text by : Satoko Fox

第4回 悲しみの深さは
お別れしたときの 妊娠週数に比例する?

見過ごされている、早期流産後の

休業制度

 

1. 私の経験から

1回目の稽留流産のときには、週末に経口中絶薬を内服し、月曜日には排出が完了している状態でした(第2回を参照)。私は、自宅で遠隔画像診断の仕事をしており、この日の朝もいつものようにパソコンを開いたのですが、涙が止まらず、とても仕事ができる状況ではありません。

 

「そう言えば流産後って、みんな仕事はどうしてるんだろう?」

 

そう思って調べたところ、早期流産後の休業制度はないことを知りました。

 

「こんなに心にも体にもダメージを受けているのに、妊娠12週以降じゃないとケアしてもらえないんだ」

 

と、軽く憤りを感じました。そして、忌引き休暇についてもチェック。各会社等の就業規則や方針にもよりますが、自分の子どもが亡くなった場合の忌引き休暇は一般的に、5~7日とされています。「いや、短すぎるだろ」と思ったものの、これを参考に1週間休むことを決意。職場には流産したことは告げず、体調不良ということにしました。

 

これを読んだあなたはこう思うかもしれません。

 

「いや、『子ども』っていっても、生まれてきてないし」

「初期流産なんだから、体の負担、そんなにないでしょ」

 

でも、私にとってはおおごとです。妊娠して喜んでいた矢先に、未来への希望が突如失われてしまったのですから。

 

2. ブログ記事「流産後、仕事を休むかどうか」へのアクセスから

休むことを決めたその日、ブログに「流産後、仕事を休むかどうか」1)という記事を書きました。まだ読んでくれている人が少ない時期の投稿(2020年10月)でしたが、以来、継続的に読まれています。

 

「流産後 仕事 行きたくない」

「初期流産 仕事 休む」

 

知らない間に、こうした検索語で上位に表示されるようになったようで、今でも毎月300~400のアクセスがあります。その数を見るたびに、

 

「こんなにたくさんの人が、仕事を休むかどうかで悩んで検索しているんだ」

 

と心が痛みます。この事実は、たとえ初期流産であっても、仕事に行きたくないほど悲しい人がたくさんいるということを示しているのではないでしょうか。また、先述したとおり、ペリネイタルロスで最も多いのは妊娠12週未満での早期流産です。その人たちを対象とした制度やサポート体制がないのは、いかがなものでしょうか。

 

諸外国の例を調べてみると、

 

  • インド:流産した女性は、12週の忌引き休暇制度を利用可能(医師の診断書が必要)2)
  • ニュージーランド:流産や死産を経験したカップルは、3日間の忌引き有給休暇を取得可能(養子縁組や代理出産の場合も適応)3)

 

といったことがわかりました。これらの国のように、ペリネイタルロスを経験した人が、妊娠週数に関係なく忌引き有給休暇を利用できるよう、制度を整えてもらいたいものです。

 

ピアサポートグループ活動を

通じて

 

「妊娠初期のグリーフを抱えた人が気後れしてしまう」といった現象は、私が主宰しているピアサポートグループでもしばしば見られます。たとえば、私のように妊娠初期で稽留流産をした方と、双胎一児死亡で生産(せいざん)と死産を一度に経験した方が参加されたときには、やはり、妊娠初期で経験した方が「あの人に比べると私の悲しみなんて……」と思ってしまっている雰囲気が感じ取れました。

 

そこで、会の冒頭では、ウィコラ(カリフォルニアで女性・地域の健康に寄り添う活動を推進するNPO法人)の「対話の約束ごと」4)を引用し、いつもこのようにお話ししています。

 

「『誰が幸せ・つらい・悲しい』など決めつけず、自分の中での気づき・成長を促すことが大切です。このテーマはセンシティブであり、ちょっとした行き違いで相手や自分が予期せず傷ついてしまうことがあります」

 

「ペリネイタルロスを何週目で経験したか、何回目か、すでにお子さんがいるか・いないかなどでお互いに比べてしまうことがあります。でも、経験は人それぞれなので、比べるものではありません」

 

「もし対話の中でつらい・悲しい気持ちになった場合は、心の準備ができるまで話さなくても大丈夫ですし、トイレなどに行って、気持ちを落ち着かせてきてくれてかまいません」

 

お別れしたときの妊娠週数は

気にしなくていい

 

「悲しみの深さはお別れしたときの妊娠週数に比例する?」――今回のテーマに掲げた、この問いに対する私の答えは、

 

「それはそうかもしれない。でも、だからと言って、妊娠初期の喪失なら悲しくないというわけではない。つらいものはつらい」

 

です。要は、比べるような話ではないというわけです。とは言え、かつての私がそうだったように、比べてしまうのもすごく自然なことだと思います。さらに、ピアサポーターという立場で考えると、死産を経験した方が主宰しているピアサポートグループには、初期流産で経験した方は「私なんて……」と思って参加しにくい、ということもあるかもしれません。そのため、妊娠初期でのグリーフ経験者である私が堂々と発信することにも、意味があるのではないかなと思っています。

 

 

文献

  1. Satoko Fox(2020):流産後、仕事を休むかどうか. 女医の第2のドタバタ人生inカリフォルニア.
  2. TATA AIG Team(2024):Maternity leave in India. TATA AIG Insurance.
  3. Laurel Wamsley(2021):New Zealand approves paid leave after a miscarriage. NPR.
  4. ウィコラ(2022):大切にしたい「対話の約束ごと」6つ. note.

サトコ・フォック2008年、川崎医科大学卒業。聖マリアンナ医科大学病院および附属ブレスト&イメージングセンター勤務を経て、2018年にスタンフォード大学放射線科乳腺画像部門に研究留学。結婚・出産を機にアメリカに移住。乳腺の画像診断の仕事は続けながら、オンラインで助産師が乳がんについて勉強できる「ピンクリボン助産師アカデミー」を主宰。医学書院『助産雑誌』にて「「助産師の疑問に答える実践的おっぱい講座――多角的な「胸」の知識」連載中。乳がんに関する情報発信のほか、ペリネイタルロス経験者へのピアサポート活動も行っている。医学博士、日本医学放射線学会放射線診断専門医/指導医、日本乳癌学会乳腺認定医。2022年、不妊症・不育症ピアサポーター等の養成研医療従事者プログラム受講修了

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