[コラム]
「地元創成看護学」着想の原点となった第24期看護学分科会
片田 範子(公立大学法人三重県立看護大学 理事長・学長 / 日本学術会議 連携会員)
日本学術会議第24期(2017年10月-2020年9月)の看護学分科会では、「地元創成看護学」の実装の原点となる活動をしてきたと思います。その背景には人口減少が全国各地の「地方」で発生し、少子社会・超高齢社会は「都市部」にも起きています。
それに伴って保健・医療・福祉の課題は山積していますが、看護が取組むべき課題は地方・地域・地元それぞれに異なっています。厚生労働省が推進する「地域医療構想」や「地域包括ケア」においても、各都道府県や市区町村ごとの地域で、それぞれに特有の課題に対応した独自の対策・施策が必要です。この発想を看護分科会のなかでは地元創成看護学班が主となり会議を重ね分科会に提案し議論をしながら、提言案を作り上げました。提言案は日本学術会議のなかで幹事会にいたる何層にもわたる学際的な査読・修正を経て2020年9月に公表されました。
少子高齢社会の到来や人口減等の社会的背景のなかで日本国内の看護系大学は質量ともに拡充し続け、今や各都道府県に複数校が設置されています。これらの大学は、従来の「看護学教育・研究」はもちろんのこと、地元の人々の「健康・いのち・くらし」を守り支えるための教育・研究・社会貢献活動に取り組んでいます。大学の所在する地方・地域だけではなく、設置主体や関連する組織・集団(「地元」)を対象とした活動もみられます。第24期には、看護系大学が何に取り組んでいるのか、これからの時代に先駆けて取り組むことの意義は何か、何に取り組むことができるのかを見つける活動を致しました。
その具体的な活動として、看護系大学の取り組みの実際やモデル事業などの情報を共有し、「地方の大学」から発信する新たな変革の視点をもった実践・教育・研究を共に考える機会を持ちました。それが、日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会と一般社団法人日本看護系学会協議会との共催による公開シンポジウム「地方創生時代の看護系大学のチャレンジ:看護学の変革と課題」(2017年12、仙台国際センター)でした(学術の動向, 第23巻6号, 2018年特集号)。
看護系大学には、これからもさらに地元に根差した保健・医療・福祉の資源活用や人材育成の視点、地元の持続可能性・発展可能性の視点や産官学連携が求められます。従来の枠組みを超えた変革的かつ柔軟な視点で、これらを有機的に繋ぎ合わせ共有し発展させていく必要性から、「地元創成」という言葉に行きつき、さらにこれを進める看護自体が「地元創成看護学」に発展することになるのではないかと考えました。世界の感染症や災害、政情不安など、先行きの読めない激動の時代において、地元創成看護学が「実装」されることで、人々の「健康・いのち・くらし」にさらに有効に役立つことがあればと願ってやみません。