連載 ── 考えること、学ぶこと。 "共愉"の世界〜震災後2.0 香川 秀太 profile

image: Center for Disease Control and Prevention

前篇/第6回 "Post-COVID-19 Society" グローバル資本主義のあとに生まれるもの 「従来の経済活動への回帰とナショナリズムの高揚/ 新しい福祉国家へ」

連載のはじめに

 

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「従来の経済活動への回帰とナショナリズムの高揚」

 

しかし、在宅労働やオンライン教育の促進という方向性は、ある意味で表面的なものです。ここでもう少し、より深層にある社会構造の側面から、コロナ問題がもたらす社会変化を考えてみます。

 

すでにそのような話題や政府方針は出ていますが、今後予想される社会の方向性の一つは、コロナ問題が終息した暁には、一気に消費を促進し、経済活動を復活、あるいはさらに促進させるという(現体制からすればある意味で当然の)方向性があげられます。

 

これは基本的には、現状の仕組みと方向性の維持です。いわば、ある程度の社会変化は生じつつも、「元の消費中心の社会構造に回帰する」方向性です。短期であるほど、これを想像する人が多いと思われます。これまでの資本主義社会、あるいは、アメリカの場合は、それまでの新自由主義的政策に回帰し、場合によってはますますそれらを強化していく方向性ともいえます。「消費の自由」を回復するものと言い換えられます。

 

これに並行してもう一つありうるのは、国家間の争いの拡大です。「今回の問題の元凶」を招いたのは誰か(どの国か)という「犯人探し」が加速することです。これもすでにとりわけ米中、あるいは欧米と中露の間に火種がありますが、死者や経済的被害が多大になるほど、いわば遺恨やヘイトがたまり、また「似た問題を起こさないようにするため」などの名目で、国家間の争いへと発展していく可能性は全否定できません。

 

実際、過去の中世にて、ペスト(黒死病)の流行がユダヤ人の迫害につながった事例もあります。現代にそんなことが起きるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、科学が進んだとみんなが思っていた現代に、まさに過去にもあったパンデミックが起きたわけで、人間の文明は歴史的に変化し発展していった側面がある一方で、逆に回帰していく側面(あるいは、変わらない根本)もあるのです。

 

もちろん、すぐには戦争をする体力はどの国にもないと思いますし、莫大なデメリットを考えれば、今のところその可能性は低そうですが、何らかのより大きな規模の国家間の抗争や分断へ、あるいは最悪の場合、今回のコロナ問題に限らず、他のさまざまな要素がヘイトとして連鎖して集積していくと、第三次世界大戦のような大きな戦争へと発展していく可能性はゼロではないかもしれません。

 

物理的な戦争でなくとも経済的、政治的な対立は激しさを増すかもしれませんし、過去の冷戦に近い国際関係が生じるかもしれません。行き場のない怒り、それを解消するための矛先を、「誰か(他の人間)」に求め、「〇〇のせいでこうなった」と「明確な意味づけ」をしたがるのは人間の、あるいは政治の性ですから。

 

また、先に触れたデモのように、さまざまな自由の抑圧を課したのが地方行政や国家だとなれば、そのヘイトの矛先をむしろ外部に向けさせる活動が生じても不思議ではありません。われわれが戦う相手は国内にはない。むしろ外にいると。共通の敵は身内の求心力を高めます。

 

これには、先の「その3」集権権力の否定とその強化(肯定)という矛盾が関連しています。「ウイルス(非人間)」によって否定されることで、逆に強まっていった「自国の人間」を統制するという国家権力が、今度は「他国の人間」へと向かう。先にも挙げた「テロとの戦い」では、非常事態から「他国(他宗派)の人間」との戦争の流れが、アメリカを中心として生まれたのでした。

 

もちろん、違う点もあります。テロの場合は、敵対相手が人間であり明確でした。しかし、今回のコロナ問題の場合、直接脅威になっているものは人間ではなく非人間(ウイルス)です。したがって、すぐには同じ人間には敵対視が向きにくい状況でもあります。しかしながら、そのような危険な非人間的存在物が「その6」の「所有」という発想を通して「同じ人間によってつくられたもの──兵器であれ、文化であれ、国家による統制の失敗であれ──」というような理屈が構成され、人々の弱った感性に響く形で単純化されて巧みに伝達されたときには、一気に「対ウイルス」ではなく「対人間」の敵視へと向かう可能性があります。

 

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連載のはじめに

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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