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アンケート調査結果のご報告

     

解 説

 

1. ハラスメントが生じやすい素地

 

〈教育現場において〉

 教育現場で回答のあった27名のうち全員が「教育現場のほうがハラスメントが生じやすいと思う」と回答していた。その理由としては以下のような4つの内容が記されていた。

 

(1)人間関係が閉鎖的で、被害が表に出にくい

  • 閉鎖的な組織体制であること(昔ながらの上下関係が根強く残っている)
  • 人間関係の風通しが悪い。隠蔽しやすい。
  • 領域内部は外から見にくいため、被害を訴えにくい。

 

(2)ヒエラルキーが強いため上司に何も言えず、被害は隠蔽される

  • 領域イズムが強く、また教授の権力が圧倒的すぎて、教授という立場以外の人の意見はなかなか聞き入れてもらえない風潮が強い。
  • 大学内部の人間関係の閉鎖性とポジションパワーのある人への服従・依存的体質の教員が多いこと。
  • 教員の職位によるヒエラルキーが強い。
  • 上司に何も言えない環境。ハラスメントであることに気づいても声を上げにくい環境。
  • 上司のワンマンになりやすいし、それを注意する人がいない。

 

(3)プライドを保つために他者を貶める意識がある

  • 自分のプライドを保つために他者を貶める人が一定数いるため
  • 私が出会った大学の教授は臨床経験が少なく、「臨床の現在」を知らない人が多い。知らないことを恥じることはないと思うが、臨床経験豊富な教員に対して知らないことを聞くこともできず、教授としてのプライドが邪魔をしている。(臨床経験豊富な教員を否定して、自分の権力を誇示する)
  • 教授が講師を優秀または追い越されると思う・妬み・妨害への意識。

 

(4) マネジメント・組織管理の問題から、ハラスメント加害者が守られやすい

  • 学校法人の経営、理事の考え方、ハラスメン防止委員会組織の不透明さ、顧問弁護士自体が、懲戒処分に積極的加担していること
  • ハラスメントの研修があっても形骸化しており、実効性のある対策になっていない。
  • 立場が上の人たち(主に教授)の人事評価(考課)が機能していないため、ハラスメントの加害者であっても教授である以上、その立場は永遠に保証されている。
  • 教授は業績が多いから教授になるのであって、研究論文は書けても、組織運営やマネジメント、リーダーシップがあるわけではなく、そのための教育も研修も受けていない。むしろ非常に偏っているとさえ思う。

 

 以上のように、教育機関においては、ハラスメントが生じやすい素地として、閉鎖性やヒエラルキー、プライド、マネジメント・組織管理に関するようなことが挙げられていた。

 

〈臨床現場において〉

 ハラスメントを受けたと回答した人の就労先は、回答者71名のうち病院が60名(84.5%)で最も多く、次いで訪問看護ステーション7名(9.9%)、介護施設3名(4.2%)となっていた。

 

 

 なお、最もハラスメントを受けた就労先であった病院内(60名)でいうと、病棟がもっとも多く(37名)、次いで集中治療室(9名)、管理部門(8名)と続いており、病棟以外の部門でもハラスメントが発生していることが見て取れる。

 

 

 

(1)知識不足がハラスメント発生の一助になっている

  • 労働基準監督署でハラスメントの相談対応できることを看護基礎教育の段階で伝えていくことが必要。私自身も後から知ったし、自分の権利の守り方を誰も教えてくれなかったことに対して、この職業に失望したことも事実。
  • 病院で命を守る立場から我慢強く働いている場合が多いが疲弊し離職につながりやすい。看護は好きだが業務は辛いとならないようにハラスメントへの教育がどの世代にも必要と考える
  • 管理者には、ハラスメントの教育は必須。わかっているようで全くわかっていません。自分はハラスメントを受けることがないからです。
  • ハラスメント相談窓口になっている方がハラスメントしている自覚がない。組織として終わってる
  • ハラスメントをしている本人も気づいていない場合があるのではないかと思う。心理的安全性と言ってる上司自身が一番心理的安全性を無視している。管理者は自分自身がハラスメントをしないような研修を受ける必要があると思う。1年に1回というような体裁だけの研修ではなく、自分の行動をきっちり振り返る機会となり、ハラスメントを自分自身が行わないような研修を受講できるようにしてほしい。
  • 中間管理職だったため、ハラスメントの相談を受けることはあったが自分がまさかその当事者になるとは思っていなかった。中間管理者こそ、ハラスメントを受けているけど、気づかない、言えない人は多いのではないかと思った。

 

(2)年功序列の横行により、下から意見はできない

  • 被害者として思うのは看護師の職場は年功序列。下の者の言う事など聞く耳を持たないと思う。
  • 自分の上司や先輩からのハラスメントは、なかなか改善できない。上司の立ち振る舞いを注意する第三者が必要だと思う。
  • 強い立場の管理職や医師により辛い思いをしている看護師は多いと思う。
  • 看護の世界は、上下関係がまだまだあると感じています。

 

(3)一般社会と乖離したローカル・ルールにより優遇される人と虐げられる人が選別される

  • 一般企業ではあり得ないほどママさんナースを大事にし、子供がいない人にそのフォローを負担させている。そういった負担を被っている看護師こそ、大事にしようとしない、意見を言うと平気で排除しようとする体質が離職に繋がると思う。
  • ハラスメントを上司(看護副部長)に相談したが、何も変わらなかった。ハラスメントがあっても、会社は仕事ができる人を優遇するんだと思った。このような思いをしている人は多く存在するのではないか。強い人が勝つ社会ではなく、弱い人でも働ける社会にならなければいけない。
  • 職場の上司の考えや意向があり、その考えに合わない人は評価が低いというのがわかり、上司のご機嫌をとりながら仕事をする風潮がある。

 

(4)脆弱な組織、ゆとりがない組織、人を大事にしない組織といった環境がハラスメントの温床となる

  • 起こりやすい外部環境などの背景があると思う。
  • 脆弱な組織がハラスメントを受けた人のケアまで責任が持てるとも思えない。
  • 誰がやったか?あら捜しの様に仕事のやり方に指摘し、チームで仕事してるんだから勝手なことやってもらったら困る。と、発言する人が多い。
  • ハラスメントする側も、される側も自分中心の目線で皆が発言している現場が多い。スタッフの声に耳を傾けない。職場間でスタッフ同士のことを信用しない。医療関係の職種は人間啓発の授業が少ないためこのような結果になっているのかと思う。
  • 大抵、要領のいい人が悪い人をハラスメントしている。そして、要領のいい職員が昇格しハラスメントが繰り返される、という構図がある。
  • 師長からハラスメントを受けているという通報を受けて、事務局長が一病棟全員を面談したようだが、一向になくならない。公平な評価というのは難しいけれどそれを模索してほしい。
  • ハラスメントの根本原因には「無理強い」があるように思う。突発的に人員不足になったといっては育休者に育休を切り上げて出勤するよう強要する。有給休暇が制限される。(多忙により)インシデントが発生したといっては責められるなど。これらは現場における病棟師長とスタッフのもめ事に見えるが、無理を強いたしわ寄せが現場に来ているだけで、これらの問題はすべて管理の問題であり、ハラスメントを増やすも減らすも看護部長のあり方に左右されると考える。知恵のある看護部長を私達は求めている。
  • 看護部長に言いたいことは、経営者を気取っていないで、看護師なんだから看護師不足の時には応援に回る位の気構えを持ってほしいということである。サッカーにおけるキーパーは、チームに退場者が出ればゴールばかり守っていないで一緒に攻撃にまわり、守る時はキーパー以外のプレイヤーも一緒になって身を挺してゴールを守ります。これこそが全員サッカーと呼べるわけで、私達もサッカーに見倣い全員看護をしないと、よい職場環境は作れないしハラスメントもなくならないと思う。

 

(5)未熟な人間性をもつ人が上の立場になることで生じる悲劇

  • 「自分がされて嫌なことは、他人にはしない」という当たり前のことが出来ないなんて、それでも大人ですかと 聞きたくなる。
  • 自分の地位や名誉、昇格のために、パワハラを平気でする管理職がいる。看護師という世の中のネームバリューより、人格を磨いてほしい。
  • 見えない所では、腹黒い人も多数いる。
  • 被害者もプライドが高かったり、考え方がネガティブだったり、繊細だったりする。
  • 考え方を少し変えていくことも大事だと思う。
  • 看護師としての教養にかける。
  • 患者中心の考え方ではなく、自分がどんな風に見られているか気になり、やりすぎる看護行為をする人に対して自分ができない看護師に見られたくないから攻撃するのか、わからないことが多い。

 

 以上のことから、臨床現場においては「知識不足」がハラスメント発生の素地として大きいことが特徴であるとわかる。「年功序列」は教育現場の「ヒエラルキー」と通じるものであり、パワーの傾斜から生まれるパワハラにおいては当然でもあるが、パワーは加害のためではなくマネジメントや役割としてあることを認識することが両現場において必要であると考えられる。

 

 

2. ハラスメントの様態

 

 教育現場の回答のうち26名(92.9%)が、臨床現場の回答者のうち71名(81.6%)、ハラスメントを受けたことがあると回答していた。

 厚生労働省の提示する6つのハラスメントの類型別に問うたところ、受けたハラスメントとして最も多かったのは「精神的攻撃」であった(教育現場:27名中23名、臨床現場:71名中68名)。

 

 「身体的攻撃」は教育現場では見られなかったが、臨床現場では71名中10名が受けたと回答していた。教育現場では臨床現場に比して、「個の侵害」、「過小な要求」、「過大な要求」、「人間関係の切り離し」の被害の割合も高い傾向がみられた。臨床・教育現場ともに多岐にわたるハラスメントが発生しているが、「精神的攻撃」の占める割合が高く、特に臨床では突出していた。

 ハラスメント行為者の職位としては教育現場においては教授が圧倒的に多かった(27名中20名、次いで准教授4名)。臨床現場では管理職が最も多かったが(71名中44名)、次いで非管理職(同22名)、となっていた。ハラスメントの行為者として管理職ではないスタッフナース(同17名)も多く含まれていることが特徴的であった。

 具体的なハラスメントの内容に関する代表的な自由記述としては以下のようなものがあった。教育現場と臨床現場別に以下に示す。

 

〈教育現場において〉

  • 全く初めて行う仕事も「考えてやりなさい」と指示され、事後に他職員や学生の前でやり方の不備を指摘され、激昂されることを繰り返される。無視される。「こんなこともできないの!?」など、人格否定の言葉を日々言われる。
  • 上司から嘘の呼び出しを受け、上司二人から、一方的な指導をされた。何の説明も同意もなく、シラバスから、すべて、名前を消された。
  • 大声での叱責を繰り返す、過度な業務を与えられる、担当授業前に急に呼び出される、辻褄の合わないことを言われる。
  • 理由なく調整後に実習病院の担当を変えたり、他の教員の前で理不尽な注意を受けた。
  • 大学教員になる前から行っている外部活動(所属学会の委員会活動や外部のセミナー講師など)を継続して行いたいことを領域長(教授)に伝えると「助教のくせに・・・助教ごときが・・・」と言われた。
  • 大学院(博士後期課程)への進学が決まったので合格したことを教授に伝えると、「大学名が言えないのならば、あなたが大学院に行くことを大学として、教授として許可できない」と言われた。

 

〈臨床現場において〉

  • 大きな声で怒鳴られた。無視された。役職を全うしないならいらないと言われた。
  • 間違った内容や悪口を言いふらされる。評価を下げるために内容を変化させたり私がしたことを自分がしたことにして報告する。
  • 訪問看護師になってから、先輩看護師と2人で担当していた利用者に先輩が何かを言ったのか訪問するたび利用者家族からチクチク嫌味を言われたり、先輩看護師と比較してできなことを訪問時間中ずっと言われていた。
  • 主任のときに師長から「あなたのせいで病棟運営が悪くなった」という主旨のことを2時間ほど、師長室で責め立てるような感じで言われた。
  • 陰で出来ないことへのダメだしや露骨に不快感を示されたこと。
  • 新しい勤務先で初めての業務に携わるのに、そんなこともわからないなど馬鹿にされる、無視されることがあった
  • 子育て中に休むとその後の勤務などが厳しくなった。また遠回しに嫌味を言われた。
  • 新しい勤務先で初めての業務に携わるのに、そんなこともわからないなど馬鹿にされる、無視されることがあった
  • 必要な報告が部下からなされない。
  • 結婚したあとに、子供を早く作ったほうがいいと何度も言われた。ほしくなかったのに毎回言われて嫌になった。
  • 一人の同僚から、あんたはこの病棟のみんなに嫌われているといわれた。
  • 上司から他の人がいる前で能力がないと言った内容の非難をされた。

 

 総じてみると教育現場では、人前での𠮟責や、業務から外されるといった点、また自分の判断や意思が尊重されないといった内容がみられた。臨床現場では同様に、激昂される、侮辱されるといった内容がみられた。さらに家庭生活への干渉や、患者・利用者から受けた嫌がらせ、部下・同僚からの必要な情報が報告されないなどの内容がみられた。

 

 

     

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

© Japanese Nursing Association Publishing Company

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