本連載は月刊「看護」2025年6月号からスタートした同名連載の再掲です。

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第2回

震災時に看護はどう動いたか

「能登の灯」の会からの報告

中村 真寿美・澤味 小百合・中西 容子

2025.8.8

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被災病院で実感した

看看連携の大切さ

── 澤味小百合

 

当院の概要および被災状況

 

公立能登総合病院(以下:当院)は、「高度かつ専門的な医療と温かみのある医療サービスの提供で能登全域の住民の健康を守ります」という理念の下、救命救急センターを有する病床数434床(一般330床、精神センター100床、感染症4床)の地域災害拠点病院です。

 

発災時は、元日で勤務者数は少なかったものの、夜勤者が出勤している時間帯だったことが幸いし、救急外来で勤務していた日直医師と看護副部長・看護師、自主参集した職員たちでトリアージブースを設営し、傷病者の受け入れを開始しました。津波警報が発令されると、高台にある当院に地域住民が避難し、渋滞が発生。救急車の通行に支障が出る状況となり、混雑回避のため、職員は心苦しい思いで当院に訪れた住民を近隣の指定避難所に誘導しました。

 

当院に最も大きく長期的な影響を及ぼした被害は貯水タンクの破損です。貯水タンクは応急修理し、給水車による注水と使用量の確認をする日々が始まりました。105名の慢性維持透析患者が通院していましたが、治療を当院では継続できず、内灘以南地区へ依頼することとなりました。

 

また、断水が続く中でも、口腔ケアと陰部ケアはしてほしいと職員に伝えたところ、節水・工夫をしながらケアを継続してくれました。各部署での工夫や課題は、朝夕のミーティングで共有し、円滑な意思疎通で互いの理解を深め、日々変化する状況に柔軟に対応していけるよう、顔を見て話し合うことを大切にしました。

 

看看連携の実際

 

多くの病院に多数の患者を受け入れてもらうことで、看護の連携の大切さを実感しました。到着予定時間の大幅な遅れなど状況が錯綜する中、ある看護部長は「長時間かかっても無事に到着できたことが何よりよかった」と患者に優しく声をかけ、快く受け入れてくれました。

 

当院の透析室看護師は、数十名の患者を受け入れてもらうための準備や連絡などを行い、夜中まで対応に追われていました。連絡調整に時間がかかり遅い時間となっても、受け入れ先病院の職員が「遅くなっても大丈夫。私たちはいます、待っています」と声をかけてくれ、後に透析室看護師は「救われた気持ちになった」と話していました。

 

また、可能な限り普段通りのサマリーを準備しても、受け入れ先に十分な情報を届けられないことがありました。しかし、受け入れ先病院では職員から問い合わせをしたいという声が上がった際、「被災病院は大変な思いで患者さんを送り出している。自分たちで情報収集するように」と伝え、被災病院に負担がかからないよう、問い合わせを控える配慮があったことを後で知りました。

 

能登中部医療圏・能登北部医療圏は高齢化が進み、患者のほとんどが後期高齢者です。高齢者にとって環境変化は身体・精神の双方に負担がかかります。ある高齢患者が住み慣れた地域から金沢市へ移動する際にせん妄が生じると、受け入れ先病院の認知症看護認定看護師がその発症理由を明らかにしてくれました。搬送に当たる自衛隊のヘリコプター音が、患者の戦時中の記憶を呼び起こしていたのです。患者の人生を思いながら看護する姿勢を教えてもらい、この事例は当院の職員間でも共有しました。

 

次第に石川中央医療圏での救急搬送患者の受け入れが困難になる中、南加賀医療圏の病院の看護部長から「1人でも受け入れできないか毎朝ベッド調整している。どうぞ遠慮なく言ってください」との連絡を受けた際には、感謝の気持ちで胸が熱くなりました。

 

病院避難となり、DMATによって搬送された患者の受け入れも行いました。車に長時間揺られて当院に到着した患者の状態は、安定しているとの事前情報とは異なるように見えました。病棟師長は患者の状態をアセスメントし、かなり厳しい状態と判断。早々に家族に顔を見に来てほしいと連絡しました。そして、夜勤職員には、「今まで搬送元医院職員の方々がギリギリの状態でみてくださっていた。私たちで最期までみていこう」と伝え、日ごろから大切にしている看護観を基に行動してくれました。翌日、家族が見守る中、永眠されました。

 

災害対応をめぐる課題

 

今回の対応における課題には、転院搬送する際、行先が確定しないまま出発していた点が挙げられます。事態が切迫する中、「転院先未定、道中に決まる、決定後、再度連絡をする」という方法をとらざるを得ない場合がありました。高齢者宅では固定電話しか連絡手段がないケースが多く、家族との連絡がつきづらい状況下でこの方法をとったことは、家族・医療者双方に大きな負担をかけることになったと思います。

 

職員の被災についての反省点もあります。家族の理解と協力で出勤する職員がいなければ、能登北部を含む救急患者の受け入れは継続できませんでした。職員の使命感で病院機能を維持できましたが、中には精神的に不安定になっている人もおり、メンタルサポートのため、日本精神科看護協会を通じて精神看護専門看護師にオンライン面談をしてもらいました。また院内調査では、自分の気持ちを話せずにいた職員もいたことがわかりました。声なき声にいかに耳を澄ますかが必要だったと省みています。

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 県内外の多くの病院・介護福祉施設の皆さんに、さまざまな形で多くの支援をいただきました。当時は無我夢中でしたが、他施設の皆さんと情報共有や看護の力強い連携ができていたと、今では実感しています。平時から何でも話せる顔の見える関係、相手をおもんぱかる「ゆるやかなつながり」が有事に生きると思います。

さわみ・さゆり

2014年石川県立看護大学大学院看護学研究科博士前期課程修了。2019年4月より現職。認定看護管理者。

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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