text by : Satoko Fox

第8回 ペリネイタルロス経験者のリアルなお悩み ピアサポートの現場から

同じ経験を持つ人たちの力に

──ピアサポート活動の取り組み

 

流産や子宮外妊娠(異所性妊娠)を経験した際、病院のサポートが十分ではないと感じた私は、同じような経験をされた方々の力になれればと思い、定期的にピアサポートグループのミーティングを開催することにしました。

 

ピアサポート(peersupport)とは、同じ経験をした仲間(peer)同士が集まり、お互いの体験や気持ちを共有し、支え合う活動です。自助グループの一形態でもあり、「共感」を通じて心の負担を軽くすることを目的としています。

 

私はアメリカ在住の日本人です。当時、英語でのサポートは見つけられたものの、言葉の壁を感じ、「日本語で気持ちを話したい」「日本語で話を聞いてほしい」という思いが強くありました。また、日本のオンラインサポートも時差の関係で参加が難しく、同じような悩みを持つ方がいるのではないかと考え、カリフォルニア時間の昼=日本時間の早朝に開催することにしました。

 

現在、グループには私を含めて3人のファシリテーター(参加者の発言を促し、進行を担う役割)がいます。全員が、カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアを拠点とするNPO法人「ウィコラ」のメンバーであり、在米日本人の医療従事者です。

 

小谷祥子さん

1人目のお子さんを、左心低形成症候群というまれな心臓病で産後1日目に亡くされました。その後、3人目のお子さんを流産されています。その経験から医療の道を志し、現在はサンフランシスコ・ベイエリアでナース・プラクティショナー(診療ができる看護師)として勤務されています。

 

Erikoさん

 東海岸でホスピスソーシャルワーカー、グリーフ(悲嘆)カウンセラーとして勤務されています。「2人目不妊」で不妊治療を経験され、その間、ピアサポートに救われたことから、現在はプロの視点を活かしながらグリーフサポートを提供してくださっています。

 

これまでに約30人が参加されていますが、経験は異なるものの共通する悩みが多く見受けられます。今回は、ミーティングでよく寄せられる3つのお悩みと、それに対する適切な声かけについて考えていきます。

 

ペリネイタルロス経験者のリアルなお悩みと

具体的な声かけ

 

お悩み 1「他人の妊娠・出産を喜べなくなった」

 

友人、姉妹、職場の人の妊娠や出産のニュース。以前なら祝福できていたはずなのに、今は素直に喜べない。むしろ胸が締めつけられたり、嫉妬や悲しみがこみ上げたりすることも。また、こうした感情を抱いてしまうことに対し、「こんな自分は冷たいのではないか」「心が狭いのではないか」と自責の念を抱く人も非常に多いです。

 

ペリネイタルロス(流産、死産などの周産期の喪失)後に友人の妊娠や出産の報告を聞いても喜べないのは、とても自然な感情です。そのことで自分を責めてしまっている方に対してはまず、「その気持ちは当たり前で、無理に喜ぶ必要はない」ということを伝えるのが大切です。

 

具体的な声かけ例

「そんなふうに感じてしまうのは当然だよ。自分を責めなくていいんだよ」

「心からおめでとうと思える日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。でも、どちらでも大丈夫だよ」

 

多くの人が、「いずれは祝福できるようになりたい」と思っていることでしょう。私もその一人でしたが、ミーティングの場でErikoさんが「はっきり言って、一生祝福できなくてもいい」と言ったことで、私自身、驚きながらも心が軽くなりました。

 

お悩み 2「ペリネイタルロス後、孤立してしまった」

 

ペリネイタルロスを経験すると、人間関係に変化が生じることもあります。特に、姉妹や友人との間に溝を感じたり、孤立してしまったりするケースは少なくありません。

 

よく聞くのが、仲のよい友人や家族とのグループチャットに関すること。妊娠・出産の話題や赤ちゃんの写真が次々と送られてくるたびに、「私が流産したことを知っているはずなのに……」と胸が締めつけられる。そして、通知をオフにしたり、何も言わずにグループを出てしまったりすることも。さらには、その後、「どう思われているのだろう」「またもとの関係に戻れるのだろうか」と悩み、ますます孤独を感じてしまうことがあります。

 

しかしこれは、「関係を壊したい」という気持ちによるものではなく、「自分の心を守る」ための行動。まずはその行動を肯定することが大切です。また、気持ちが少し落ち着いたら、「しばらく距離をとってしまっているけれど、また話せるようになったら嬉しい」と、正直な思いを伝えるのも一つの方法ですので、提案してみるのもよいでしょう。

 

具体的な声かけ例

「それは自分の心を守るために、正しい行動だったよ」

「無理して関わらなくても大丈夫だよ。まずは自分の気持ちを優先していいんだよ」

「いつかもとの関係に戻れるかもしれないし、戻れないかもしれない。でも、落ち着いたらまた話してみたら?」

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

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