連載 ── 考えること、学ぶこと。 オンラインで 講義をつくる 鈴木 敏恵 profile
第1回 オンライン学習の全体像

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緊急! 全員研修にこそ、

オンライン活用

 

医療の現場の場合、例えば感染を避ける行動規則と手順、社会との情報共有の仕組みなど、重要で緊急性が高い研修にこそオンラインを活かすという体制をつくりましょう。

 

緊急に職員全員の基本的な知識やスキルを上げたくても、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される状況では、誰もが持ち場を離れることができず、一つの部屋に大勢が同時に集合し研修をすることはできません。このような緊急時の一斉教育にこそ、オンライン学習は効果的といえます。各自自分の持ち場を守りながら、最新の知識やスキルを学び、全員が実践できる力を身につけることができます。

 

そのコンテンツは単に「説明する動画を一方向に見せる」のではなく、互いの顔や背景から緊張感が伝わるインタラクティブなやりとりで習得できることを目指します。それぞれの状況を見せ合い、発生した事態へエビデンスをもって臨機応変に対応していることを、映像やデータを共有しつつ思考・判断できるオンライン環境であることが必要です。

 

 

なぜなら「理解する」だけでなく、それを「自分の任務や現場(仕事場)において“できる”」ための確実な成果をもたらすことが求められるからです。

 

例えば「病院におけるPPE(個人防護具)」に関する研修を実施する場合、どの職務・環境においてどこまでのPPEの着用が求められるのか等、知識だけでなく、一人ひとりの判断力を高め「実際にできる」という確実な成果が求められます。

 

「一般的な対応や手順」ではなく「当院ではどう対応すべきなのか」を考え、その病院にしかないオリジナルな状況がわかる写真や施設の見取り図、人の動きや確認できる動画などがオンライン研修の必須コンテンツとなります。

 

施設や人の現状(人の動線、衛生区分、管理ゾーンなど)、この施設の人や物の出入りの状況から予想される感染経路を踏まえ、個々に応じた知識を提供し、モデル着用を動画で見せたり、各部署や職務の環境においてどこまでのPPEの着用が求められるのか(環境把握・見取り図)などを学習します。その後、自己評価→相互評価→実装→フィードバックを実施するなど、病院全体や各自が成果を挙げるためにインタラクティブに展開することでオンライン研修が有効に機能します。さらに、Zoomなどは録画機能があるので、何度でも繰り返し視聴することもできます。また、あとからそのオンライン研修を検証することも可能です。

 

 

双方向のオンライン学習で

集合研修

 

双方向型(ライブ)の「オンライン講義」であれば、かなりの集合研修を減らせます。医療センターのような広い建物の中、自分の部署、仕事場を離れずに集合研修に参加することもできます。これはオンラインでは無理かな?と思うものでも、工夫することでかなり使えます。

 

zoomを使った筆者の研修の一場面。

 

むしろ長方形の教室に大勢が並び、後ろの方で顔も見えない中、講師の話を聞くという昔ながらの研修や会議と比較すれば、よほど互いの顔を真ん前に見つつ言葉を交わしながら展開ができるので、むしろ有効とさえ言えます。

 

 

デバイスと通信環境さえあれば、今すぐにでもスタートできる

 

オンライン学習の導入に当たって、システムの構築から運用まで担ってくれる民間の企業もありますが、デバイス(情報端末)と通信環境さえあれば、今すぐにでも経費ほぼなしでスタートできるツールも沢山あります。ここでは、オンライン教育や研修で一般的に使えそうなものを紹介します。

 

 

オンライン講義や研修で

使えるいろいろなツール

 

手軽に誰でも動画をネットにアップして視聴できる動画共有サービス「YouTube」。限定公開に設定すれば、限られたメンバーだけが視聴することができます。Youtubeのライブ配信では、参加者がコメントや質問をすることができますので、それを見ながら講師は、臨機応変に映像で見せるものを工夫したりより丁寧に説明したりするなどもできます。

 

「Skype」はかなり以前からありますので、すでに使っている方も多いのではないでしょうか。スカイプは基本少人数の会議などで、使うことが多いかもしれません。

 

そして今、爆発的に増えているのがウェブ会議サービス「Zoom」です。1クリックでつながる簡単さ、何と言っても大勢が同時接続可能なことが授業や講義、研修の手段として人気のポイントといえるでしょう。

 

一方向の動画配信でなく、Zoomのような映像音声を双方向でやりとりができ、参加者全員が同じ教室にいるようなイメージで展開することができるオンライン学習の手段を使うことで、対面研修や集合講義をかなり減らすことができます。実際にどのように活用するかは次回以降にお伝えします。

 

 

アクティブラーニング/

グループで話し合う機能

 

双方向性のあるオンラインツールを使えば、広い建物の中、自分の部署や仕事場にいながらにして、オンラインの集合研修に参加することもできます。講師がモデルを見せて「さあ、この通りまずやって見て」と呼びかけ、気になる人がいれば、特定の対象者へ「カメラの側で手元を見せて、もう一度やってみて」などとやり取りすることもできます。

 

端末のカメラで見せたいものをズームさせることで、部署を超えて新人同士で手技を見せ合うようなことも気軽にできます。その様子を見つつ、ファシリテータ役の講師は必要があればサポートします。

 

「チャット機能」では、例えば講師が話している最中に遮らずに意見を述べたり質問をしたりできます。

 

 

ホワイトボードに書きながら話せる。

 

 

グループで話し合い、新しいアイデアを他の参加者へプレゼンするという活用の仕方もあります。この機能は、オンラインでアクティブラーニングを展開する上でとても有効です。

 

例えば、医療機関では「医療安全」「地域連携」「教育・キャリア支援」などさまざまな委員会が存在します。従来、会議室などに集まり定期的に行っていた活動も、Zoomのようなテレビ会議機能を使うことで、各自の所属部署の机に向かったまま、それぞれの委員会ごとにブレークアウトルームに分かれて実施できます。

 

 

Zoom「ブレークアウトルーム」機能で、

5人から2人ずつのペアになる。

 

 

こうした委員会活動は、必ず何らかの「情報」や「データ」を基に展開されます。「画像の共有」の機能を使うことで、資料を共有して最適に進行することができます。活動の最後には「リフレクション」として、その日の目標と成果と照らし合わせて評価することで仕事に活かします。

 

Zoomの「画像の共有」機能。

 

 

よき講師のあり方 ~

一方的に教えるだけでない

遠隔教育へ

 

双方向型のオンライン学習であれば、講師は映像や言葉のやり取りがスムーズにできるので、学習者一人ひとりの様子や背景が感覚としてわかります。

 

よき講師は、学習者の学習成果(テストの結果など)だけを見ることはなく、そこに至る思考のプロセスを見ようとします。それは一人ひとりの試行錯誤や心の状態、その人のキャリアビジョンなども含めた、人間的かつ包括的なものです。

 

学習者に対してただ知識を与えるだけでなく、「どう、ここまでわかっている?」「私が提供しているものは、あなたの理解したいことに応えている?」など、正確な意思疎通と「心を伝える」ことを大事にできる人です。

 

 

「教える人」から

ファシリテータや

コーチとしての役割へ

 

人間の成長には自分だけでなく他者の存在が必要です。オンラインだけでなく、リアルに少人数で集まる研修もゼロにはできません。一人ではなく複数が同じスペースにリアルに集まることでしか習得できないものも確かに存在します。

 

そこでの講師は知識やスキルを教える人でなく、ファシリテータやコーチとしての役割へと代わります。

 

 

看護師など「ひとコンピテンシー3が求められる仕事の研修であれば、オンライン上の学習ではできない手技などを、その部署ごとに伝え実践していくことが必要です。先輩にあたる指導者がファシリテータとしてその学習を支援する小規模な研修が必要であり、この場合はオンラインとリアルが組み合わさったハイブリットな研修を展開することとなります。

 

*3「ひとコンピテンシー」とは、人間と直接かかわり、その成長や健康・生命の存続などを目的とする実践知のこと。目の前の現実に対座し、ビジョンを描く力をもって全人格的に立ち向かう看護師や教師などの仕事に高い成果を挙げる力量、能力。

 

ここでは、講師は「教える人」でも「指導する人」でもなく、学習者の気づきを促し、環境を整えるために対話コーチングを行うなどファシリテータとしてふるまいます。その職場における専門性やキャリアを持つファシリテータだからこそ、インターネット上の知識や事例を、参加者にとって「自分ごと」である仕事と関連づけるよう支援することができるのです。

 

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次回(連載第2回)は、教員や研修の講師がどのような工夫をすると、学び手のモチベーションアップにつながるのか、オンライン講義・研修の具体的な進め方をお伝えします。

 

 

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連載のはじめに

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