text by : Satoko Fox

第4回 悲しみの深さは
お別れしたときの 妊娠週数に比例する?

考え始めたきっかけは、ピアサポートグループへの参加

 

わずか3か月の間に稽留流産と異所性妊娠(子宮外妊娠)を立て続けに経験したことで(前回までの記事を参照)、私は、自分自身が何かしらのサポートを受ける必要があるのではないかと感じ始めていました。

 

そんなとき、知人がペリネイタルロス(周産期の喪失)経験者のピアサポートグループを紹介してくれたので、勇気を出して参加することにしました。ピアサポートとは、専門家としてではなく仲間(peer)として互いに支え合うことを意味し、さまざまな分野において行われています。

 

そのときの参加者には、流産だけでなく、死産や新生児死亡を経験した方が混在していました。また、グループの規定には含まれていませんでしたが、交通事故で5歳のお子さんを亡くした方も参加されていて、その方とマンツーマンで話す機会もありました。そして、このときのお母さんたちとの対話をきっかけに、子どもと過ごした時間とグリーフ(grief;悲しみ)との関係について考えるようになりました。

 

私のグリーフは、いずれも妊娠5~6週の妊娠初期での喪失に発したもの。そう考えると、妊娠中期や後期で喪失を経験した方、小さなお子さんを亡くした方と比べたら、私の悲しみは取るに足らないような、悲しんではいけないような、そんな感覚にとらわれてしまったのです。

 

このように考えてしまったのには、医師としての経験や、自分がすでに子どもを1人もうけていたことが関係したのではないか、と推測しています。

 

研修医のときに経験した、妊娠35週での死産の立ち会い

 

私が初期研修医で産婦人科をローテートしていたとき、妊娠35週での死産に立ち会ったことがありました。経過は順調と思われていたにもかかわらず、子宮内胎児死亡と診断され、陣痛促進剤(子宮収縮薬)を使って分娩することになったのですが、そのお産は無痛分娩(麻酔分娩)ではありませんでした。泣きながら、陣痛に合わせていきむお母さん。何度も何度も繰り返し、やっと出てきた赤ちゃんは、正期産と変わらないサイズでした。ただ、とても青白く、当然ながら、「おぎゃあ」と産声をあげることもなかったのです。

 

「『産みの苦しみ』を味わっても、生きている赤ちゃんと対面できるわけではない。それでも自力で産まなければならない」

 

その事実がたまらなくむごく感じられて、このとき目した場面は、今でも鮮明に覚えています。

 

そして時は流れ、私自身も妊娠・出産を経験しました。いくら妊娠の経過が順調だったとしても、妊娠期間は長いのでそれなりに大変ですし、陣痛は痛いです。一度その大変さを経験したからこそ、

 

「あのときのお母さん、あとちょっとだったのに」

「陣痛にも耐えたのに」

「あのお母さんに比べたら、私の悲しみなんて……」

 

そう考えてしまったのは、一度や二度ではありません。

 

妊娠週数とペリネイタルロス

 

流産・死産については、このように定義されています。

 

「妊娠22週」は、赤ちゃんが母体の外に出た際に生存可能かどうかの境界線とされており、22週未満の場合を「流産」、22週以降の場合を「死産」としています。さらに、流産は、妊娠12週未満であれば「早期流産」(一般的には「初期流産」ということが多いです)、12週以降22週未満であれば「後期流産」と分類されています。

 

ペリネイタルロスのうち最も多いのは早期流産で、流産全体の80%以上を占めています。その中でも最も多いのが妊娠5~6週で、次に多いのが7~8週と言われています。そのため、「9週の壁」という表現が使われたりもします。

 

日本では、心拍が確認できると、保健所などに母子健康手帳をもらいに行く人も多いですよね。「お母さんになるんだ」という実感がさらに湧くので、その後に心拍が確認できない状態になると、ショックだと思います。また、安定期に入ると、まわりに妊娠を報告することも増えていきますね。安定期とは、一般的に妊娠16~32週目を指し、早期流産の確率が低くなり、つわりなどの症状が落ち着いてくるころです。ただし、妊娠中はいつ何が起こるかわからず、生まれてくるまで安心はできません。

 

医療的なマネージメントの観点からは、後期流産や死産の処置は、よりお産に近い形となっていきます。そのため、お腹の中で赤ちゃんが亡くなっている状態であっても、お母さんは陣痛や「出産」を経験します。当然、母体にも負担がかかり、回復にも時間がかかるようになります。また、赤ちゃんはより「ヒト」らしくなっていて、弔(とむら)いの方法にも選択の幅が広がってきます。

 

グリーフは数値化することができません。それが今回のテーマ、妊娠週数との関わりを考える上でも難しいところです。

そこで、世間一般にはどうとらえられているのか、それを示唆していると言えそうなものとして、妊娠週数と関連する2つの法制度について見てみます。

 

1. 産後休業は妊娠12週以降

「労働基準法」に基づく産後休業の対象者は、「妊娠4か月(12週)後以降に流産・死産した女性労働者」となっており、その場合は原則8週間、休むことができます。つまり、産後休業の対象は、妊娠12週以降である後期流産と、22週以降である死産。ここで忘れてはならないのは、12週未満である早期流産を対象にした休業制度は存在しないということです。

 

2. 死産届は妊娠12週以降

「死産の届出に関する規程」によると、妊娠12週以降の胎児を死産した場合には、死産後7日以内に役所へ届け出る必要があります。死産届は、医師や助産師が書く死産証書または死胎検案書と一体となっており、その書類を提出することで埋火葬許可証が発行されます(死産届を提出したとしても、戸籍に記載されません)。

 

このように、医学の定義では死産は22週以降とされている一方、行政の定義ではなぜそのように設定したのかはわかりかねますが、死産は12週以降となっており、乖離(かいり)が認められます。さらに、病院でのサポートも、死産の方が手厚いのも事実です。では、早期流産では、そんなにダメージはないのでしょうか。

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