2016年4月にスタートした科学研究費補助金プロジェクト「医療現象学の新たな構築」は、過去6年にわたって実施された科研費プロジェクト「ケアの現象学の基礎と展開」と「ケアの現象学の具体的展開と組織化」を土台にして、哲学、看護学、社会福祉学の研究者に医師を加えるかたちで組織された研究プロジェクトだ。今後、国を挙げて推進されていく在宅医療や地域包括ケアに向けた、よりよい医療の実践を哲学的に基礎づけ、方向づけることを目指している。
代表者の榊原哲也氏(東京大学)は次のように説明する。「〈ケアの現象学の基礎と展開〉では当初、現象学という哲学を看護や社会福祉の領域に応用するという考えを私は持っていましたが、研究を遂行するうちに、そうではないことに気がつきました。現象学とはもともと、事象そのもののほうから分析や方法を立ち上げてきた哲学ですから、ケアの現象学も現場でのケアの営みという事象そのもののほうから既存の現象学を見直すような〈新たな現象学〉を立ち上げなければならないことに気づいたのです。今回の「医療現象学の新たな構築」も、医療の現場での事象そのものの方から、医療の現象学を新たに立ち上げることを目指しています」。
8月2日に東京大学で開催された第1回研究会では、プロジェクト・メンバーの西村ユミ氏(首都大学東京)と村上靖彦氏(大阪大学)による講演と対談を実施。二人の近著『看護実践の語り:言葉にならない営みを言葉にする』(西村ユミ、新曜社、2016年)と『仙人と妄想デートする:看護の現象学と自由の哲学』(村上靖彦、人文書院、2016年)を題材に、ぞれぞれの共通点・相違点を確認しながら、医療ケアにおける現象学的アプローチのあり方が議論された。ここではその内容を3回にわたって紹介する。
● 司会 ●
榊原 哲也(東京大学 教授)
守田 美奈子(日本赤十字看護大学 教授)
ディスカッション 前編
「問い」は現場での対話から立ち上がる
個別と普遍をめぐって
方法の多様性をさぐる
ディスカッション 後編
視点をどうとるのか
キュビスム絵画と「編み込み」
質疑応答
つくる・つくられる、規範からずれる
看護師の枠組み
「身体性」をどのように拾うのか
「突き刺さる」経験と「個」の広がり
普通の言葉
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