「看護職とハラスメント」アンケート結果報告

         

3. ハラスメントへの対処、相談

(緩衝要因)

 

── 被害者が行った対処

 教育現場では回答のあったうち27名中25名(92.6%)がハラスメントについて誰かに相談していた。臨床現場では相談した人は71名中43名(60.6%)と約4割は相談していないことがわかった。相談しなかった・できなかった理由として、「相談するエネルギーもなかった」等の気力低下状態や、「相談してもそのことを告げ口されると思った」等の心理的安全性が脅かされた状態、「相談できる環境がない・言える場所がない」等の環境要因が関連していた。

 

── 相談相手

 教育現場では「職場内の他の教員(64.3%)」「職場外の知人や友人(60.7%)」「家族(42.9%)」の順で多く、臨床現場では「同僚(67.4%)」「行為者以外の上司または所属長(39.5%)」「家族(25.6%)」の順で多かった。

 臨床の現場では同僚に相談している人の割合が高く、所属以外の場や人へ相談している割合が教育現場に比して少ない傾向がみられた。先に見たように、ハラスメントについての知識が不足していることや、外部に相談することをためらう人も多いことが背景にあると推察され、相談窓口や外部機関を相談機関として利用できるよう保証する必要性が考えられた。

 

 

 

 

── ハラスメントを受けていた時の周囲の反応

 ハラスメントを受けた周囲の反応については以下のような記述がみられた。

 

〈教育現場において〉

 

(1) 話をきいてくれた

  • 当事者の教授は、他の先生にもハラスメントをする人だったので、好意的に支援してくださった。話を聞く、対処方法などを教示してくれた。
  • 話を聞いてくれたり、ハラスメント委員に通報してくれた。
  • 訴えられるよう準備はしていた方が良いと言われた。
  • 驚いていた。私の話に耳を傾けてくれた。
  • 家族や友人、私の臨床時代を知っている知人たちは、年々元気がなくなる私を心から心配してくれた。また、「今までのあなたを知っているから、今のあなたはあなたらしくない。こんなに元気がないあなたを見たのは初めてだよ」と声をかけ気にかけてくれた。「ハラスメントの相談窓口に相談してみたら」とアドバイスもしてくれた。

 

(2) 黙認された

  • 黙認。
  • 距離をとり、腫物を触るような言動だった。
  • 加害者の情報操作により、被害者に非があると思い、被害の実態を分かろうとしてくれないことがあった。
  • 理解してもらえた部分もあるが、最後まで理解してもらえないこともあり、疲弊した。
  • 発言する私のほうがおかしいというような空気。

 

(3) 何もしてくれなかった

  • 大丈夫ですか。など声掛けはあるが加害者との関りは避けている。
  • 積極的かつ具体的な対応をしてくれる人はいない。
  • 多くは泣き寝入り、皆嫌な思いをしているが事を荒立てたくない雰囲気。
  • 心配はしてくれるが、何もしてくれない。
  • 自分たちへの仕事の負担が減ったり、自分たちの利にもなることであれば静観している。自分の立場を守りたいのが本音なので、結局は見て見ぬふり。特に総務人事部長や専攻科長も教授の報告を鵜呑みにするか、こちらの状況を直接見て知っていても、「うちの領域のことです」と教授が言えば、何もできない・何もしない。
  • ハラスメントの相談窓口は、最初は親身に対応してくれていると思ったが、ただ話を聞いてくれただけだった。「通達を出して対処します」と言っていたことが、その後何も対応されていないことが発覚し愕然とした。そして、次の(他領域)被害者が出てしまった。
  • 学内の相談窓口は、ハラスメントの被害者である個人の人権を守るためではなく、組織を守るように動いているように見受けたため、労働局に相談した。労働局からかなり具体的なアドバイスをいただき、もう一度組織内のハラスメント担当者に連絡を取ったところ、私が相談してから10か月後にようやくハラスメントに関する注意喚起の通達が出された。それでもなお、教授による(他領域を含む)ハラスメントは続いたため、自分自身の心の健康が保たれないと考え、やむなく退職した。

 

(4) 加害者側に加担していた

  • 同じ研究室内の教員(助教)からは無視された。
  • 他の副学科長は、かわいそうと笑っていた。
  • 迎合する人もいて絶望することもありました。

 

〈臨床現場において〉

 

(1) 話をきいてくれた・アドバイスをくれた

  • 客観的な判断をしてくれた。
  • 共感してくれる人もいた。
  • 話を聞いてくれた。しばらくして部署を異動した。
  • 全体で被害があったため皆で慰め合った。
  • 同情的であった。時々、食事や飲み会に誘ってくれた。気づかってくれた。
  • スタッフは同調してくれた。
  • 見守ってくれました。
  • 早く回復するために、休職を勧めてくれた。
  • 愚痴を聞いてくれて共感してくれた。
  • 共感してくれた。無理しないようにと慰めてもらった。

 

(2) 何もしてくれなかった

  • 愚痴は聞いてもらえても改善に向けた対応はしてもらえなかった。
  • 周りの職員も知っていたけれど、何かすれば今度は自分に影響があると沈黙していた。
  • 口出しせず傍観。
  • 無関心だった。
  • 主任は聞いてくれただけ。
  • 同調する人と遠巻きに見ているだけの人といた。
  • 周りの人たちの表情は変わりましたし、空気は変わりましたが、誰も何も言いませんでした。
  • (よくあることだったので)刺激しないようにそっと見守っていた。
  • みんなも恐れていたので……。
  • 見守り。そうするしかなかったと思う。
  • おかしいと思っていたが口を挟める状況ではなかった。
  • 相談にのってくれるが、同僚は、自分が次の被害者とならないようにしている。何もしない。
  • 擁護してくれる人もいれば、自分が被害者になりたくないと見て見ぬふりをする人もいた。
  • 管理室の副部長は、最初は話を聞いて対応を一緒に考えてくれていましたが、エスカレートすると、見てみぬふりをした。
  • 私に加担すると自分の職を失うため、個々には同調して泣いてくれたり怒ってくれたりしていましたが、ハラスメントの間はノーリアクションです。
  • 上司は1ヶ月ほど勤務配慮してくれたが以降は何もなし。周りは見てみぬふり。
  • みんなそうだからしかたがないと言われた。
  • あからさまな態度の師長に対して批判的ではあったが、何もしなかった(出来なかった)、部長より聞き取りをされた人は現状を伝えたようだ。
  • 私が一人で所属長にむかって戦っていたという認識。頑張りすぎたから休むことになったんだろうといった反応だった。

 

(3) 気づかれなかった・避けられた

  • 職場では誰も気づかなかったと思う。
  • 信頼できる一部のスタッフにしか相談してないので、それ以外は私が困っていること自体理解していないと思う。
  • 避けられた。

 

(4) 加害者側に加担していた

  • 助けてくれようとしたが、まわりもみんな暴言をはかれたり、逆に医師のかたをもったりしていた。
  • 発言することで自分も同じことをされると感じて遠巻きに観察、上司に同調していた。
  • ハラスメントに加担していた方々は面白がっていました。
  • 先輩達はグループで煽っていたように感じた。
  • 相談する自分の方が逆に白い目で見られてしまい、人事考課にも影響するようになった。
  • 気にせんときと言ってくれる人も、一緒になって悪口を言う人もいた。
  • 自分がそうならないように、管理職の機嫌を取るような発言が多く見られた。
  • 共感されなかった。個人の能力の低さや個人の責任とされた。

 

 教育現場、臨床現場とも、話を聞いてくれる、共感する、アドバイスをもらうというサポートを周囲から受けていた。一方で、黙認されたり、具体的な行動を起こすわけではなく、ときに起こせない状況であったことが記されていた。場合によっては加害者に加担するといった周囲の反応があることがうかがえた。周囲のサポートを充実させるだけではなく、特に被害者保護の観点から、周囲が加害者側に加担する状況に対する対策が求められる。

 

 

         

教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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