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震央
震度6強〜7
震度6弱
震度5強
震度5弱
(資料:気象庁)
今あるがままの気持ちを
大切にすること
ここで紹介した2例とも、茫然自失状態で自分を保っていたケースかもしれません。もっと近づき、肩や背中に手を置いたり、優しい言葉をたくさんかけたりしたら、気丈に保っている気持ちが崩れてしまうことも考えられます。タッチングや言葉かけだけが、必ずしも正解ではありません。背中を伸ばしじっと前を向いている、その気持ちを尊重し、見守ることが適切なケースもあるのではないでしょうか。
タッチングによるストレス緩和の効果はさまざまな研究で示されています1)。日本ではなかなか日常的に人が触れ合う機会が少なく、触れることの意義が見失われがちですが、患者に近い距離で接する看護師は、「手当て」と言われるように、触れることで安心感を与える役割も担っています。ただ、今回のような大規模災害においては、その触れるという行為が、私のように経験の長い看護師であっても容易ではありませんでした。家族を亡くしたばかりの遺族に対し、DMORT看護師としてできることは、残された家族の今の心情をそのまま受け止め、見守り寄り添うことしかありませんでした。このような現場では、平時のような看護ができないこともあります。「今あるがま まの気持ちを大切にすること」とDMORT副理事長の村上典子(心療内科医)は話していましたが、現場での体験から私も同様に感じました。
家族に触れることが大切なのか、そのまま見守ることがよかったのか、それはケースバイケースです。私自身、家族へのかかわり方がこれでよかったのか自問自答していますが、すべて正しかったのかはわかりません。そのとき、もし私だったらどうしてほしかったのかと考えるときもありましたが、答えは出ませんでした。
体育館の向かいの道路は、勾配のきつい下り坂であったため、雪の間は家族の面会も少なくなりました。また葬儀社が来られず棺が足りなくなったため、次第に納体袋のままのご遺体が多くなりました。家族が避難所に避難しているため、ご遺体を引き取れないケースもありました。寒く冷たい床の上で、家族の迎えを待つご遺体に接していると、せめて棺の中にと祈る気持ちになりました。その姿があまりに気の毒に思えたため、警察の方にお願いをして祭壇をつくっていただきました(写真)。
私たちの活動は1月9日の朝、終了となりました。ご遺体の並ぶ前で手を合わせ、ともに活動した看護師と抱き合うと涙が溢れました。早くご遺体が家族のもとに帰れる日が来るように、と祈るばかりでした。
おわりに
これまで、講義や講演では、「新たな病気をつくらないように水を飲みトイレを我慢しないようにしましょう」と伝えてきましたが、今回は、水を飲むことや食べることを極力制限せざるを得ませんでした。水の摂取制限、オムツ内に排泄する不快感、寒さ厳しい中での車中泊は、心身ともに大きな負担です。特にトイレが使えない環境下での生活は、命と尊厳との闘いだと痛感しました。
現場では教科書通りには事が運ばず、理屈が通らないことや状況が許さないことなど、我慢を強いられることがありますが、この辛さを体験してこそ伝えられることがあると感じました。今回の活動は5日間という短い期間でしたが、この経験を経て「現場にこそ真の学びがある、文献は現場にある」と、あらためて思いました。
活動中の車中泊では、1台の車に3名が13時間以上閉じこもって過ごしました。メンバーとは親しくコミュニケーションができたため、気持ちの切り替えができました。トイレを使えないことの辛さも笑い話に変えられたことや家族との対面時のかかわり方について話し合い、そこからも大きな学びを得る事ができました。
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末筆ではございますが、あらためて被災された方へ心よりお見舞い申し上げます。どうぞご自身のお体を大切になさってください。これからも被災地に通い、復興に向けて少しお手伝いをさせていただきたいと思っております。
また、今回の活動をサポートくださった方々に、この場をお借りして深謝申し上げます。
(2024.03.02)
●引用文献
やまざき・たつえ2005年まで都立病院にて、救命センター看護師および災害対策担当として活動。現在は執筆や講演等を行う一方、救援活動にも積極的に参加している。山﨑絆塾代表/医学博士/一般社団法人日本災害看護学会前理事/一般社団法人日本災害医学会前理事、評議員/特定非営利活動法人災害看護支援機構初代理事長、現理事/認定特定非営利活動法人災害人道医療支援会監事/日本フォレンジック看護学会代議員。