直感に基づく「暗黙知」は本当にすごいものがあります。患者さんを見て「何かおかしい。いつもと違う」とぱっと気づく。こうした看護師としての直感、気づきを共有することが非常に重要だと思います。

 

小坂 看護師は皆、暗黙知の豊富さから学び取れるものがどれだけ多くあるかをよくわかっています。だからこそ、新人は先輩からもっと話を聞きたいと思っています。しかし、この暗黙知は言語化が難しいため、うまく共有できないのです。

 

ポートフォリオとプロジェクト学習は、そういう個々の暗黙知を顕在化し、「知の共有」につなげることができます。今日の新人看護師の発表を聞いても、先輩たちのエッセンスやコアになる言葉がちゃんと浸透しているのを感じました。

 

 

未来を描いた「広尾ポートフォリオ3年計画」

 

 

 

当院でも「自ら学び成長する」「共に育つ」をコンセプトとして、2017年度よりプロジェクト学習・ポートフォリオに3年計画で取り組んでいます。新人教育にもプロジェクト学習・ポートフォリオ・コーチングの手法を活用していく予定です。スタッフ全員で新人看護師を育て、中堅看護師の暗黙知・経験知を共有し、共に育つ職場風土づくりにつなげていきたいと願っています。

 

 

大切なのは「未来志向」であること

 

大西 当院では新人教育からポートフォリオを導入して4年が経ちますが、皆さんと同じく、暗黙知を「見える化」し俯瞰できるということに大きな手応えを感じています。他者とシェアするだけではなく、ポートフォリオをめくることで、自分の看護のプロセスを生々しく見ることができます。

 

でも、このように「見える化」する作業にためらいがあり、ポートフォリオにマイナスイメージを持つスタッフもゼロではありません。先日行ったポートフォリオに対するアンケートでは、「人と比べてしまう」「面倒だ」という意見もありました。自分の看護が明らかになることで、失敗や欠点が見えて「自分はできない」と落ち込んでしまう、だからポートフォリオは良くないというわけです。

 

しかし、こうした気持ちを持てたことも、一人ひとりのコンピテンシーや暗黙知を「見える化」できた結果だと思っています。「面倒だ」というスタッフには「確かに面倒かもしれない。でも、取り組んだからこそそこに課題を見出すことができたでしょう」と伝えたい。結果から見えた失敗や欠点をリフレーミング(見方を変える)してさらに学んでいけばいいと、フィードバックしていくことが大切だと考えています。

 

鈴木 自分のポートフォリオは、自分だけのオリジナル教材ともいえます。ページをめくることで、自分が確かに成長していることを確認します。そして、一番苦い経験こそ自分に大事なことを気づかせ、成長させたことにハッと気づきます。ポートフォリオによって、自分の思考や行動を時系列に沿ってリフレクション(内省)するだけではなく、客観的に見てリフレーミング(見方を変える)することができるのです。

 

自分の過去は、失敗も含めて最大の教材です。試行錯誤してきた過去は恥ずかしいことではなく、むしろ自分をさらに高めてくれるものだと気づいてほしいですね。

 

小坂 ポートフォリオを入れっぱなしにしてファイル化することだけが目的になってしまい、「面倒だ」という雰囲気になることもあります。研修の資料を入れるだけではなく、自分の価値や暗黙知を「見える化」することに意義があって、ポートフォリオはあくまでそのツールに過ぎないということを現場に伝えなければならないと思います。

 

大西 そうですね。当院も試行錯誤を経て、やっと「プロジェクト学習で看護局を発展させていこう」という地点に到達できたと思っています。また最近では、うれしいことに「ポートフォリオを活用しているから」という理由で、当院への就職を希望する学生さんも増えています。

 

 

「自己学習」と「情報共有」をデザインする組織

 

鈴木 ポートフォリオを導入する組織は増えていますが、その成否ははっきりしています。導入することでスタッフの成長へのモチベーションがアップしたかどうかということです。ただファイルを配るだけで、スタッフの研修歴を組織が管理するポートフォリオではうまくいきません。

 

「eポートフォリオ」の導入も広がっていますが、そのシステム設計のあり方から、個人が成長するためのポートフォリオではなく、組織が個人を管理するためのものになりがちです。また、クリニカルラダーや院内研修の履歴はデータ化されますが、自己申告を丁寧にしない限り、組織と関係のない学習行動はデータには含まれません。

 

しかし現実には、多くの看護師さんは自らの意志で、組織外の研修にも積極的に参加していますし、書籍や専門誌、研究論文などを読んだり投稿したりしています。そして、日々の仕事や患者さんとの出会いを通じて、さまざまな気づきや価値ある経験をしています。この部分が入ってこそ、ポートフォリオは本当の意味での「個人の成長への軌跡」となるのです。自分の学びや成長のマネジメントは自分で行い、自ら意志を持ってキャリアポートフォリオをつくることは、自分の今と未来に大変有効なのです。

 

自分の成長を望み、自己学習に努める一方で、情報や経験を共有していくことは、組織が成長する上で欠かせません。看護師は自分だけが成長しても、良い成果=患者さんへの良きケアは生まれないのではないでしょうか。

 

鍵になるのは「自己学習」と「情報共有」です。これはディープラーニングのキーワードであると同時に、プロジェクト学習とポートフォリオの機能そのものともいえます。キャリアポートフォリオを見ると、一人ひとりの経験だけでなく独自の課題意識や能力や資質が見えます。それらを生かし咲かせることが人材育成の目的です。「人間として成長し続けたい」という願いを叶える職場であるために、いかに教育を魅力的でフレッシュなものとするか。大切なのは「未来志向である」ということだと思います。

 

ここにお集まりいただいた皆さんは、組織のトップとして「スタッフ一人ひとりを生かしたい」と強く願っているという共通点があります。そして、新しいことを面白がる精神を持ち、チャレンジャーであること。これは、管理職として大変重要な能力だと思います。

 

本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございました。

 

 

12 3

『ポートフォリオで未来の教育〜次世代の教育者・指導者のテキスト(鈴木敏恵編、2019年)

主体性を高め、自ら学ぶ力を引き出すツールとして、いま医療界・教育界で注目されている「ポートフォリオ」。人材育成やキャリア開発、学校教育の場でポートフォリオを効果的に活用する方法を、豊富な教育ツールを示しながら解説します。次世代の基礎教育や院内教育を担う指導者・教育者に最適の1冊。>> 詳細はこちら

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会   Copyright (C) Japanese Nursing Association Publishing Company all right reserved.