4.ハラスメントが生じたことによる転帰
教育現場ではハラスメントによる教育への影響があったと回答した者の割合は81.5%(27名中22名)であった。どのような影響が生じたかを問う自由記述では「萎縮して、何も指導ができなくなった。一挙手一投足を監視され、怖かった」「体調不良に陥り、休講に追いやられた」といった内容の記述があった。
臨床現場では看護への影響があったと回答した者の割合は83.1%(71名中59名)であった。双方とも高い割合を示しており、ハラスメントが教育、臨床での看護に影響を及ぼしていることが想定された。その影響の自由記述欄では「人間不信になった」「パフォーマンスが落ちた」「対象者に笑顔で接することができなくなった」「ミスが増えた」といった内容の記述が多くみられた。
相談以外の対処として挙げられたものを下図に示す。教育現場では「医療機関へ受診した(48.1%)」が最も多く、次いで「休職した(40.7%)」となっていた。健康被害がハラスメントにより多く発生していることが想定された。
臨床現場では「何もしなかった(47.9%)」が最も多く、多様な手段の活用を保証するような職場風土の改善も求められると考えられた。次いで「退職した(21.1%)」となっていた。看護職の確保が喫緊の課題であるなか、ハラスメントに対しての対策がなされず退職に至る例が多いことが推察された。
臨床現場では「何もしなかった(47.9%)」が最も多く、次いで「退職した(21.1%)」となっていた。看護職の確保が喫緊の課題であるなか、ハラスメントに対しての対策がなされず退職に至る例が多いことが推察された。
臨床の現場では「何もしなかった」割合が高く、多様な手段の活用を保証するような職場風土の改善も求められると考えられた。
5. まとめ──被害を通して気づいたこと、伝えたいこと
下記に、被害を通して気づいたこと、伝えたいことの自由記述欄の記載をまとめにかえて提示する。
<教育現場において>
- 個人レベルでは自己防衛しかないが、ハラスメントの実態を公にし、大学組織の体質改善をトップダウンで進めるべきではないか。
- 大学は狭い、職位の違いが大きな壁で立ちはだかっている。教育・研究を第1に、志を高くもち、私にしかできないと思い前進するのみ。
- 他者の立場にたって理解し、言葉や態度に気をつけてほしい。
- 暴言や声をあげるといったわかりやすいタイプと、仲間はずれや情報操作でわかりにくいタイプがある。被害者が仕事ができないからと印象付ける操作的な言動を集団で繰り返すと、周りには分からない。
- 声に出せる環境作りが必要。
- する人は誰にでもするタイプなのかと思った。自分一人だけではなかったので、ある意味気が楽だった。他大学の先生との研究を進めるなど、割り切って自身のキャリアアップに勤しむと良いと思います。
- 職場内のパワハラとは戦っても無駄。自分が壊れないうちに、環境の良い職場に転職し、逃げるが勝ち。
- そもそも、「看護」に対する他の職種や職位の方々の認識がまだまだであることを痛感する。医療現場でも、看護師は医師の下で、言われたことだけをすればいい、文句を言うな、などが根強い。他職種への理解と協働の考えがもっとあるべき。
- 無理なことは断る。相談窓口を変える。だめなら休職、退職。
- 精神的な被害が大きい場合、被害を訴えることもできない。異動などを考えると、目立つ行動は取れない。多くの人は泣き寝入りをしている。
- いままだここに書けるほどのエネルギーがありません。
- 看護教員は多忙で心の余裕を失いやすい。下の職位の人が被害を受けることが多く、若手の育成に繋がらない。
- 社会に発信し、アカデミックハラスメントの実態を知ってほしい。
- 学内のハラスメント委員会が機能していない。伝えてマイナスになることもある。
- 「看護とは何か」を人に教えている立場の人(教授・准教授)たちが、平気で人の健康(心と身体、そして社会的役割)を侵害することを行っている。
- 「看護」を知っているはずの人たちが、人の心を傷つけ、平然としている。そして、世間からは「教授」として崇められていることに優越感を抱いている。
- 看護系大学はこのような教授陣で教育をし続けて良いのか?未来の看護師たちは健全に育成できるのか?甚だ疑問である。能力のない人を教授など力のあるポストに置いてはいけない。
- ハラスメントの事実をうやむやにすることなく、真正面から向き合いたいと思うが、被害者ばかりが辛く苦しい状況を強いられる。それでもハラスメントのない大学組織を醸成するためにはハラスメントを明らかにしていく必要があると思う。
- 人事評価は一方向(上司が下の者を評価する)ではなく、双方向の評価になるとよいのではないか。
- 波風を立てずに自分だけが我慢すればよい、自分も悪い、と思って泣き寝入りしてしまうのは、その後他の人も同様の被害が起こることの予防にはならないので、勇気をもってハラスメントを止める行動を起こさなければいけない。
- 一緒に働いている人はすべてかけがえのない存在であることを感じながら仕事をすることの大切さ。
- 誰かが声をあげるか、行動を起こさなければならないのだと思います。でも、権力を持った人が行為者であると、報復が恐ろしい。事実、反論したり立ち向かったことで、大勢の前でひどく傷つけられる教員(教授でも)を目の当たりにしました。それを見ると、明日は我が身かと、誰も何も言えなくなります。昇任を願って取り入ろうとする人もいます。うまく行っている人間関係も、行為者に悪口を吹き込まれて互いに疑心暗鬼になり、内部崩壊する様子も見てきました。本当に恐ろしいです。
- 個人の力量や能力には違いがあるのだから、お互いさまと思いやる、思い合えることが必要。誰のための教育なのか、研究なのかを考えながら取り組む必要があると思う。
- ハラスメントをしてしまう人ほど、自身がハラスメントをしていることに気づいていません。また、教員が研究業績を挙げることばかりに躍起になり、他者にその他の仕事を押し付けるような利己的なやり方は、結局、長続きしません。自分のことと同様に、他者を尊重し、誰かが子育てや介護、身内の不幸などで休まざるをえないときには、皆でカバーしあうような職場の風土づくりが大切だと思います。
- 学生を育てる仕事のはずなのに、配慮がないのは残念である。第3者が介入するなど、風通しのよい環境を作るべきだと思う。
- 方針の違いがあり、意見を言えば邪魔な存在だとおもわれる。すぐに発達障害だ、低学力だと言うような上司では良い学校づくりは難しい。しかし、権力には逆らえない。なにも変えることができない。何人も退職していった先輩方の気持ちがわかりました。学生へは、それでもおかしいことはおかしいと言える人でいてほしい。組織で間違いをおこさないように
<臨床現場において>
- アサーションができる風土、お互いが思いやる風土の醸成が必要
- 誰を1番に考えるのか考えてほしい。患者だと思う。
- 職場でそのことを見過ごさない。おかしいとその人に伝える(伝えてもらう)などの対応が必要だと感じている。師長をしていた時になんども医師だったり、先輩だったり、患者からのハラスメントに対して対応した(EX:暴言暴力、セクハラなどが多かったと。また微妙なことに対しては、24時間のメンタルサポート相談したことがあります)。
- 何らかのハラスメントはあるもの、そうするヒトは人ではない、私が悪いのであれば客観的に説明する能力を持ち合わせてほしい、その能力がないヒトなんだと思うと良い。
- 自分はハラスメントをしていると思っていない、グレーゾーンすれすれのところで相手に嫌な思いをさせるなど、それも看護管理者が激しい行為言動や圧力で自分の立場や存在を主張してくることが多いように感じる。改善に向けた対応をしなければならない人たちが動かず、背を向けて話かけないでほしいといったオーラを放つ。結局、弱い者が現場を離れるしかない。年功序列やハラスメントが許されていた時代に育った人たちが、今や現場の管理監督者になっているため、ハラスメントの実態は近年の看護管理が貧しい結果を象徴しているように思う。人の上に立つ者こそ、人の話に耳を傾け、教養を持った人格者であるべきだと感じる。
- 自分に非が無いことに気づいてほしいと思う。声をあげること、正当性を訴えることだけが解決方法ではないように思う。
- グループ病院の急性期から慢性期病院に異動となった経緯があり始めの頃、おかしい事を指摘した事でそこの部署の人は面白くないと感じた思う。古い体質がはびこってると感じたがそれを改善するのは容易ではない。おかしいと感じてもせめて半年くらいは様子を伺い意見するのは慎重にした方がイイと思う。
- 自分が受けて辛かったことは、相手には決していない。
- 「自分自身の居場所がある」という認識がないと、やる気が出ないし頑張れないという事。経験したことで、自分でできる限り言葉かけ等をするようになった。
- 看護師なのだから人の痛みを理解し、ハラスメントはしない!
- 心理的に安全な環境は絶対確保したい。
- いけなかったことや足りないことは感情的に伝えるのではなく丁寧に説明すれば理解できること。ハラスメントを受けた人に対しては、今現在は病院内にも窓口があるし、同僚にも経験している人がいるので是非相談してほしい。
- ハラスメントをしている人は自分がそうとは気が付かない。
- いつも誰かをターゲットにして平気で嫌がらせをするひとがいる。
- そういう方はどこにでもおられますし、他の職場に行ってもいます。仕事をしないという選択肢しか脱出する方法はないです。そういう方々と会わない事が一番です。精神を病んだらどうせ生活保護なんです。精神を病む前に辞めた方がいいです。
- 相手に思いを伝えることがとても難しい。
- 一緒に考えたり、そばにいてほしかった。
- ハラスメントは放置しない・許さないが事実も確認が必要。
- 私は無力でした。
- 相談窓口が同じ職種だと有耶無耶にして、隠蔽する 同じ組織以外に相談することが必要。
- 理解者を探す。
- しっかり制度を理解して(私の場合は訪問看護の24時間対応)、相手の立場を尊重した態度で接することが大事だと感じています。
- 自分の考えを根拠を持って、しっかりと持つことが大事だと思った。そして、患者にとって、必要なことであれば、いつか、受け入れられる時期と場所がある。焦らないでほしい。
- 思っているようにできなくても、先輩として尊重するなど相手の気持ちを考えて行動してほしい。
- ハラスメントは職場のトップが毅然とした態度で対応しないと改善しないと思った。特に立場の強い上司や医師への対応は組織で改善しようとする働きが必要と思いました。
- 自分が思うように、周囲は考えてない。
- 当時は当たり前に行われていたが、職場に人が定着しない理由だったと思う。
- うまく表現できないです…。
- 専門職での学習以外世間知らずが多い、また人がどのように感じるかは人間関係が構築されているかで捉え方がかわってしまう。言葉や態度には常に気をつけていく必要があると思いました。
- 現在進行形の出来事ですから、「馬鹿野郎!」としか言えません。
- ハラスメントを行っている方は、自覚がない。ハラスメントが起きている職場は、組織としても機能していないと思います。インシデントを隠すようになり、報告しないで対処するようになる。ハラスメントは、被害者でなくとも周囲もつらく、退職者が増加し、職場環境は悪化してしまう。
- その時の感情のまま行動しない。一呼吸おく。自分はそのつもりはなくても相手は傷つく。
- 看護師は、女性が多く、陰湿で残酷、枝葉が付いて良からぬ噂が一気に広がる等、この職場環境が嫌。近年では、対面でコミュニケーションを取らなくても、SNS上で噂やゴシップ話が拡散してしまう。医療業界・看護業界も閉鎖的、封建的な風土がまだ残っており、他の業界から見れば、かなり特殊な集団なのに、それに気づいていない人が多すぎる。地方に行けば行く程、その傾向が強いと思う。院内にハラスメント相談窓口があるが、名ばかりで信用出来ない。自分の子どもが、学校で嫌がらせやいじめにあったら心を痛めるはずなのに、職場でハラスメントの加害者になっている人もいるはず。自分には優しく、他人には冷たいのか。
- 1人の意見だけを聞くのではなく、自分の目と耳でいろんな人の話を聞く。思い込みや好き嫌いで判断しない。ハラスメントを受けている自覚を持ち我慢せず。
- 先輩は、「わからないことがあったら聞いて」とよく言うが聞くと「そんなこともわからないの」という。自ら後輩に声掛けしていかなければいけないと思う。
- 今は、職場にハラスメントを受けた時に対応するシステムがあります。いろいろなことを気にせず、ハラスメントを受けたことを申し出て対応してもらうことが必要だと思います。管理職もスタッフや看護部長、副部長からひどい誹謗中傷や叱責を受け、退職に追い込まれている方もいます。管理職もハラスメントのシステムやメンタルサポートを活用すべきだと思います。
- 抱え込まずにすぐに相談する
- 「人」なのですよ。
- 看護部長は、新規事業などを「やれる人」に押し付けて自分が実績を作ったような気分でいる。管理者や院長の評価も高い。お願いする時は、笑顔で何度もお願いにくるけれど、一旦、任せてしまった後は、まったく関心を示さずフォローアップもない。私自身の評価がそれで上がるわけではなかった。看護部長の評価は一部の人達(管理者・院長)が実施していて、しかも表面的なものしか見ていない。スタッフ評価を加えるなど評価のあり方を考えた方がよい。要領のいい人だけが昇進したり、高評価を得るのは間違っていると思う。
- ハラスメントした本人は何らかの課題を持っていると考えているし、必ず実施した影響が本人に返ると思っている。
- している側は、ハラスメントの自覚がない 一定程度より年齢が上の世代にハラスメントと指導、教育の違いの認識がない。病院組織は、世間一般的より閉鎖的社会であり、日常的に大なり小なりハラスメントは多い現状であることを知ってもらいたい。
- 妊娠に関しては、不妊治療している人や子供がいらないという人もいるから、こちらからいろいろいうことはハラスメントにつながると思いました。
- ハラスメントはあってはならない。同じ思いを他の人にさせたくない。
- 叩いた人は言い訳をしたが、暴力に言い訳は通じない。暴力は精神的にも追い詰めるものだ。だから、絶対に許されない。
- 自分の行動や言動を振り返り自分が間違っていないと思えば普通に接するよう心がける。ハラスメントが酷い場合は、録音や写真での記録をしておいた方が良い。
- ハラスメントされ、とても嫌な思いをした。管理職という特権でハラスメントはすべきではない。
- 私は3名で被害にあっていて一人ではなかったのでたえることができた。またその上司が数年で転勤することが分かっていたので耐えた。保身のために3名中2名はレコーダーを保持していた。我慢する必要があったのかと今になって思うが、渦中の時はただ耐えて時が過ぎるのを待っていた。絶えずにハラスメント被害について3人で申告するべきだったのではないかと思う。
- 訪問スケジュールが過密すぎて、職場内でお互いに相談できる場がない。
- 一方的な攻撃ならハラスメントであるが、捉え方の相違、関係性によって一概には言えない事もある、複雑なこともある。
- ガミガミ言っても相手には何も伝わらない。そこで自分の子育てを振り返り反省した。自分が正しいと思っている上司(独裁的な)はある意味見ていて痛々しい。
- 上司は指導的な役割があるので、決めつけないで本人とよく話し合ってほしい。
- 看護師以前に人としてどうあるべきか感情のコントロール。
- 渦中にいると、所属長からの扱いはしょうがないもの(むしろそういうもの)だと思っていたが、その場から離れ休んでいると、そこで起きていることは明らかにおかしいことだと感じる。自分を守ることが結果として患者さんを守ることにもなる。無理に頑張ったり、向かったりせず自分のことを見てくれ、力を発揮できる職場を探してほしい。
- 自分はそのつもりではなくても相手にとっては強い負担になるので言動に注意する。
- 1人を責めても何の解決にもならないこと。
- 長い間、緊張状態に置かれている人の気持ちを理解できるでしょうか。皆平等に、仕事を楽しめる環境を作ってほしいと願います。
- 自分の立場が危ぶまれるため誰も何も出来ないような雰囲気をどうにかしたい。
- 組合や看護部以外の第三者への相談。
- 相談できる、話すことが、大事。
- 相手はそのつもりはないかもしれないが、受け手がハラスメントと受け取れば、ハラスメントであると思う。
- 公的機関に相談しても解決しない根本的な日本人の気質、社会の影響など関連していると思う。攻撃するような言葉を使ってくる人に対して黙っていると拍車がかかるし、それはどういうことですか?と質問しても攻撃される。それがわかっているからみんな何も言えないし、性格的なものでいじめやすい人や、言いやすい人を攻撃する。看護師の職場の環境や、看護師を本当はしたくないのに給料のために働いているという人もいるため、患者さんの声に耳を傾け楽しそうに仕事をしている人をうらやみ、ねたむ気持ちが生れるのではないかと考えている。
- 大きな病院でない場合、職場も事務も、ハラスメントや性差別を取り扱ってくれない。
- 患者だけでなく職員間でも良い関係性を作る努力が必要。伝え方や言い方を考えて発言することが重要。
- 師長などの権力がある人からの攻撃は、誰に伝えたら助けてくれるのかわからない。
- 私は、職場内のハラスメント委員会などに報告することなく、相談相手がいたことで乗り切ることができました。もし、身の回りでハラスメントを受けている方がいたら、ぜひ相談にのってあげてください。時には相談者が、ハラスメント被害を報告して、悲しみの連鎖を止めてあげてほしいです。
- 患者の安全や看護の質を第一に考えているのに、そのスタッフをないがしろにすることは許されないと考える。看護が好きではない看護師が増える。スタッフを大事にする職場であることが看護の質を上げるうえで第一だと考える。
記述内容としては、職場の風土を問題視し、その改善を期待する声が複数挙げられていた。また、職場の上下関係や職場、看護業界の閉鎖性などについての記述がみられた。
しかし記述の内容は、多岐にわたり、それぞれの想いが表されていることが考えられ、あえて、回答されたそのままを提示した箇所が多い。人によっては賛同、共感できるところもあれば、そうではないところもあるかもしれない。この記述をきっかけにハラスメントについて考える機会となればよいと考える。
ここでは、アンケートにて回答された内容を提示し、考察を加えたが、看護におけるハラスメントの問題の解消につなげるためには、関連する理論の理解、事例の詳細の検討を通すなど体系的な理解を深めていく必要がある。
アンケートの記述が今後のハラスメントの問題の理解、提起につながればと思う。
2023年7月「看護職とハラスメント」実態調査班
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