[コラム]
「地元創成看護学」の提言までに必要だったこと
綿貫 成明(国立看護大学校 教授 / 日本学術会議 連携会員)
日本学術会議の「提言」とは、「科学的な事柄について、部、委員会又は分科会が実現を望む意見等を発表するもの」です。今回、「『地元創成』の実現に向けた看護学と社会との協働の推進」の提言は、健康・生活科学委員会看護学分科会を「表出の主体」とし、以下の手続きを経て決定・公開しました。
看護学分科会では、この課題について第23期(2015年10月〜2017年9月)から重点的に検討をはじめました。第24期(2017年10月〜2020年9月)では、日本看護系学会協議会との共同主催シンポジウム「地方創成時代の看護系大学のチャレンジ―看護学の変革と課題」を開催(2017年12月)し、その内容を「学術の動向」(2018年6月号、23巻6号)に掲載しました。その後、「地方創生」を「地元創成」に用語変更して定義を整理し、2019年5月には課題の論点整理を行いました。その中で、看護系大学が取り組んでいる実践事例を積み上げるため、複数校にヒアリング調査を行いました。同年12月には結果の分析・統合を行い、今後の展望を含め提言の草稿を準備しました。
日本学術会議が発出する「提言」であるため、構成組織の分科会・委員会・部会での議論を経て、実現を望む意見を確認し、所定の手続きを経て発表する必要があります。そのため、看護学分科会で議論し作成した提言の草稿を、健康・生活科学委員会と、生命科学の各委員会が属する第二部会、最終的には日本学術会議の幹事会に、それぞれ査読頂き、多岐にわたり貴重な質問とコメントを頂きました。主な修正提案は、①国民全体にも多様な学問分野の方にも伝わるよう、内容・表現を修正し一貫性を持たせること、②提言の一つの軸として、新型コロナウイルス感染症の拡大や頻発する災害といった社会情勢への示唆を含めることでした。修正案について、分科会・委員会・部会・幹事会とさらなる議論を重ねて洗練し、2020年2月の看護学分科会で最終確認を行いました。その後、2020年6月11日の幹事会(第292回)で、この提言が承認・議決され、同年9月2日にホームページで公表されました。
提言発出までの道のりの中で、日本学術会議の多様な学問分野の視点からのご指摘を頂き、この提言がより広い視野で国民全体に届き活用頂けるものに仕上がっていく過程を実感しました。今後、この提言がさらに社会で活用され「実装」されていくために、今後とも多様な立場の方々と連携しながら検討し、実行に移せるようにして参りたいと考えております。