text by : Satoko Fox

第7回 2人目問題 「きょうだいはいた方がいい」の呪縛

「年の近い子どもが3人欲しい」

 ──幼いころからの夢の実現は難しそう

 

私は幼いころから、「子どもは3人で、できたら年の近い子どもが欲しい」と思い描いてきました。年子の真ん中で育ち、兄と弟、というよりは、家の中に友達がいつもいる感覚。幸せに過ごした幼少期の影響で、自分の子どもも似た環境に置いてやりたい、とずっと思ってきました。

 

そのわりに結婚も妊娠も遅くなりましたが、37歳でなんとか第1子に会えた瞬間、「間に合ってよかった! やっとお母さんになれた!」と嬉しく思いました。

 

しかしその後の妊活はうまくいかず、38歳のときに3回のペリネイタルロス(流産などの周産期の喪失)を経験。1人目が順調に生まれてきてくれたがゆえに、まさか2人目にこれほど苦労するとは思いもしませんでした。

 

私の住むアメリカのシリコンバレーは高齢出産の多い地域なので、1人目のときには「まだまだ若いお母さんよ」と言ってくれていた主治医も、手のひらをひっくり返したかのように、「35歳以上だから仕方ない」と繰り返し言うようになりました。

 

現実的に考え、「せめてもう1人」「なるべく年の近い子を40歳までに産みたい」という希望に変わり、年齢による焦りも切実になってきました。

 

ペリネイタルロス後、妊娠すること自体が怖くなって、経口避妊薬を飲んでいた時期もありました(第6回を参照)。しかし、避妊をしている間にもどんどん妊娠の確率は下がり、流産の確率は上がっていきます。「将来、この『お休み』を後悔するんじゃないか」との不安をおぼえ、経口避妊薬の内服は数か月でやめ、妊活を再開しました。

 

きょうだいがいることへのこだわり

 

世間には「1人っ子はかわいそう」「きょうだいはいた方がいい」という考えがあり、私自身もそう思ってきました。一方、夫は、兄はいるものの仲はあまりよくなく、「きょうだいはいてもいなくても、どっちでもいい」という考えの持ち主でした。

 

また、当時通っていたカウンセリングのセラピストは、自身も1人っ子で、お子さんも1人。私が「娘には絶対にきょうだいを作ってやりたい」という話をしていると、こう聞いてきました。

 

「もし子どもがもう1人生まれなかったら、あなたは何を失うと思いますか」

 

どうしてそんなに反応したのか自分でもわかりませんが、私はその一言でひどく傷つきました。答えられなかったし、答えたくもなかった。そしてそれ以降、私はカウンセリングに行くのをやめてしまったのです。

 

その問いへの反応をうまく言語化できず、まだ深い悲しみの中にいたころ。

 

ある日、テレビ電話で両親と話していました。どんな会話をしていたか全く覚えていないのですが、ふと父が、

 

「子どもは最低2人だな」

 

と口にしました。状況を考えれば決して適切な言葉ではありません。それでも、私は「ひどい」と憤(いきどお)るどころか、不思議と心がスッと軽くなったのです。

 

思えば、父は4人、母は3人きょうだい。世代的にもきょうだいが多くて「当たり前」。そして、両親は私を含め4人の子どもを産み、育てました。私は田舎育ちで、同級生にも3~4人きょうだいという人が多い環境で幼少期を過ごしました。

 

「きょうだいはいた方がいいし、なんなら多い方がいい」

 

それは理屈ではなく、感覚として根付いているものでした。

また、そんな環境が自分にとってプラスであったと考えているため、自分の子どもにもその環境をプレゼントしたい、というごく「当たり前」の感覚であったのです。

 

2人目不妊・不育の複雑な立場

 

2人目を授からない立場は、思っていたよりも複雑なものでした。不妊症や不育症で1人も子どもがいない方々からは、「すでに1人いるのだから、いいじゃない」と思われることが少なくありません。

 

2021年12月に主催した対談イベント「Pregnancy Lossと向き合って~流産・子宮外妊娠~1)の中で、「上の子どもに、自分が悲しんでいる姿を見せるかどうか」というテーマでお話しした後には、「子どもがいない人生を送ることになった人の気持ちを考えていない」といったご意見をいただきました。

 

また、私の体の状態は、自然妊娠は可能であったことから、不妊治療中の方には「妊娠できるだけいいですよ」とも言われました。そのたびに「たしかにそうだ」と思いつつも、「でも、私も悲しいのにな」と、心が締めつけられるような窮屈さを感じていました。

 

同じ時期に1人目を出産した友人・知人が次々と2人目を出産し、そのたびに取り残されたような気持ちに。芸能人の「第2子妊娠」や「第2子出産」といった何気ない報道が、心に深く突き刺さることもありました。

 

私はペリネイタルロスの経験を周囲にオープンにしていたため、幸いにも、近しい人からは余計な言葉をかけられることはほとんどありませんでした。しかし、事情を知らない人からは、「次の子はいつ?」「きょうだいはいた方がいいよ」といった言葉をかけられることもありました。

子どもが1人いることで、「子どもを産みたくない」あるいは「子どもが産めない」という人たちのグループには入りません。一方で、2人や3人の子どもがいて、子育てを楽しんでいる人たちのグループにも入れません。

 

さらには、「子どもが1人だけの状況で妊活をストップする」という選択をした場合、それが「子育てが大変すぎて、2人目以降は欲しくない」という判断だと周囲に思われるのではないか、という世間の目を気にしてしまう自分もいました。

 

日本における、カップルが希望する子どもの数と

実際に持つ子どもの数

 

日本における2023年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの平均的な人数)は1.20で、過去最低となりました。一方で、カップルが理想とする子どもの数は2.25人で、実際に持つつもりの子どもの数は2.01人です(2021年2)

 

株式会社ネクストレベルが運営するポータルサイト「縁結び大学」が実施した調査3)でも、希望する子どもの数に関しては「2人」と回答している人が57.6%と最も多く、次いで「3人」が24.7%。一方で、実際の子どもの数で最も多かった回答は「1人」で、希望したとおりの人数の子どもがいるという人は全体の35.1%でした。子どもの数の理想と現実に関して、「2~3人を望む人が多いものの、実際には希望どおりにいかず1人」というケースが多いことが示唆されています。

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

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