text by : Satoko Fox
流産は遠いもの? 近いもの?
皆さんは「流産」にどんなイメージをお持ちでしょうか。
妊娠している女性が腹痛に襲われ、トイレに行くと出血が……
流産したことを知り、号泣。
漫画やドラマで描写される一般的なイメージは、大体こんなところでしょう。
私が最初にお会いした、流産を経験した(ことを私が知っている)女性は、小学校のときから通っていたピアノ教室の先生でした。
可愛くて華奢で、ふんわりとした雰囲気。
当時おそらく20代でしたが、母いわく「流産を繰り返していて」、時々レッスンがお休みになったりしていました。その先生の雰囲気が私と正反対であったこともあり、私にとって流産は「遠い」「関係のない」ことでした。
その後、開業医の父の影響もあり、医師を志し、医学部に入学。4年生のときに産婦人科の授業で、妊孕性(にんようせい:妊娠するための力)について学びます。
その際に、
を知り、女子医学生たちは怖くなります。
そもそも医学部は卒業まで6年間ありますし、その後の初期研修は2年間。研鑽(けんさん)を積み、専門医の資格を取得するころになると、30歳はゆうに超えます。そしてちらほら、「女医はモテない、結婚できない」などの都市伝説も耳に入ってくるころです。
しかし、不安になりながらも、どちらかと言うと「結婚できなかったらどうしよう」や「不妊治療は覚悟しておいた方がいい」などと心配し、「流産」にフォーカスすることはありませんでした。
ただ、これは私に限ったことではなく、世間もそう思っていると感じています。
「まさか私が」38歳で稽留流産
第2子妊娠発覚後、初めての産婦人科受診。コロナ禍で、付き添いは許可されていなかったため、私1人での受診です。アメリカは妊婦健診スタートが遅いので、もう心拍が確認できる週数でした。
しかし、超音波を当てながら、主治医の顔が曇ります。「うーん、心拍が確認できないので、稽留流産かもしれません。でも、排卵日が遅れて週数がずれているだけかもしれないから、また来週みてみましょう」
半泣きになりながら家に帰り、産婦人科の教科書とにらめっこ。私は生理が不順なので、「十中八九、排卵日がずれていただけ」という希望的観測の強い結論に至ります。しかし、翌週も心拍が確認できず、稽留流産と診断されました。
今振り返ると、なぜあんなに自分と関係ないと思っていたのか、お恥ずかしい話なのですが、理由をあえて考えてみます。
「自分には関係ない」と思っていた理由1:第1子の妊娠、出産に問題がなかったこと
私は不妊治療を覚悟していましたが、第1子を36歳で自然妊娠し、経過も特に問題なく出産に至りました。
私の住むシリコンバレー(カリフォルニア州北部)は高齢出産が多いので、主治医にも「この地域では若いお母さんよ」と言われたこともあり、それはわずか2年前。「まだ大丈夫」という謎の自信がありました。
理由2:自分のもっていた「流産」のイメージと違う、稽留流産であったこと
稽留流産とは、「胎児の発育が止まり死亡している状態だが、まだ出血や腹痛などの症状がない状態」を指します。超音波検査が発達した現代ならではの診断で、母親に自覚症状はありません。
冒頭に書いたような、「お腹が痛くなって、トイレに行ったら出血していた」という「The流産」のエピソードはなく、まさに「寝耳に水」。「信じられない」「誤診なんじゃないのか」と、すぐにこの診断を受け入れられない女性は少なくないでしょう。しかし、理由はどうであれ、突然、流産が自分ごとになってしまったのです。