text by : Satoko Fox

第3回 低確率でも油断禁物 知識が手遅れを防いだ異所性妊娠(子宮外妊娠)

同日深夜に腹腔鏡下右卵管切除術

 

その足ですぐに総合病院の救急救命室(ER)に行くように言われ、再度超音波検査を受けた後、ERの医師から、

 

「右卵管に着床しています。この妊娠は継続できません」

 

と説明を受けます。「妊娠6週相当で、血中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は16,000 mIU/mL(妊娠6週では基準値内)、右卵管の胎嚢は直径3 cmで、心拍が確認できた」と言われました。

 

「胎嚢だけ取り出して、子宮内に運んでほしい」

 

そう切望しましたが、残念ながら、今の医学技術ではできません。前回の稽留流産の際には手術をしなくて済み、その経験を肯定的にとらえていた私。

 

メトトレキサート(細胞の分裂と増殖を抑制するお薬)を使って、今回も手術をしなくてもいい路線で行きたかったのですが、「手術が必要。右卵管も切らければならない可能性が高い」と言われ、同日深夜に、腹腔鏡下右卵管切除術をすることとなりました。

 

手術室の前室で麻酔科医に会ったと思ったら、知らない間に手術が終わっており、全身麻酔のすごさに驚きました。手術を担当した医師からは、「すぐに破裂っていうほどではないけれど、結構出血していたから、今日手術しておいてよかった」と言われ、ゾッとしました。

 

また、

「気管支挿管のせいで喉が痛い」

「腹腔鏡下手術でお腹にガスを入れていたからお腹が張って気持ち悪い」

 

そんな状況も経験しました。

 

今まで医師としてしてきたこと、見てきたことを患者としてされるのは不思議な感覚で、新たな視点が加わります。

 

手術が終わったのは深夜1時ごろだったにもかかわらず、すぐに帰宅の指示。朝の性器出血から始まり、バタバタと過ぎていった1日。ずっと1人で耐えた産婦人科受診 → ER受診 → 手術。夫と1歳の娘が迎えに来てくれ、ほっとしました。

 

術後は、「悲しい」という感情はあまり湧かず、とにかくお腹が痛くて痛くて……。朝、お腹が痛くて病院に行ったけれど、日付をまたぎ、その何十倍も痛みが強くなって帰って来たのが、なんだか皮肉に感じました。

 

気持ちの変化と右卵管喪失感

 

数日経ち、お腹の痛みが治まるにつれ、悲しみが強くなっていきました。

 

「なんでこんな立て続けに……」

「今度は念願の心拍が確認できたのに……」

「知らない間にクラミジアに感染して、卵管が詰まっていたんだろうか……」

 

など、いろいろ考えました(クラミジア感染症は、女性の場合、自覚症状が乏しいまま進行することも多く、卵管狭窄・閉塞から異所性妊娠や不妊症に至ることがあります)。

 

そして流産に続き、異所性妊娠を経験し、またお腹の赤ちゃんとお別れをしなくてはならなくなった、という事実に加え、右卵管を失ったことによるダメージを受けていることに気づきました。

 

私は職業柄、結構な数の臓器をいつも見てきたわけですが、卵管は細いし、子宮卵管造影でもしない限り日の目を見ない臓器です。今まで見たことも考えたこともない。でも、手術で切除したと聞くと、とたんに喪失感をおぼえ、不思議なものだと思いました。

 

また、今後の妊孕性(にんようせい:妊娠するための力)についても心配になりました。

 

流産と異所性妊娠の違い

 

1. 私の感覚

稽留流産と異所性妊娠を立て続けに経験しましたが、この2つは感覚として全く違うものでした。稽留流産は「正常妊娠」の延長上にあるものですが、異所性妊娠は「異常妊娠」です。

 

また、私の場合、稽留流産の際は手術をしておらず、異所性妊娠の際は手術をしなければならなかったこともあり、余計に異所性妊娠を「疾患」と認識しました。

 

さらに、「診断が遅れると命を失う可能性がある疾患である」という医師としての概念がゴリゴリにあるからこそ、

 

「死ななくてよかった」

 

といった、違った感覚も生まれたのです。

 

異所性妊娠は、週数の観点から、広義では「流産」の中に入るのかもしれません。しかし、なぜだかこの2つを一緒にしてほしくない気持ちが私の中で強くあります。

 

そして、この2つの経験を語る言葉として、”pregnancy loss”(妊娠喪失)や“perinatal loss”(周産期の喪失)がしっくりくると感じたので、これらの言葉を使うようになりました。

 

2. まわりの人の反応

前回の稽留流産後には、共感性のない夫との間に少し溝が生まれました。そのことでけんかをした後だったからか、緊急で手術をした、という事実に引っ張られたからか、今度はすごくサポートをしてもらえました。

 

また、まわりの人に「腹腔鏡の手術をしたから……」と話すのは、「流産をした」と言うよりも口にしやすく、彼女らも言葉に詰まる感じもなく、「大変だったね」と声をかけてくれました。

 

こちら側もあちら側も話すことへのタブー感が比較的薄く、言いやすい。これは、「異所性妊娠は疾患」という共通認識があってのことなのか、医師として私個人にバイアスがあるからなのかはわかりません。

 

3. ピアサポートグループに関して

私自身が流産経験をカミングアウトしたことで、想像以上にたくさんの方から流産の経験をカミングアウトされました。統計的にも私の感覚でも、4人に1人くらいの方が一度は経験されています。

 

ところが、やはり異所性妊娠は頻度が低いため、同じ経験をした仲間に出会えません。私がこれまで連絡を受けたのは2人だけ。現在主宰しているピアサポートグループにも、異所性妊娠の方が来られたことはありません。

 

そして、ピアサポートグループからのお知らせには、やはり「流産、死産を経験された方へ」と書いてあるパターンが多く、詳しく見れば、異所性妊娠や早期新生児死亡の経験者も対象に含まれていたりしますが、なんだか「仲間外れ感」があると思うこともしばしばあります。

 

アメリカで異所性妊娠を経験して

 

経験を通して、やはり大事だと思ったのが、この3つを徹底した方がいいということ。

 

 ・月経周期を把握、記録しておくこと

 ・月経が1週間以上遅れたら、妊娠検査薬で調べること

 ・妊娠検査陽性となったら、早めに産婦人科を受診すること

 

しかし、日本のように医療アクセスがよく、妊娠検査薬が陽性になったらすぐ産婦人科にかかることができる国ばかりとは限りません。

 

また、激烈な症状を伴う破裂でもしない限り、異所性妊娠は、流産と症状(下腹部痛、性器出血)が似ており、すぐに医療機関を受診するかどうかは自己判断に委ねられます。特に、過去に流産を経験していれば、「また流産かな」と緊急性が高くないものと見なして、受診が遅れがちです。

 

私自身が手遅れにならずに受診できたのは、医学的知識に救われたところがあるので、異所性妊娠の啓発活動も重要だなと考えるようになりました。

サトコ・フォック2008年、川崎医科大学卒業。聖マリアンナ医科大学病院および附属ブレスト&イメージングセンター勤務を経て、2018年にスタンフォード大学放射線科乳腺画像部門に研究留学。結婚・出産を機にアメリカに移住。乳腺の画像診断の仕事は続けながら、オンラインで助産師が乳がんについて勉強できる「ピンクリボン助産師アカデミー」を主宰。医学書院『助産雑誌』にて「「助産師の疑問に答える実践的おっぱい講座――多角的な「胸」の知識」連載中。乳がんに関する情報発信のほか、ペリネイタルロス経験者へのピアサポート活動も行っている。医学博士、日本医学放射線学会放射線診断専門医/指導医、日本乳癌学会乳腺認定医。2022年、不妊症・不育症ピアサポーター等の養成研医療従事者プログラム受講修了

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