井上 智子

東京医科歯科大学大学院 教授



大震災を経験したすべての人々に向けた、3著者からの渾身のメッセージである。今の日本の医療、社会、いやそもそも人が生きること、生きていくこととこれほどまでに真摯に向き合い、問い続ける人々が存在する。その思いが、大震災とそれに続く原発事故というあまりにも過酷な体験を経て、1年の後に本書になった。


優れた医師であり看護のよき理解者である日野原重明氏、長年の外科医経験を経て介護施設の医師となった石飛幸三氏という2名の医師とともに、60年にわたって看護を実践してこられた川島みどり氏が、各々の人生で積み重ねてきた思いを力あることばに変えて、「看護の時代」の到来を語っている。


日野原氏と石飛氏は、医師の立場から多くの生と死、治療と療養、生活と人生を見つめ続けた。看護は常に両氏の傍らにあり、やがてそれが「看護の時代」への思いと期待に収束していく過程が本書を通して浮かび上がってくる。川島氏は30余年も前に「看護の時代」を予見し、それを実現すべく60年にわたり常にトップランナーとして実践、研究、教育、啓発活動を通じて私達に多くの示唆を与え続けてくれた。


そして、大震災である。


両医師の描く医療のビジョンは「キュア」から「ケア」へ移り、その大転換への一歩が「看護の時代」であることを説得力高く伝えてくれる。一方、川島氏はより具体的な一歩先を見つめていることが興味深い。すなわち、これから必要となるのは「看護と介護が一体となったケア」であると氏は提唱する。あの大震災を体験し、被災地に震災以前と同じ形の医療を復元することが果たして目指すべき復興なのだろうか、と。ともに「生活・暮らし」から生まれた看護と介護が互いの専門性を融合させ、有機的な連携がとれてこそ、“ケアし、ケアされるコミュニティ”が誕生する、と熱い思いで語っている。


どこを開いても、珠玉のことばに溢れている。本書は赤と白の表紙に金文字で美しくロゴが染め抜かれ、帯には鼎談時の優しくも力のこもった眼差しの著者らの写真が並ぶ。存在自体がメッセージ性に富んでいて、思わず手が伸びる一冊である。


この情熱と提言を引き継ぎ具現化するために、我々は何をすべきか。


ところが、3人はすでに実現に向けて走り出している。その背中はまだまだ大きく、我々はそれを見失わないよう従いていくのに懸命であるが、著者らが目指すその先の風景が見たくて、思わず背伸びをしてみる。

(月刊「看護」2012年8月号掲載)

圧倒された。その情熱と、深い思考に。

感嘆した。その伝える力と、沁み入ることばに。

Copyright (C) Japanese Nursing Association Publishing Company ALL Right Reserved.

『看護の時代──看護が変わる 医療が変わる』http://www.jnapc.co.jp/products/detail.php?product_id=3044