── 考えること、学ぶこと。

梟文庫という居場所

西尾 美里 さん

梟文庫での学びの実践

 

梟文庫では、さまざまなワークショップやイベントが企画運営されています。ハロウィン雑貨やお菓子など季節のイベントから、占星術、清掃活動「ゴミコロリ」への参加、ミサンガづくりや編み物、ダチョウの卵観察&試食など、興味深いものばかり。昨年度はなんと42回も開催されています

 

参加者の年齢や目的も幅広く、子どもだけの場合もあれば、親子での参加、大人同士のこともあります。特定のワークショップが目当てで来た人や、暇だったから来た人、遊び場として来た人も。一見すべてがバラバラに思える企画のラインナップですが、そこにはどんなねらいがあり、どのような実践が展開されているのでしょうか。

 

まず、イベントやセミナーの講師といえば、大学のお偉いセンセイをイメージしがちですが、梟文庫ではご近所に住んでいる何かの得意分野をもつ、ごく普通の大人が講師を務めます。「これが得意! この分野が好き! という大人に接するのって、子どもにとってとても大事なことだと思うんです」と西尾さん。

 

 

 

ただ知識を伝授してもらうような学校式の授業ではなく、何かにワクワクすることに出会う機会を設けて、子ども自身が「もっと知りたい!」と主体的に学びだすこと。そしてその刺激を与えるのが、得意分野をもつ大人の役割です。何かに熱中している姿、探求し続けている背中は自然と人の知的探究心を刺激します。それを、梟文庫を通して肌で感じてほしい。そんなさりげない目論見が織り込まれているのです。

 

多様であるため「やくそく」

 

梟文庫の大きなテーマは「生活を通してともに学び合う」こと。前述したように、私設図書館という場を介して、いろんな人が自由に集まることを最大限に尊重した「多様であることを、ともに学ぶ実践」が重視されています。さらにそこには、二つの方向性が。一つは、固定された多様性ではなく“ダイナミックな多様性の実践”であり、もう一つは“地域の日常に多様性を取り戻す実践”です。

 

ここでは、自由に人が集まる場でありながら、いわゆる“やっていいこと・ダメなこと”の線引きが明確にされていません。だからといって、なんでもアリというわけではなく、ひとつだけ提示している理念が「やくそく」です。

 

「どうしたら自分も、その隣にいる人も、そしてみんながきげんようやっていけるのか。いっしょに考えながら活動していきましょう。それが梟文庫の〈やくそく〉です」梟文庫ホームページより

 

この「やくそく」は、先に決められたルールがある約束よりも難しい実践を要するものです。既定のルールは明確な線引きを事前に提示することによって、それを守ることに悩んだり迷ったりすることが少なくなります。しかしそのルールが明確であればあるほど、そこから外れる者がいると一律に“排除”されかねません。

 

 

 

一方、梟文庫での「やくそく」は、それとは逆の実践が求められます。たとえば看護師として働いていた頃の西尾さんであれば、患者さんの行動が治療方針や施設の基準から逸れていれば「注意する」ことが当たり前でした。しかし、梟文庫での人々の行動には病院のように厳密な規制はありません。誰かの振る舞いが注意をする対象になるか否かは、その時そこに集まったメンバーとの関係によるのです。

 

つまり、その場にいる人たちの許容範囲内であれば、時によって同じ行動でもダメ出しの対象にはなりません。集まる人に合わせてその都度見定めていくことになります。一律な判断ではなく、常に考えることが求められる、いわばダイナミックな多様性の実践です。そしてこれは、世話人だけに求められていることではありません。

 

「誰にとっても100%居心地のいい場所ってないんですよね。その中で、互いに我慢したり、ゆずったり、あきらめたり……」と西尾さん。

 

自分は何が気になり何は気にならないのか。それは、自分が何を大事にしているからなのか……。こうしたことは普通、表だって議論されることは少ないものです。我慢は水面下に押しやられて無かったことになる。しかし梟文庫では、自分と異なる存在との出会いを通して、自分を知ることが自然に生じています。

 

差異との出会いを大切にする。それが梟文庫という居場所なのです。

 

何かをいいと思うか否かは、その人々によります。それぞれの身体・考え方が違うのだから、一律の基準でなくてもいい。固定した基準でなくてもいい。だから、その時そこに居る人たちみんなが“きげんようやっていける”ということが、最大公約数として掲げられるのです。

 

 

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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