今回の視点 〜 編集部より
精神科病棟に入院している患者さんたちが「顔出し・名前出し」で被写体として、また企画運営者として会場に登場する写真展。それはありのままの自分たちと社会との間にある、見えない境界線を自身の力で超えていこうとする活動の第一歩でした。
アサダさんはそれが、展覧会をプロデュースした小川貞子さんにとって「病院の中で固定していた〈看護師/患者(ケアする者/ケアされる者)〉という関係性を微妙にズラし、看護師たちの新たな(広義の)〈ケア〉の回路を開いた」体験だったのは間違いないだろうと述べられています。
写真展を通して、見違えるほど元気になって力がでてくる患者さんたちを目の当たりにした小川さんは、しかし、いやむしろそのせいであるジレンマを感じるようになります。どれだけ素晴らしい「場づくり」を行っても、それは入院中の患者さんたちが日常的に社会とつながっていくための拠点とはなり得ない。本当に必要とされるのは、彼ら・彼女らが生きる同じ地域で暮らす人々と時間を共有できる日々の「居場所」なのだと。
こうした真摯な洞察が、看護部長の小川さんやその部下だった廣田安希子さんに、自分たちを病院という「ハコ」から飛び出させる決心として結実していきます。今回の記事ではそうした彼女たちの戸惑いや苦悩といった心の動きがよくとらえられています。
「Cafeここいま」を足場とする小川さんや廣田さんの取り組みは、NPO活動の拡張やさまざまなイベントの開催などを通して、いま現在もリアルタイムで地域にどんどん浸透中です。読者の皆さんも、もし機会があればぜひそのエネルギーを現場に訪れて感じてみてください。