text by : Satoko Fox

第5回 ペリネイタルロスを打ち明けられたら?

ペリネイタルロスを打ち明けられたら、なんと返す?

 

ご友人等から、突然、ペリネイタルロス(流産、死産などの周産期の喪失)の経験を打ち明けられたら、あなたはなんと言葉を返すでしょうか。すぐには適切な言葉が見つからず、戸惑ってしまうかもしれません。

 

英語には、“I'm sorry to hear that.” や “I'm sorry for your loss.” など、身近な人を亡くした相手に対して使う定型的なフレーズがあり、私自身もペリネイタルロスを経験後、そう言われることがよくありました。なお、この “I’m sorry” は「残念です」と訳されることが多いのですが、喪失後の場合は「心が痛みます」と訳すのが適切だと感じています。

 

一方、日本語にはこういったニュアンスの決まり文句はないので、経験者の私ですら、どう声をかけてよいのか迷うことがあります。

 

たとえば、「つらかったね」と声をかけることは、一見適切に思えます。しかし、「つらかった」と勝手に過去形にしてしまうのは、まだ悲しみの中にいる人には配慮が欠けているということもあります。ペリネイタルロス後のグリーフ(grief;悲しみ)は長く続くことが多いため、時間が経っていたとしても、本人はつらい思いを抱えているままかもしれません。

 

また、周囲の人からの言葉は、自分を励まそうと思って発せられたものであり、悪気がないことは理解している─それでも、心が傷つきやすくなっているときには、何気ない一言にもダメージを受けてしまうことが多いです。

 

このように、ペリネイタルロスの経験は、デリケートで、多くの人にとって話題にしにくい問題です。しかし、だからこそ、どのような言葉が経験者を傷つける可能性があるのかを、私自身の経験や、主宰するピアサポートグループでの参加者の方々からの発言、経験者の方々に対して行ったアンケートの結果をもとに考えてみます。

 

ペリネイタルロス経験者に言ってはいけない言葉とその理由

 

1. 経験を軽視する言葉

 

「流産はよくあることだから」

 

流産が全妊娠の約15%で起こり、年齢が上がるにつれてそのリスクも高まることは事実です。しかし、たとえ統計的には「よくあること」だとしても、それが本人にとってどれほど悲しい経験となるかは予想できるでしょうか。また、確率論で言えば、流産を経験する方が割合としては低いので、「なんで私が?」という感情が湧き起こるのも自然なことです。

 

2. すぐに未来に目を向けさせようとする言葉

 

「まだ若いから大丈夫」

「また次の子が生まれるよ」

 

すぐに将来の可能性を話されると、今の悲しみを軽視されていると感じてしまいます。ペリネイタルロスの直後には、未来の希望を語られるよりも、「今、抱えている感情」に共感してもらうことの方が大切です。また、たとえ「レインボーベイビー」(喪失後に誕生した子どものことを、雨後の空に架かる虹になぞらえ、希望の象徴としてこのように呼びます)を授かっても、亡くなった命の代わりにはならないことをわかっておいてほしいものです。

 

3. グリーフのプロセスを否定する言葉

 

「いつまで悲しんでいるの?」

「もう気持ちを切り替えないと」

 

グリーフは人それぞれであり、無理にそのプロセスを急がせるような言葉は、相手をさらに追い詰めることになります。失った命は「忘れる対象」ではなく、永遠に大切な存在であり、その感情を尊重することが大切です。また、

 

「いつまでも泣いていると、赤ちゃんが悲しむよ」

「次の子が来られないよ」

 

など、子どもを引き合いに出すのもよくありません。

 

4. 「過去の出来事」として処理する言葉

 

「あのころは悲しかったよね」

 

前述したように、悲しみが現在進行形か過去形かは、本人以外にはわかりません。また、たとえ本人が過去形にできていたとしても、「あの子のことを忘れないでほしい」「いつまでも覚えていてほしい」とも思っています。

 

5. 赤ちゃんの異常を強調する言葉

 

「たとえ生まれていても障害ばかりだった」

「育つ子どもじゃなかった」

 

このような言葉は、経験者の心の傷口に塩を塗るようなものです。どのような状態であっても、赤ちゃんの命は尊重されるべきです。

 

6.「不幸中の幸い」を持ち出す言葉

 

「妊娠するってわかっただけよかったね」

「もう子どもは1人いるんだから、いいじゃない」

 

このような言葉は、失った命が軽視されているように感じられることがあります。たしかに、不妊で悩んでいる人であれば、妊娠できることがわかっただけでもよかったと言えるかもしれません。しかし、わが子を亡くすのはとてもつらい経験です。また、すでに子どもがいたとしても、失った命はその人にとって唯一の存在です。

 

7. 神や運命を持ち出す言葉

 

「神様は、乗り越えられない試練は与えない」

「どんな経験も意味がある」

 

神や運命の概念を持ち出すことで苦しみを「意味のあるもの」としてとらえさせようとすることは、逆に相手の負担となる場合があります。これらの言葉が、本人が時間をかけて自分なりの意味を見出して発したものであれば、それは尊重されるべきナラティブ(narrative;語り、物語)ですが、外部から無理に押しつけられるものではないでしょう。

教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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