Z 令和6年の新人 今どきの若者とどう向き合い、共に働くのか generation
第1回「いい子症候群」の若者たちと共に前へ進むために 金間大介

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「いい子症候群」を生んだ 大人社会

昨今の若者の心理的特徴を語るとき、よくやり玉にあがるのがSNSだ。もちろんその影響は小さくない。現在の若者の人間関係やコミュニケーションを凝縮した場、それがSNSだ。ただ、彼らの心理的気質を育んだ原因は、もっと奥深いところにあると僕は考えている。その最たる要因の1つは、紛れもなくこれまでの日本社会そのものだ。先輩社会、大人社会と言ってもよいかもしれない。

 

現代は非常にきれいな時代になった。僕が小学生だった20数年前、職員室はタバコの煙であふれていた。職場における新人は「坊主」と呼ばれていた。どちらも今となっては信じられない光景だ。このように、大人社会では昔に比べてアウト事項が圧倒的に増えて、「クリーン」になった。

 

そのこと自体はとてもよいことだと思う。しかし同時に、30代以上の大人世代が発言内容に敏感になり、失敗を恐れるようになってきた。わかりやすい例としては、コンプライアンスやハラスメント問題があるが、僕が気にかけるのはもっと身近な日常の話だ。

 

正解や正しいことで埋め尽くされ、いつの間にか間違わないことが仕事をするうえで第一となった。周りの目がすべて自分を監視しているような感覚さえ覚える。実際は監視などなく、自己裁量だってちゃんとあるのだが、クリーンな世界では些細な「変化」も目立つ対象になる。

 

もし、どうしても「変化」をつける必要が生じたらどうするか。そのときは「理由」を探す。いつ、誰から「なぜそれを選択したのか」と問い詰められてもいいように、しっかりと「理由」「言い訳」を頭の中に用意しておく。その最たる例が、「上が決めた」「以前からこうしていた」「周りがそうしていた」の3点セットだ。

 

このような社会では、何もしないことが結果的に合理的な選択となる。ハラスメントなどに限らず、あらゆる面で自発的に行動しない方が失敗せずに済む。「私は言われたことをやっただけです」という状態を保つほうが楽だし、得をする社会になったのがこの日本だ。そのような中、若者の行動が同調的で横並びになるのは、ある種の必然と言えるのではないだろうか。

 

僕は今、若者側から見た立場で語っている。徹底した前例踏襲と横並びを貫く先輩たちが、「主体性を発揮しよう」「自分で考えて行動しよう」と若者たちに言う。若者たちにとって、そんな大人たち、先輩たちがどう映るのかを、ぜひ今一度、想像してほしい。

 

いい子症候群そのものは 社会課題ではない

いい子症候群の話をすると、頻繁に「それは大変な問題ですね」「どのように解決したらいいでしょうか」と問われる。しかし僕自身は、いい子症候群が問題だと捉えたことは一度もない。それは1つの社会現象であって、社会課題ではない。

 

なぜなら、彼ら本人からすれば、その方が幸福に生きられると思って選んでいる生き方に過ぎないからだ。あえて言うなら、社会からの圧力に対し身に付けた防衛戦略、と言えるかもしれない。

 

その防衛戦略とはどんなものか。それは、自分に対し過度の圧(期待や要求)や損失(均等に得られるものが自分だけ得られないこと)を避けることだ。そのために彼らは高度な「演技」を身に付ける。僕はこの演技のことを対大人の「テンプレート」と呼んでいる。

 

彼らは、10代のうちから、協調性があって主張しすぎない態度が大人受けすることを経験的に学んでいる。最初から意欲がないように見せてしまっては、横並びの状況からこぼれ落ちてしまうかもしれない。かといって、先頭に立つようなことはしてはいけない。その微妙なバランスを示す武器、それが演技でありテンプレートだ。

 

この演技が極めて高度化しているのが昨今の若者の最大の特徴と言ってもいい。どのくらい高度かというと、ほぼすべての先輩はそれに気づけない。だから多くの人は「最近の若者は素直でまじめで優秀」と言う。だから多くの人は「一対一で話すとちゃんと考えていることがわかった」と言うのだ。

 

Z世代におけるいい子症候群の 割合と意欲格差の拡大

僕は、いい子症候群の数をZ世代全体の半数近くと見ている。対極に位置する「意識高い系」と言われる層が1割程度として、残りの3~4割がその中間的存在だ。

 

ちなみに、若者の間ではもう「意識高い系」といった言葉は使わない。その代わりとしてどんな表現が適当かと問うと、多くの学生から「『変人』がしっくりくる」という返答が返ってきた。呼び名はどうあれ、その1割はどの分野・業界に行ってもきっと主導的存在となるだろう。近年の新興企業の増加などがそれを体現している。

 

意識高い系の若者の選択肢には必ず起業が入っていて、実際に起業経験者も増えてきた。彼らの進路はかつては霞が関や大企業であったところが、現在はベンチャーやスタートアップと呼ばれる新興企業へと移っている。

 

実は、ここに1つの皮肉的帰結がある。今述べたように、やりたいことがある若者は、既存の組織を選ばなくなっている。学術的には新興企業に対して「既存企業」と呼ぶが、日本の既存企業の新陳代謝は非常に低く、そのことが意欲ある若者にとっては窮屈なのだ。逆に、横並びでいたい若者にとっては、既存企業の方が安定していて安心感がある。

 

そのため業界や分野によって、若者の意欲格差が大きくなっている。この既存企業というフレームの中には、医療業界も含まれる。むしろ象徴的存在と言っても過言ではない。「資格さえ取れば働ける」「しっかりしたマニュアルがあって、それさえ守っていれば怒られることはない」という認識が強いためだ。

 

医療業界を例に

もちろん規則やルールを守ることは重要だ。命にかかわる仕事の中で、ルーズな運用は絶対に許されない。ただ、僕自身、多くの看護師育成に携わる人たちと接してきた中で、わかったことが2つある。

 

1つ目は、厳密なルールの下においても、行動のすべてを規定することはできないということだ。むしろ、患者を前に臨機応変に対応すべき事象は多い。そんな職務を遂行するに当たって、自らの行動と、その結果得られるフィードバックから学ぶ点は非常に多い。この学びこそが、看護師としての成長を促す重要な要素だということ。

 

そしてもう1つが、そういった臨機応変の行動こそが、患者の満足度や、ひいてはウェルビーイングを高めている可能性が高い、ということだ。看護師の行動1つひとつは些細かもしれないが、そのちょっとした違いが、患者の心を癒したり、安心させたりするのだということ。

 

ここで、この2点を面前にして、危惧することがある。それが、「資格さえ取れば働ける」「しっかりしたマニュアルがあって、それさえ守っていれば怒られることはない」という認識にいる若者たちの存在だ。彼らは明らかにこの学びと成長のループを放棄しているように見える。

 

目の前の若者1人ひとりと 向き合うこと

「では、どうしたらいいですか?」と頻繁に聞かれる。そう聞きたい気持ちはわかる。だが、これは人の話だ。残念ながら答えはないのだ。あるとすれば、それは目の前の若者1人ひとりと向き合うこと。それしかないのだ。

 

僕は医療業界に明るくない。よって、再び企業の例をもって解説しよう。昨今の若者に対する接し方の中で、最も多く見られる例は、過保護に接するパターンだ。ちょっとでも圧をかけたら辞めてしまうかもしれないので、負荷のかかる仕事からは遠ざけ、彼らを守ろうとする。ただ、この結果、最近では「ゆるブラック企業」などと称され、「ここでは成長できない」と感じて、結局辞めてしまったりする例も後を絶たない。

 

僕が主張する「向き合う」とは、伴走するということだ。伴走の仕方は個別であり、決まったマニュアルは存在しない。ただ、1つ念頭に置いておいてほしいと思うのは、「分解して示す」ということだ。例えば、患者との接し方を伝えるとき、「もっとしっかり観察するように」では漠然としていて、実際にどうしたらいいかわからない。そこで、「私は患者さんの表情と身体全体の仕草を必ず2回ずつ確認するようにしている」といった風に助言してはいかがだろうか。

 

ここでのポイントは、可能なかぎり具体的であることと、自分を主語にすることだ。こうして「観察する」という行為を分解することで解像度が上がり、主体的な学びを促しやすくなる。また、若者の中での分解スキルの育成にも役立つ。一般に、若者の指導役にある人は、若者のモチベーションをあげることに目を向けがちだが、これは危険だと思う。

 

実際に人の気持ちを変えるのはとても難しい。それよりは、そもそも意欲なしでも動けるところまで分解する。それによって起きる小さな行動の積み重ねから得られる学びを支援する。僕はそう提案したい。

 

また、多くの社会人は自分を主語にして語ることに抵抗を感じる傾向にある。それは、あくまで自分の例であり、他人にも当てはまるかは不安であること、実際にそのアドバイスを受けて行動した他者が失敗したとき、自分のせいにされるのを怖がるためと言われている。しかし、そこが指示と伴走の違いだ。伴走は単なる指示ではなく、ともに歩み、学ぶ姿勢だ。先輩であるあなたも、怖がらず、ぜひあなた自身を学ぶ教材として提供してほしい。

 

●引用文献

  1. 株式会社マイナビ:2023年卒大学生公務員イメージ調査.
  2. 一般社団法人日本能率協会:2022年度 新入社員意識調査.

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教養と看護 編集部のページ日本看護協会出版会

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