編集部特別リポート

公開:2018.10.15

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シンポジウム3

働き方改革から看護師キャリアを考える

座 長:大島 敏子(NPO法人看護職キャリアサポート/フリージア・ナースの会)

   出雲 幸美(社会医療法人 信愛会 畷生会 脳神経外科病院)

シンポジスト:濱田 安岐子(NPO法人 看護職キャリアサポート)「生涯現役を目指す~看護職のキャリアを活かす活動」

       永井 則子(有限会社 ビジネスブレーン)「シニア看護師の知的財産の企業における活用」

       坂本 眞美(国際医療福祉大学 九州地区生涯教育センター)「一生涯を見据えた看護管理者教育〈認定看護管理者教育受講で開ける3つの目〉」

● 生涯現役を目指す~看護職のキャリアを活かす活動

 濱田氏は日本が働き方改革を推進する理由として、政府の提唱する「一億総活躍社会の実現」が、持続可能な社会を実現する世界的な取り組みの一環として行われている点を述べた。そして人口減少・超高齢者社会時代において「若いから働く」「老いているから働かない」という過去のモデルは通用しなくなり、「これまでにない“人生の新しいステージ”が構築されてくることになる」との見解を示した。

 また看護職は定年退職という制度がキャリアのゴールになっていること、定年後はのんびり、ゆっくり過ごしたいという考えをもつ人も少なくないと指摘。昨今ヘルシーワークプレイスへの注目が集まる中、定年というゴールにむけて負荷をかけ続ける従来の働き方ではなく、「働くことが楽しい」「ずっと働き続けたい」と思えるような改革が望まれると語った。

 濱田氏が事務局として支援を行っている「フリージアナースの会」では、管理や教育に貢献してきた55歳以上の看護職が会員となり、以下の6つを目的とした社会貢献活動を行っている。

 

① 自己のセカンドキャリアを充実させる

② 医療・介護を受けるすべての人々が良質なケアを受けるための支援をする

③ 看護職一人ひとりが自立した存在として保有するスキルを伝承する

④ 看護職の次世代育成を推進する

⑤ 医療・介護・福祉において関心のあるすべての問題を自由に話す場を設ける

⑥ 会員相互の交流


 具体的には、セカンドキャリアライフを充実させるための活動検討や、模擬患者による看護師教育の推進支援、地域社会への貢献、医療メディエーター活動などを展開している。そこで「会員の“したいこと”」に耳を傾けることにより、看護職が充実したセカンドライフを送るためのキャリア支援を行っていきたいと述べた。

 

● シニア看護師の知的財産の企業における活用

 永井氏は「キャリア」とは自分を自身の理想のところに運ぶ(=Carry)人であり、「シニア」とはそこにたどり着いた人である、と両者の違いを指摘したうえで、独自の視点でシニア看護師を以下のように定義している。

 

 ① 70歳以上であること

 ② 十分な臨床経験を積んでいること

 ③ 急性期病院、介護施設の双方で管理者としての経験があること

 

 ビジネスブレーン社では、昨年より看護職や看護補助者が参加する研修において、対面授業のコンサルタントにシニア看護師を活用し始めた。背景には新人看護師や看護補助者らの「対話から学びを深める能力の低さ」があり、対話学習を行っても表面的な研修となりがちな現状を紹介。こうした状況に対し、体験と対話のプロセスから学びを深める「ブレンデッドラーニング」を強力に支援するサポーターとして、シニア看護師に活躍の可能性を感じたのだという。

 たとえば看護補助者研修では、補助者が持ち寄った体験事例をもとにシニア看護師らが質問する対話型の学習を実施している。看護補助者らは十分な経験を積んでいても、知識を兼ね備えたうえで実践行動に移している者は多くない。この研修ではシニア看護師らに質問の意図を述べてもらうことで、補助者らの知識を深められるような学習の工夫を行っている。

 また永井氏は、シニア看護師は専門家であり、かつファシリテーターの役割を担える存在でもある点が魅力だと語った。看護補助者の研修のほか、新人看護師研修や多職種連携カンファレンスのトレーナー、院内トレーナーの育成、コンサルティング、マイクロラーニングの教材づくりや執筆など、シニア看護師の活動を支える知的財産には高い価値があることが伺える。

 

● 一生涯を見据えた看護管理者教育「認定看護管理者教育受講で開ける3つの目」

 38年間にわたり大学病院に勤務してきた坂本氏は、定年退職後は少しだけ看護にかかわりながら、ゆっくりと過ごす生活を考えていた。しかし、突如舞い込んだ九州地区における感染管理認定看護師教育課程の開設への誘いを受けて、大学病院勤務時代から想い描いていた夢の実現に向けて新たなステージに邁進することになった。セカンドステージの場として選択した国際医療福祉大学九州地区生涯教育センターでは、これまでの看護管理者としてのキャリアで構築してきた人的ネットワークに助けられ、平成25年度に感染管理認定看護師教育課程の開講を達成。加えて、翌年度からは副センター長とともに認定看護管理者教育課程「ファーストレベル」「セカンドレベル」の開講に注力した。

 坂本氏は、このように自身のキャリアについて語ったうえで、ファーストステージにいる看護職に向けて、認定看護管理者教育を受講することの重要性について述べ、認定看護管理者教育の受講により開かれる「鳥の目、虫の目、魚の目」から、医療・福祉の問題を見ることの必要性を体現し、看護職としての自身の役割を考え続けるきっかけにして欲しいと期待を込めた。

 氏は本年7月より、単身上京し国際医療福祉大学成田病院の総看護部長としてサードステージに足を踏み出すことになった。「管理者の役割は、セカンド・サードステージのみならずその先まで、まさに一生涯を見据えて、途絶えることなく看護をサポートしていくことなのではないか」と講演を締めくくった。

 

 

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指定インフォメーション・エクスチェンジ3

保健医療福祉施設における災害への備え~食の備蓄~

主 催:日本看護管理学会 災害に関する管理推進

委員長:原 玲子(宮城大学看護学群)

委 員:上野 栄一、佐藤美子、庄野 泰乃、杉浦 美佐子、竹中 愛子、保科 英子、前田 ひとみ、松尾 文美、竹内 貴子

話題提供①:庄野 泰乃(徳島赤十字副院長兼看護部長)「医療施設における水の備蓄―ウォーターサーバーの利用―」

話題提供②:石母田 由美子(仙台赤門短期大学看護学科講師)「施設のどこに備蓄するか、何を備蓄するか―東日本大震災の経験から―」

話題提供③:石川 伸一(宮城大学食産業学群教授)「もしもに備える食とココロ」

 起こり得る大規模災害に備え、看護管理者は自施設における食の備蓄を整備する必要がある。東日本大震災を経験した研究者・管理者、南海トラフに備える管理者からの3つの話題提供を通じ、貴重な情報の共有が行われた。

 

①「南海トラフ」に対応した「水の備蓄」

 405床をもち、1,133名の職員が働く病院の副院長である庄野氏は、南海トラフに備えた水の備蓄にウォーターサーバーを活用している。停電時も常温でき、利便性に優れ、衛生的。災害対策の実際例として職員の意識向上にもつながっていると紹介した。

 

② 面接調査から明らかになった備蓄の課題

 勤務していた病院が津波で大きな被害を受けた石母田氏は、ご自身の経験と災害拠点病院師長12名の面接調査から、「分散備蓄(栄養課、各階で)」「運搬・配膳法の想定」「対象に合う食事形態での備蓄」などの課題が抽出されたことを報告し、発災時の備えについて具体的に説明した。

 

③ 備蓄食という考え方

 食品学・栄養学が専門の石川氏は、大震災時の経験とその後の調査などから「災害に備える心構え」について講演した。長期保存が可能な食品を「常備」して、日々活用しながら非常時にも役立てる「常備蓄」という発想などを紹介。人はライフラインが絶たれると“原始生活”に直面し、不便さよりも日常との落差で苦しむため、モノだけでなく心の準備も必要。平時にあえて不便さを体験し、“ワクチン”効果を得ることも大切という指摘が印象に残った。

 フロアからは「訪問看護の備蓄」に関する質問なども出されたが、看護のさまざまな場の特性に沿った「備蓄」を行うことや職員への意識づけの重要が示唆された演題であった。

 

 

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インフォメーション・エクスチェンジ26

看護師長が同じ立場でつながり看護管理の魅力を探す新たな取り組み

~仕事はやるからには楽しく、そして美しく~

企 画:坂本 和美(金沢市立病院)、浦美 奈子(石川県済生会金沢病院)、野村 仁美(独立行政法人地域医療推進機構金沢病院)、松田 琴美(金沢医科大学病院)、坂本 早苗(公立能登総合病院)、中西 容子(金沢市立病院)

●役割委譲についての情報交換

 石川県看護協会職能委員会では昨年、看護師長が本来の役割をいきいきと発揮できることを目的とした研修を、県内4地区にて計4回実施した。毎回30〜40名の参加者があり、本年度も開催を予定している。

 管理職である看護師長に必要なスタッフへの役割委譲は、患者の安全と看護の質が担保された状態で行われている必要がある。研修会ではその実態を明らかにし、受講者同士が意見の交換と共有を行うことで、施設の枠を超えたつながりを促した。こうした交流を通じて、互いの役割を発揮するための支援や学びの内容を明らかにしていくことがねらいだ。

 

●悩みを分かち合い、本音で話し合う

 研修会後のアンケートでは「病院の規模が違っても悩みや課題は同じだとわかった」「師長同士で自分を飾らず本音で話し合えた」「多くの意見が聞けて、終わったあとに元気が出た」などの前向きな意見が多く見られたという。また本セッションの質疑応答時には、研修会に参加した師長が次のような感想を述べていた。

「勤めている病院で、外来師長から病棟師長へ移動の話が出て悩んでいた時にこの研修を知りました。それまで外来の師長という仕事を楽しいと思ったことがなく、病棟に移ってもちゃんと務まるのか不安でした。研修で講義を聞き、同じ師長の人と初対面とは思えないくらい打ち解けて話し合えたことで、視点を変えることの重要性に気づき、立ち止まって考えることができて楽になれました」

 こうした研修を通して、他施設で働く看護師長同士が意見や情報を交換し合うことはとても有益だ。研修に参加した看護師長が本来の役割を果たしている姿は、部下に管理職の魅力を伝えることにもなるだろう。

 

 

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インフォメーション・エクスチェンジ29

日本看護協会『看護記録に関する指針』とその活用~新たな指針を読み解く~

企 画:井本 寛子(公益社団法人日本看護協会)、任 和子(京都大学大学院医学研究科) 、松永 智香(高知県厚生農業協同組合連合会JA高知病院)

●13年ぶりに改訂された「看護記録に関する指針」

 日本看護協会が2017年に公表した「看護記録に関する指針」(以下、新指針)は、2005年作成の「看護記録および診療情報の取り扱いに関する指針」を13年ぶりに改訂したもの。現場で求められる看護記録のあり方と取り扱いについて新たな指針を示し、看護が提供されるあらゆる場で活用されることがねらいだ。

 このセッションでは、まず任氏が副院長と看護部長の経験をもつ教員という立場から「看護における看護記録の意義~『看護記録における指針』から考える」と題して話題を提供。看護記録には課題が山積していることに触れたうえで「そもそも、書くべき記録とは何か」を明らかにする必要があるとし、その明確化に新指針が役立つと述べた。

 また、日々の実践やマネジメントに関連づけて新指針をひも解く中では、たとえば「看護実践の一連の過程」(看護過程)の定義や内容を確認・解説しつつ、平成30年度診療報酬改定で「入院時支援加算」が新設されたことで外来での看護過程の展開・記録、さらには「外来」と「入院」をつなげた展開・記録の重要性が増していることに言及し、新指針の活用を促した。

 

●新指針は現場でどのように受けとめられているのか

 松永氏は臨床現場で看護部長を務める立場から話題を提供。「『看護記録に関する指針』をどのように現場で活用するか」と題し、自身の病院で看護職に対して行った調査と3カ月にわたる取り組みについて報告した。それによると、院内の複数の部署では新指針の存在そのものが知られておらず、配布した指針を読んだ者は主任クラスのみで、それも目を通す程度だった。また各部署の記録が新指針に沿っているかどうかについては、診療報酬の加算に関するものについてはよく反映されていた(算定にあたりチェックを受けるため)。

 これらをふまえ、改めて新指針の周知徹底を図ったところ「実践の記録」が増えたという。また「他職種が読んでもわかるものにしよう」と考える過程で「記録マニュアル」の改訂や「略語集」の見直しにつながったとのこと。こうした3カ月間の取り組みからは「記録から一連の看護過程が見えない」「科長が記録の実状を把握できていない」「端末にログインしたまま離席する看護師が多い」などの発見があったといい、松永氏は今後もこの新指針を「思考をつなげるツール」として活用していくと述べた。

 

●看護記録に関する課題

 フロアからは、2人で担当している場合(PNS®など)の署名や記録の残し方について質問があった。松永氏は「電子カルテの仕様により、2人で行ったことが記録に残らないものがある」「自施設のシステムに応じて約束ごとをつくるとよい」としたうえで、自身の病院では「実際に患者へのケアを行う者」と「入力を行う者」がペアになった場合、指針に照らすと入力担当者はケアの実施者としてシステムに反映されないので、「○○Nsと行(な)った」と別途記載していることを紹介した。

 このように、看護記録に関連して課題が山積する現状であればこそ、新指針が現場で実際に読み込まれ活用されることの意義は大きいであろう。

 

 

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〈おわり〉