イラストレーション  : 楠木雪野

[連載] なかなか会えないときだから考える コロナ時代の対話とケア ● 高橋 綾

session

質問を通じ、自他の考えや価値観を理解・尊重する
「今回のひとこと〜緩和ケアの現場から」新幡智子 ▶記事末尾へ

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安心・信頼できる関係性をもとに対話を進めていくと、他人や自分の考えについての理解が深まり、互いの考えを一緒に調べ(吟味)、ともに物事に向き合い、考える(探求)という共同作業ができるようになります。ともに考える作業をするためには、自分の感じていること、考えを率直かつ適切に表現するということも重要ですが、そのこととおなじくらい、相手の考えや発言をよく理解し、一緒に考えていくために相手に「質問する」ということが欠かせません。

 

筆者は、ひとりで考える場合でも、他の人と一緒に考える場合でも、考える=探求するという作業は「対話とは何をすることなのだろうか?」「聴きあうことだと思う」「では、✕✕ははどう考えたらいいのだろうか?」というように問い(質問)と答えを繰り返すこと(問答)であり、それが深まることではないかと考えています。

 

価値、価値観ってそもそも何だろう?

 

ところで、医療現場では患者の価値観を尊重するということが重要視されていますが、臨床のナースのみなさんに、価値観とは何ですか? それを尊重するとはどういうことだと思いますか? と質問をすると、わかっている、やっているつもりなのになかなか言葉にならないという方が多いように思います。価値や価値観(value)というのは、筆者が専門としている哲学では重要な用語であり、価値観とは、さまざまな人の言動や選択の背景・根本にある「~が重要である、~すべきである」という優先度や重要性(=価値)についての「判断」「考え」のことを指すと考えられます。

 

医療現場でよく使われる別の用語で、患者の「意向(preference)」という言葉があります。「意向」は、ある物事に関する人の選択のことを指しており、「価値」はその「意向」の背景にある判断や根本的な考えのことなのですが、臨床ではこの二つが区別されずに使われているように見える場合もあります。どういうことかというと、患者の表面的な選択や要求を受け入れ、患者の言うままに医療者が動くことが、患者の価値観を尊重することだと思われている場合がしばしばあるのではないかということです。しかし、価値観とは、ある人の表面的な言動や要求の背景にある「判断」や「考え」のことであるとすれば、ある人の価値観を理解・尊重するためには、まずは、言動や選択、「意向」の背景にある「判断」や「考え」を知ることが必要であり、それは表面的な言動や選択には表れていないことがほとんどのため、こちらが積極的に質問をしなければなりません。

 

質問を通じて相手の考えを知る

 ──哲学者の道具箱Good Thinker’s toolkit

 

普段からナースのみなさんは患者や家族にいろいろな質問をしていると思います。けれども、医療職を含め、私たちが普段他人に対してする質問の多くは、「情報を得るための質問」であることが多いです。例えば、医療職が患者に対してする質問の多くは、病気や身体の状態や変化についての情報を得るためのものが大半ではないでしょうか。質問を作る6つの英語の疑問詞5W1Hのうち、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、どうした(How)という5つは情報を得るための質問ですが「なぜ(Why)」という質問だけは、種類が異なり、言動や起こったことの背景にある「理由・考え」を尋ねる質問です。相手の価値観や考えを知るためには、状況や情報にフォーカスした質問ではなく、「なぜ」に代表される、相手の「考え」にフォーカスした質問をしなければなりません。

 

筆者がたくさんのことを学んだハワイのこどもの哲学の実践では、こどもたちがお互いの「考え」を理解し、それを調べることができるようになるための「哲学者の道具箱(Good Thinkers Toolkit)」が準備されています。ハワイの学校の先生たちは、授業の始まる時に、対話や探求のなかでしてほしい質問のフレーズが書かれているカードを見せながらどんなふうに使うかや、それらの質問の重要性を確認していました。その質問とは、次のようなものです。

 

〈相手の考えを知り、ともに考えるための質問〉

W:What do you mean by?「~はどういう意味?」(意味)

自分や相手が使っている言葉の意味を聞く質問。同じ言葉を使っていても、その意味するところやイメージが違うことはよくあり、これが話が噛み合わない原因のこともある。

R:What a reason for?/Why「その理由は?なぜ?」(理由)

なぜそのような言動や発言をしたのか、その背景にある相手の「考え」を知るための質問。

E:Example「例えばどういうこと?」(例)

話し合いが抽象的になりそうな時に、相手が考えていることの具体例を出してもらうための質問。ともに考えるためには、あまり具体性を伴わない、言葉の上だけの話し合いは避けたほうがよい。

C:Counter example「でも、こういう場合は? こういうこともあるよね?」

 (反例)

相手の考えでは、このことは説明ができないんじゃないかな?と思った時にするとよい質問。「いつも~」「絶対~」というような断定的な意見を持つ人がいる場合にも有効。相手が考えている事柄の範囲を一緒に調べる時に役立つ。

T:True?「本当にそうなのだろうか? 証拠はある?」(事実性)

相手の考えと事実との一致を確認するための質問。

I:Inference, If…, then…「私は~だと推論しましたがあっていますか?

 もし~だとすればこういうことになるのではないか?(含意帰結推論)

相手の考えがある程度推論できた時に、自分の推論があっているか確認するための質問。あるいは、相手の考えが正しいとすると、次はこうなる、という考えの続きを考える質問。

A:Assumption Can I Assume~? そもそも~?「~を当たり前だと思って

   よいのだろうか?」(前提)

相手の言動や根本にあるもの(前提)が質問によって推論や理解できたときに、その根本にある考え(前提) について一緒に調べてみるための質問。相互理解から探求をもう一歩進めるために重要。

 

これらの質問は、ロジカル・クリティカルシンキングのツールとしても用いられますが、対話のなかでは、これらの質問を、批判や正否を決めるためではなく、まずは相手の考えを理解し、考えについて一緒に調べていく(吟味・探求)のために用います。これらの質問は、質問する側の態度や文脈によっては、攻撃や詰問と感じられることもありますが、純粋に相手を理解したい、教えてほしいという気持ちや態度で質問するかぎりにおいては、アサーティブ(相手の領域を犯さず、尊重する)なものであると筆者は考えます。

 

 

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>> この連載について/予定

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

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