日本学術会議 健康・生活科学委員会 看護学分科会

地元創成の実現に向けた

看護学と社会との協働の推進

[鼎談]

ともに、 じもとを つくる。

地元創成看護学とは何か

南 裕子

神戸市看護大学 学長

菱沼 典子

前・三重県立看護大学 学長

田髙 悦子

北海道大学大学院保健科学研究院

創成看護学分野 教授

構成

西村 ユミ

東京都立大学健康福祉学部看護学科 教授

綿貫 成明

国立看護大学校 看護学部看護学科 教授

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そのような中で大学が地域とどう連携してどのように貢献するのか。それは私たちが地元創成看護によって導き出したことと本当にぴったり重なりました。結果として私たちの提言はより実のあるものにできたのではないかと思っています。

 

そうした状況下で私たちの提言が学術会議という組織の中で点検・評価されていったんですね。提出時の内容には、災害については書かれていましたが新興感染症とその社会的影響に関することには触れていませんでした。審査してくれた人たちが熱心に「コロナのこの時代だからこそ、書けることがあるんじゃないか」とアドバイスをしてくれたんですよね。

 

私は査読の先生たちのあの熱意が地元創成看護の将来を支えてくれるだろうと思いました。学問を超えて看護以外の人たちが読んでくれている。医学系はもちろん社会科学系、生命科学系、工学の関係の人たちも含め学術会議全体で提言に目を通し、ものすごく多くのコメントが入って書き直しをしなければいけなかった。菱沼先生・田髙先生や西村先生・綿貫先生といったコアのメンバーは日夜、頑張らないといけなかった。すごく熱心に取り組まなければならないほど学術会議の反応がよかったんです。

 

もう1つは、学術会議から提言を出していくときに学際的評価を受けるためには一般の人がわかるように書かなければなりませんでした。看護界では理解されてもほかの人には伝わらないところをすごく指摘していただいたことで、よりよい提言にしていく努力ができたなと思います。

 

地元創成看護のこれから

 

提言を出した現在は、地元創成看護学を実装する時期に入っています。看護学分科会として今何をしていて、今後どのように活動していくのかについてお話しください。

 

田髙まず、看護系大学とそれぞれの地元が共働的な関係を構築すべく、地元の住民とのパートナーシップを推進していくということがこれから本当に大切だなと思います。また、この地元創成看護学を学術的にどのように体系化していけばよいのか、既存の看護学の中でどのように位置付けていけばよいのかという議論をスタートさせる必要もあると考えます。

 

看護が従来目指してきたジェネラリゼーションに加えて、地元固有のスペシャライゼーションをどのように展開していくのか。入り口として地元固有の問題に取り組みながら、その解決策が類似する他の「地元」で利用、応用できる可能性が当然あるだろうと思います。つまり、地元の課題から生まれたスペシャライゼーションから、他に通じるジェネラリゼーションに循環していくことも考えられる。そのような形で看護学の体系化そのものを大きく拡張することに貢献ができるのではないかと考えます。

 

菱沼田髙先生がおっしゃるように、スペシャライズされた地元発の看護アプローチにどのような共通性があるのか、それを見つけて循環していくことが求められるなとすごく思っています。

 

あともう1つは、今後各大学が自信を持って自分たちの地元を定義したうえで活動を展開することですね。「隣の大学と自分の大学は違うんだ」ということをよしとする教員の覚悟がとても必要なのではないかと思います。

 

金太郎飴のような今の大学のあり方からもっと自由になれれば、ずっと発想が豊かになっていくのではないかと期待しています。

 

大学のカリキュラム、つまり教育においてどう位置づけていくかということですね。地元創成看護は科目なのかそれとも理念なのか、あるいはアプローチの仕方なのか。いろいろな議論をしてきましたが、まだ確定していませんね。私たちだけでなく、それぞれの大学がこのことについてどのように考えていくのか。

 

神戸市看護大学の場合は、新カリキュラム改正の際、実習を地元創成看護学で体系化し概念枠組みにして、実習を組み立て直すことで、今までと違うものにしていきました。こうしたことについて、これからまだまだ議論していかなければなりません。一方で、実際にやってみて見えてきたものから変えていくやり方もあると思います。

 もう1つは、菱沼先生が冒頭で述べられていたように調査の結果、可視化されたのは個人ではなく大学全体のコミットメントの重要性です。地元に自分たちが拠って立つという覚悟ですね。地元と一緒にさまざまなことに取り組む中で変化していくことへの覚悟です。

 

例えば神戸市看護大学では、昨年の4月に「いちかんダイバーシティー看護開発センター」をつくり、県の基金で保健師の生涯教育を開始しました。また神戸市の重点事業の一翼を担ってオンライン・ナーシングを実施しています。こうした産官学連携で地元の課題に取り組んでいく機関ができていくことも大事です。

 

医学部には付属病院があり、薬学部には付置施設として薬用植物園(薬草園)の設置が義務づけられています。看護にはそうした決まりが何もないのですが、地元に貢献する組織としての看護系大学という視点に立てば、いろいろな形のものを生み出し発展させていけるのではないでしょうか。

 

そのためにはやはりデータに基づいたプランを社会に向けて広報し、アピールしていく必要があります。地元の町長さんや市長さんに理解してもらえるよう頑張ると同時に、看護界が地元創成看護の重要性を理解していくための運動も必要になっています。この記事を読んでくださった皆さんに「うちの大学でもやってみようかな」と思っていただけたら、私たちとしては望外の喜びです。

(2022年3月29日 オンラインにて収録)

 

 

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

© 2022  Japanese Nursing Association Publishing Company

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