連載 ── 考えること、学ぶこと。 "共愉"の世界〜震災後2.0 香川 秀太 profile

image: Center for Disease Control and Prevention

前篇/第3回 "Post-COVID-19 Society" グローバル資本主義のあとに生まれるもの 「経済 vs. 生命」

連載のはじめに

 

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先進国にもたらされた混乱

 

新型コロナ(COVID-19)が猛威をふるっています。

 

2019年12月の中国武漢市で最初の症例が確認されたと言われています。その後中国全土に広がり、世界各地にて感染拡大していきました。日本では当時、2020年2月1日から「過去2週間以内に湖北省に滞在歴のある中国人や外国人に入国制限を課す」という措置が開始されました。

 

他方で、2月4日付のビデオメッセージにて安倍総理は、「一層多くの中国からの訪日を歓迎します」と、中国からの春節祝賀と観光客の歓迎を告げてもいました(政府インターネットテレビ、2019年2月4日公開動画)。

 

また2月5日、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号にて10名の感染が確認されました。この時点ですでに、本稿で述べる、新型コロナウイルスの問題(以下、コロナ問題)がもたらす「矛盾」がうかがえます。

 

そうして、その後、欧米でも日本でも徐々に感染は拡大していきました。

 

これに対し、「もっと早期にかつ徹底的に日本は出入国を制限・管理すれば、今のような感染拡大と経済へのダメージは防げたのではないか」「仮に国内感染者が出たとしても、まだ少人数の段階で、外出禁止等の感染拡大防止対策を徹底すべきだったのではないか」という意見が当然ありました。

 

もしWHO等が早期に今のような事態を予測して強い警鐘と対応策を示していれば、もう少し違う未来が待っていたかもしれません。実際、台湾など感染拡大のリスクを他国よりおさえ、諸外国から評価されているような国は初動がより早期でかつ対策が厳密であったことが指摘されています(ただし、これも100%の対策は難しくどこかに隙間は生じざるを得ません)。

 

また、拡大後であっても、「国内一斉に、家族以外の人との交流を一切絶ち、諸外国の出入国の一切も禁止する」か、「全世界一斉に、家族以外の人との交流を絶つ」ことをかなり徹底し時期を集中してやれば、感染の嵐は相当程度治まる可能性があり、現に複数の国が基本的には(徹底・不徹底のばらつきはあれども)前者の方向で緊急措置をとりました。なお、「国内一斉」ないし「全世界一斉」というのは、一部の国や地域のみで抑制しても、人が移動する限り、そして地域間でタイムラグが生じる限り、拡大のリスクはおそらく減らないであろうことからです。

 

しかし、その措置を迅速かつ十分にできる国はほとんどありませんでした。本来、衛生インフラがおおよそ整っているはずの経済の先進国が、感染拡大のリスクに早期に直面し慌てました(アジア、欧州、アメリカに比べ、アフリカは概ね遅れて感染拡大※注)。この要因としては、国や地域による検査体制の整備の違い(検査開始の時期や可能な検査数)も考えられますが、おそらく経済が活発な分、観光をはじめ、海外との往来者が多いことがその理由ではないかと思われます。

 

ダブルバインド

 

日本政府もまた、それまでアクセルを踏んできた経済政策に急ブレーキをかけ、さらに逆行するかのようなこの方針は、当時、容易に導入できるものではありませんでした。ここにまさに「経済」という、近・現代人にとって生活を支える「命そのもの」である一方で、「命を超えるもの」にすら成ってしまった存在が、大きな障壁として立ちはだかりました。

 

これには、マルクスの言葉、物神崇拝を思い出します。人間の頭脳が生んだ神や宗教が実在性を帯びるのと同様、経済もまた人間の頭脳が作り出した人工物にもかかわらず、資本主義の発展と共に、ますます強固に実在するものとしてわれわれの前に立ち現れ、われわれ自身を動かしさえする存在に成長しました。経済停止とはある意味で、この生き生きと動き回っていた「貨幣というアクター」の実在を否定することを意味します。貨幣経済の拡張と一体になって自己の存在感や有能感を拡張してきた近現代人にとって、そのような自己否定は、決して容易に受け入れられるものではないのです。

 

そこで、現代人は、解決不能の矛盾(ダブルバインド)に直面することになります。一方で、感染防止を優先し、経済をストップすれば経済的困窮と自己否定に陥る。他方で、経済を優先すれば感染が広がる。どちらに進んでも苦難の道が待つ。

 

これに限らず、「ダブルバインド状況」とは、かねてから哲学者ベイトソンが、精神分裂病をもたらし、人を苦境に陥れるものと指摘してきたものです。日本人が、あるいは世界中がこの巨大な、つまり「グローバルなダブルバインド」に直面するという、歴史的な瞬間にわれわれは直面したといえます。

 

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連載のはじめに

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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