「Nursing Today」2013年12月号

[Web版]対談・臨床の「知」を発見しよう! vol.5

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患者から受け継ぐもの

 

吉村:それから、いろんなルーティンの仕事をする中で、うまく学生を織り込んで彼らがちょっとだけ自信のあるところから、ちょっとだけ背伸びをしなくちゃいけない部分をつくってあげたりすると結構成長してくれるし、受けてくれた患者さんも嬉しい。それには知恵が必要で、いろんな仕込みを考えるのは非常にクリエイティブなことなんです。

 

例えばこの間、ある患者さんを在宅で看取りましょうということで、研修医が病院からご自宅へお連れすることになったんです。それでちょうど当日、うちの施設に小学1年生の男の子が職場体験実習に来ていたので、研修医に言って病棟から介護タクシーに乗って家に帰るまで同行させたんですよ。「君はこの子の指導医だからな」って。たまたま患者さんの息子さんとその子の父親が知り合いだったので同意も取れた。「このおじさん見たことある〜」「こら、担当医なんだからおじさんとか言っちゃダメだろ〜」とかやってましたよ(笑)。

 

吉田:素敵ですねえ(笑)。でもそれって、先生が地域の人たちと関係を築けているからできることでもありますね。

 

吉村:それで、その患者さんが家に帰ってしばらくすると、無呼吸になることが増えてきました。家族の不安も大きくなってきたので、亡くなる前の日にその研修医を「お泊り実習」に出したんです。そこにいても何もすることはないんですけど、息が止まったり少しの変化も見逃してはいけないと思って一睡もできなかったと言ってました。

 

吉田:考えてみると、人の死の間際に一緒にいることは、本当に意識してそういう機会をつくらないとできないかもしれませんね。その研修医の方は付き添われている何時間かの間に、いったいどんなことを思ったり考えたりされたんでしょう。すごい体験になりましたね。

 

吉村:ええ。きっといろんなことに思いを巡らせたでしょうね。不安なご家族の様子を目の当たりにするわけですから「普段電話をかけてくるご家族たちのいろんな気持ちがわかるようになった」とは言ってましたけど。

 

吉田:こういう関わりは、死を迎えるご本人にとっても何かを遺したり貢献する機会になり得ますね。

 

吉村:そうなんです。がんを患っておられたある高齢者のご自宅へ、亡くなる1週間くらい前に研修医と訪ねた時、聴診していると「私が死んだって、誰も気づいてはくれない。私はこのまま静かに死んでいくのよ」と言われて、すぐに返す言葉がありませんでした。でも「今日一緒に来ている研修医は来年から小児科医として働くんだけど、こうやってあなたを診察してお話を聞くという経験が、小児科医として彼がこの地域の40万人の住民をケアする時にとても役に立つと思います。あなたから受けたメッセージは、彼に受け継がれて次の世代の子どもたちをケアすることにつながります」って、苦し紛れだけれど頑張ってそう言ったんです。そうしたら「あら、それ悪くないわね」っておっしゃったんです。社会につながっているとか人の役に立っているということを、ちゃんと言葉にしてフィードバックしてあげないとだめだなと、その時に思いました。

 

吉田:私は北海道の田舎で育ったんですが、例えば車が轍(わだち)にはまっているのを見たら何も言わず押したりとか、生きていく中で自然に人とつながることができていたのが、東京のような都会に出てくると、とにかくすべてお金を払えば「人の手」が得られるので、人と人が顔の見える関係で助け合わなければいけない場面が極端に少ないんです。だからものすごく孤独がつくられやすいんだと思います。また、今は自分から積極的に関係性をつくろうとうする人だけが、いろんなコミュニティに属するチャンスがあるんだけど、ソーシャルな関係をつくろうとしない人や、つくる力をいろんな意味でなくしている人は、すぐにひとりぼっちになってしまう。誰も余計なおせっかいをしてくれないですから。

 

吉村:僕が今住んでいるところは、駅前の43階建てのマンションなんですが、そこは6年前にできた新しいコミュニティなんですよね。そこで診療所もやっていて往診もするんですけど、住民同士の関係を誰かが気にかけたり、人と人を引き合わせるようなお膳立てやマネジメントをしないと、全然コミュニティが生まれないんです。最近はビルの中でも福祉ゾーンなどの設置が充実し、高齢者をまとめていく動きがたくさんありますが、コミュニティづくりはなかなかうまくいかない。でも実は、田舎で僕らがやってきたノウハウをそこに活かせるんですね。いろんな講座を開いたり、病院に行かないような人こそ気にかけるとか、あと守衛さんと仲良くなるとコミュニティのことがよくわかるんですよ。そういったことは直接には医者としての仕事じゃないんだけど、「越境」をすることが、回りまわって、“みんながハッピー”になることにつながっている。ゴールは同じなんですね。

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