コンパッション都市・コミュニティへの旅 ~喪失と死を共に受けとめ、助けあって生きるために~

text by   竹之内 裕文

たけのうち・ひろぶみ/静岡大学未来社会デザイン機構副機構長、農学部・創造科学技術大学院教授。東北大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。ボロース大学(スウェーデン)客員教授、グラスゴー大学訪問教授。松崎町まちづくりアドバイザー、静岡いのちの電話理事長。死生学カフェ、哲学対話塾、風待ちカフェ主宰。専門は哲学、倫理学、死生学。著書に『死とともに生きることを学ぶ 死すべきものたちの哲学』(ポラーノ出版、2019年)、『農と食の新しい倫理』(共編著、昭和堂、2018年)ほか。

第2回 仲間とともに歩みだす

~コンパッションコミュニティ・ジャパンの創設

2022年6月から9月まで、筆者はスコットランドのグラスゴー大学に訪問教授として滞在しました。滞在中にアラン・ケレハーの紹介で、エマ・ホッジスと出会いました。彼女は当時、コンパッションコミュニティUKでコミュニティ形成の担当理事を務めていました。9月の帰国の際は、ニューカッスル(イングランド)からアムステルダム(オランダ)まで船で渡り、ベルギーのブリュージュまで足を延ばして、第7回PHPCI国際学会に参加しました。帰国直後の10月に『コンパッション都市 公衆衛生と緩和ケアの融合』(アラン・ケレハー著、竹之内裕文・堀田聰子監訳、慶應義塾大学出版会)が出版されました。

 

1年後(2023年10月)には第30回日本ホスピス・在宅ケア研究会in仙台が開催されました。筆者は実行委員会の一員として、アランの基調講演「コンパッションコミュニティとコンパッション都市」とエマのワークショップ「英国でのコンパッション都市・コミュニティの活動に学び、対話する」を企画しました。

 

CC連絡会(2023年11月~25年3月)

 

訳書『コンパッション都市 公衆衛生と緩和ケアの融合』の出版に引き続き、その原著者が来日する。それによって日本でもコンパッション都市・コミュニティ運動が盛り上がるだろう。そのような見通しのもと、筆者は2023年11月にCC連絡会という月例会を立ち上げました。

 

CC連絡会は、コンパッション都市・コミュニティ (Compassionate Cities and Communities:CC)のオンラインサークルです。日本の各地にコンパッション都市・コミュニティが育っていくことを願って、参加者の挑戦や試行、活動、課題や悩みをわかち合い、学びあいます。2023年度のプログラムは、以下の通りです。

 

第1回(11月20日)

 コンパッション都市憲章を読む

第2回(12月14日)

 コンパッションタウン松崎

第3回(1月22日)

 コンパッションコミュニティ①

 ~心の郷

第4回(2月22日)

 コンパッションコミュニティ②

 ~にのさかクリニック

第5回(3月18日)

 2023年度のふり返りと2024年度の展望

 

第1回は、アランが起草したコンパッション都市憲章をとりあげました1) 。この憲章には、コンパッション都市・コミュニティの指針が簡潔にまとめられ、13のチェック項目が掲げられています。コンパッションコミュニティやコンパッション都市を形成する実践的な局面で役に立ちます。

 

1)アラン・ケレハー『コンパッション都市 公衆衛生と緩和ケアの融合』(竹之内裕文・堀田聰子監訳、慶應義塾大学出版会、2022年)の巻末には、原著者の厚意により憲章の日本語訳が収録されています。日本語訳のコンパッション都市憲章は、こちらでも読むことができます。

 

CC連絡会の船出に際して、参加者全員でコンパッション都市憲章を共有したいと考えました。そこで初回は、深澤準弥(自治体首長)、鐘ヶ江寿美子(在宅医)、田代志門(医療社会学者)の3氏に、それぞれの視点・関心から憲章を読み解いてもらいました。

 

第2回は、第6次松崎町総合計画(2023〜32年度)「「ここでは誇り高く、穏やかに、豊かに生きられる~コンパッションタウン松崎」について、静岡県松崎町長の深澤準弥氏に報告してもらいました。

 

第3回と第4回は、在宅緩和ケアを足場とするコンパッションコミュニティの展開について、医療法人心の郷(宮城県大崎市)と医療法人にのさかクリニック(福岡市)の活動を紹介しました。

 

第5回は、前半部でコンパッション都市・コミュニティの基本的な考え方を伝える動画「死と喪失を共に受けとめ、助け合って生きる~ヒロの物語」を視聴し、感想を述べあいました。後半部では、CC連絡会創設の経緯やねらいを確認し、次年度の展望を描きました。

 

2024年度の月例会では、3種のプログラムを試行しました。①活動報告&アイデア共有(5・9・12月)、②コンパッションカフェ(6・10・2月)、③『コンパッション都市』読書会(4・7・11月)です。

 

このうち「コンパッションカフェ」については説明が必要でしょう。筆者は2015年から静岡市内で死生学カフェを主宰しています2)。前述の第30回日本ホスピス・在宅ケア研究会in仙台でも死生学カフェを企画しました。アランもこれに参加してくれ、「このコンパッションカフェは、ヒロブミの素晴らしい発明だ!」と感想を述べてくれました。筆者が「死生学カフェ」と呼んできたものを、アランは「コンパッションカフェ」(compassionate cafe)と命名したのです。

 

2)竹之内裕文「対話を通して生と死を探究す死生学カフェの挑戦」、『文化と哲学』第37号、2020年、31-69頁

 

コンパッションコミュニティには対話が不可欠です。喪失と死の経験・苦悩は、対話を通してわかちあわれるからです。互いの経験から学びあうためには、聴くことから始めなければなりません。アランのコメントに示唆と勇気を得て、筆者はこれ以降、「コンパッションカフェ」の構想を膨らませていきます。

 

コンパッション&ダイアローグの創設(2025年1月)

 

CC連絡会は2025年度3月まで計15回の会合を重ね、延べ400人以上が参加しました。中心メンバーは、第30回日本ホスピス・在宅ケア研究会の関係者によって占められ、参加者の大半は、医師や看護師、ソーシャルワーカーなどのケア専門職でしたが、遺族や、喪失と死に関心を向ける市民、研究者などの姿も見られました。

 

CC連絡会での出会いと学びを足場に、筆者は2024年4月、コンパッション都市・コミュニティの全国組織を立ち上げる準備に着手しました。月例の準備会を開催し、コンパッション都市・コミュニティに関する理解を深めながら、創設する組織のビジョン(目指すもの)とミッション(使命)、バリュー(共有する価値観)、アクション(行動計画)を練り上げました。また同時に、コンパッション都市・コミュニティのオンライン講座を25年度から開講する準備を進めました。

 

2025年1月21日に設立総会を開催し、コンパッション&ダイアローグは任意団体として出発しました。ビジョンは「コンパッション・対話社会を築く」です。以下の6つの文では、その具体的な姿が描きだされます。コンパッション・対話社会では、

 

  1. 一人ひとりの健康や幸福が気にかけられ、必要とされる助けやサポートの手が差し伸べられます。
  2. 生老病死の多様な経験について、気兼ねなく話し、丁寧に聴く場が身近にあります。
  3. 喪失や死を経験するときも、本人が大切にしていることや願っていることが尊重されます。
  4. 困ったときに助けあい、お互いの経験から学びあうコンパッション・対話コミュニティが日本の各地に生まれ育っています。
  5. コンパッション・対話コミュニティをつなぐ全国ネットワークとグローバルネットワークが築かれ、新しい出会いと交流が生み出されています。
  6. 社会基盤が整備され、コンパッションと対話による学びあいと助けあいの活動が持続可能なかたちで展開されています。

 

2025年7月からは、コンパッション都市・コミュニティオンライン講座(全12回)が始まりました。8月7日にはコンパッション&ダイアローグは一般社団法人(非営利型)として登録されました。9月21日には、愛知県桑名市の善西寺で、第1回のCOCOプレフェスが開催されました3)

 

3)CCと同様、COCOは「コンパッション都市・コミュニティ」(Compassionate Cities and  Communities)の略称です。第2回プレフェスは2026年9月19〜20日に宮城県大崎市の医療法人心の郷で開催される予定です。2028年から毎年、静岡市内でCOCOフェスを開催する計画です。

 

コンパッションコミュニティ・ジャパンとしての船出(2026年2月)

 

コンパッションと対話は手を携えて、ともに育っていきます。わたしたちはコンパッションに駆られて、相手の語りに真剣に耳を傾け、また対話を通してコンパッションを成熟させていきます。

 

このように「コンパッション」(わかちあい、助けあうこと)と「ダイアローグ」(対話)は不可分かつ相補的な関係にあります。「コンパッション&ダイアローグ」という組織の名称には、このような洞察が反映されています。ただこうした考え方は、コンパッションコミュニティUKやコンパッションコミュニティオーストラリアなど、他国の全国組織には見られません。それを踏まえて一般社団法人コンパッション&ダイアローグでも、コンパッションと対話の部門を分けていました。コンパッション部門では、前述のオンライン講座などコンパッションコミュニティ・ジャパンの事業を展開する、対話の部門では、死生学カフェや対話・ファシリテーション塾などの活動を進めるというように。

 

しかしそうなると、「コンパッション&ダイアローグ」という団体が「コンパッションコミュニティ・ジャパン」の事業を展開するという二重構造が生まれてしまいます。コンパッション&ダイアローグの社員・会員であり、かつコンパッションコミュニティ・ジャパンのメンバーであるというように、事業主体のアイデンティティが不明確になります。そこで思い切って、一般社団法人の名称を「コンパッションコミュニティ・ジャパン」と改めました。

 

一般社団法人コンパッションコミュニティ・ジャパンは、コンパッションと対話の密接な関係に基づいて、コンパッション都市・コミュニティの形成と対話の活動を一体的に捉えて、事業を展開するのです。こうした基本理解のもと、コンパッション都市・コミュニティ講座の部門と対話の部門を立ち上げ、さらにCOCOプレフェス/フェスやオープン講座を統括するアウトリーチ・ネットワーク部門を新設しました。

 

2026年2月27日、一般社団法人の名称を「コンパッションコミュニティ・ジャパン」に変更しました。3月14日には新しいホームページ(https://cc-jp.net/)を開設しました。なおコンパッション都市・コミュニティ講座には、2026年度から3種のコースが設けられます。入門コース(前期・後期)と実践コース(通年)、探究コース(オンデマンド)です。入門コース(前期)と実践コースはオンラインで、入門コース(後期)は対面で開講します。詳細については、ホームページをご覧ください。

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