第一回 支援と表現活動の

ハザマから考えうること

 

で、誰に向けて何を書くか

 

時代の流れ、という意味では「支援 ✕ 表現」というテーマが語れることも、僕が大阪で活動を始めた十数年前に比べたら圧倒的に増えた。ひとつは、日本では主に知的障がいや精神障がいのある人たちの造形作品が「アール・ブリュット」や「アウトサイダーアート」と呼ばれ紹介される機会が充実してきたこと。展覧会の開催も、以前であれば福祉施設や精神科病棟が、施設内の小さなアトリエスペースや地域の市民ギャラリーを使って開催していたものが多かったが、「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」に代表されるように、福祉サイドが自ら専門のギャラリーや美術館を設置、企画運営する例も各地で増えてきた。

 

そこでは、障がいのある人の作品のみならず、展示コンセプトにもとづいて、いわゆるプロの美術家の作品もボーダレスに展示される機会を創出している。これは、障がいのある人の作品を「福祉」や「医療」といった枠のみに留めず、広く「芸術」として提示していく流れとして賞賛されることだと思っている。と同時に、昨今では日本のこれらの作品が海外の展覧会においても出展・注目され、かつその流れを受けて公立の美術館までもがアール・ブリュットにまつわる企画展を実施するようにまでなった。

 

また、より最近では、2014年度から厚生労働省が「障害者の芸術活動支援モデル事業」を実施、2017年に入ってからは東京都が都内にアール・ブリュットの専門拠点を設置することを発表するなど、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、「ダイバーシティ(多様性のある)社会」の実現を芸術面から推進していく政策が、福祉・文化双方から動き出している。そしてこれら一般に(語弊があることを恐れずにあえて言うが)「障がい者アート」と言われる(言われやすい)領域に対しては、芸術サイドからの鋭い批評・議論が論壇や学術研究を通じて活発になされ、それらに関する書籍の発刊や雑誌の特集企画も盛んになった。

 

しかし、僕はまず本連載において「障がい者アート」についての原稿をストレートに書く気はない。ここではそのテーマに必要な部分は触れつつも、あくまで芸術(アート)という枠よりも広く「そもそも人が“表現”するとはどういったことか」という問いと「そもそも誰かを“支援”するとはどういったことか」という問いの接続点を探りながら、このことをあらためて、芸術サイドではなく支援現場サイドに「これって“支援”の一環ですか?もしそうなら、どういう類いの“支援”なのでしょう?」という問いとして振り返すような言葉を紡いでいきたい。

 

その理由は「障がい者アート」について語られた言葉をみていると、ある意味でその生まれ出た作品や、障がいのある作り手の存在に着目するなかで、どうしてもその「造形的取り組み」の紹介にのみ光が当たってしまい、日頃の支援者との何気ない関係性や造形活動に直接関係のなさそうな、(しかし一方ではその行為のほうが実は多くの時間を割いているといった)作り手の日常行為については抜け落ちてしまう、あるいは「わざわざ書かなくていいこと」とされてしまうことが多いように感じられるからだ。

 

僕は、支援される側に立つ利用者が作り手となって造形活動に取り組むその「手前」に横たわる日々の支援、あるいは造形活動の「後」に実際に支援現場にどのようなコミュニケーションの変化が訪れたか、そのことを支援者の生の証言から紡いでいくことのほうが、「福祉」の未来を考えるうえでも、また実は(本来は僕のフィールドである)「芸術」の可能性を考えるうえでも大切なのではないか、と考えているのだ。

 

本連載のタイトルは「超支援?!」。この言葉は、冒頭に記した浜松のレッツとともに行った支援会議の場で、ある施設職員が述べたキーワードだ。表現活動を通じて、通常の支援の枠を超えて支援することの意味とは何か?その問いは、翻って通常の支援とはどこからどこまでを指すのかを、改めて考えることでもある。表現活動を介すことで紡がれる新たな「支援する/される」の関係性。その関係性が紡がれていくプロセスは、支援する者にとってそれ以前まで想定していた支援の意味が書き換えられていく状況を半ば躊躇いながらも受け容れてゆくプロセスそのものでもあるだろう。

 

そしてこの問いの射程は、福祉と芸術という領域の話にとどまらず、精神看護や高齢者介護などひろく「ケア」の現場の意味をとらえ直し、かつ多(他)分野の知見とつながりあってより「外」へ開かれてゆく。そんな一助となることを目指して、ここに文章をしたためていこうと思う。

 

(第二回へつづく)

 

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