『対話する医療 ─ 人間全体を診て癒やすために』
孫 大輔 著/さくら舎
「対話(ダイアローグ)」という言葉に私が出会ったのは、2010年のことです。当時、家庭医として働く傍ら、市民と医療者の対話の場「みんくるカフェ」というものを始めることにしたのです。診察室の中ではなかなか来院者の話をゆっくり聴くことができない。それなら、例えば街中のカフェなどで、ざっくばらんに医療や病気のことについて「対話」できる場があったらどうだろう。そんなことを考えていたときに「議論」とも「会話」とも異なる、「対話」という新しいアプローチを学んだのがきっかけでした。
この本は、私が家庭医になって以来、ずっと考えたり、実践したりしてきたことを、「対話(ダイアローグ)」というキーワードでまとめたものです。第1章は、患者や家族との「対話」を大事にする医師である「家庭医」が行う医療とはどんなものか、患者中心の医療の方法や、家族志向のアプローチなどを説明しています。第2章は、医療コミュニケーションにおいて、患者と医師の「対話」がなぜ重要なのか、「対話」によって病気が回復するアプローチ(オープンダイアローグ)や、「みんくるカフェ」などの対話カフェ活動などについて。第3章は、人間同士の「つながり」がいかに健康を高めるのか、人の集合体である「地域」を軸に、ソーシャルキャピタルと健康、健康生成論などについて。そして第4章は、患者にとっての「良い医師」とは何か、「対話する医療」を実践する医師をどう育むか、共感やプロフェッショナリズムを育む教育など、医療者教育について書いています。
この本が主な対象としているのは、社会一般の方々ですが、医療従事者の方にも多くの示唆があることを期待しています。そして、医療について書かれた本なのに、ときどき、下町と銭湯の話が出てきたり、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の話になったり、映画や演劇の話になったりして、一風変わった本に見えるでしょうが、いたって真面目な内容です。また、未来の医療を担う医療系学生や医療を目指す高校生など、次世代の人たちにも読んでもらえると大変嬉しく思います。そして、これからの時代に「対話する医療」がもっと普及するよう、心から願っています。
2018年2月 孫 大輔
そん・だいすけ:2000年東京大学医学部卒。腎臓内科、家庭医療を専門として勤務を続けた後、2012年より現職。大学では主に医療コミュニケーション教育に従事。現在、教育・研究とともに、非常勤で家庭医としての診療を続けている。研究領域は医学教育学、ヘルスコミュニケーション、など。2010年より市民と医療者の対話の場「みんくるカフェ」を主宰。医学博士、看護学博士、医療者教育学修士。主著に『対話する医療ー人間全体を診て癒すために』(さくら舎、2月9日発売)、『人材開発研究大全』(東京大学出版会、分担執筆)。また、毎日新聞「くらしの明日:私の社会保障論」連載(2016〜17年)など。