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看護 ふれることの
前編
内山孝子 川嶋みどり 茂野香おる

当社では2021年5月に、コロナ禍における看護の状況を医療人類学の視点から検証したNursing Todayブックレット『「コロナ」と「看護」と「触れること」』を刊行しました。看護師が手を使い患者に「触れること」がままならない現状をめぐるその議論をきっかけに、その名も「て・あーて(TE・ARTE)推進協会」の発起人である川嶋みどり氏と、「熱布バックケア」の普及活動に取り組む茂野香おる氏・内山孝子氏をお迎えし、看護職自身の立場から「触れること」のもつ普遍的な意義について語り合っていただきました。(編集部)

   

「触れること」から最初に看護を体験する

 

茂野 学生たちが「看護の学修を続けていけそうだ」と思えるようになる仕掛けが本学にあります。学園祭で毎年2年生が中心となって「手浴コーナー」を運営しています(近年はコロナで中止しています)。給湯設備が十分でないため割り当てられた教室まで離れたところから一所懸命にお湯を運ぶ裏方の学生と、手浴ケアをローテーションで担当する学生に分かれるのですが、1年生がお湯くみを中心に行いながら、時に2年生が行う手浴を見て学ぶかたちです。近隣住民の方にお越しいただくので、とくにご高齢のお知り合いの間でこのコーナーが評判になり、リピーターとなってくれている人もいます。

 

学生たちはこうした場を通じて、自分たちが直接触れるケア提供できることを確認し、その数カ月後には病院実習で患者さんに実践するのです。学園祭の手浴の最中に、気持ちよくなった近隣の方が饒舌になって多くのことを話しかけてくれるので、学生も直接触れるケアをしながらであれば知らない人とでも打ち解けることができ、人のためにケアをしたことを実感できます。引っ込み思案で会話が苦手な学生も、こうしたベーシックなケアを通して相手のコミュニケーション・チャンネルを開くことができることを実感できる効果があります。学生にとって直接触れるケアができるようになることは、現場に出て患者さんと向き合える自信や実習への気構えもつくれますし、何より患者さんが心を開いて相互関係を築くことができるので、実習を乗り切るための強い味方になるのです。おそらくこのような教育の仕組みが、それぞれの学校でさまざまな形をとって脈々と受け継がれてきており、それが看護の本質にもなっているのは今も昔も変わらないのだと思います。

 

たとえ意識がなくても触れると伝わる

 

川嶋 内山先生はICUにおられたのでたくさん経験されているでしょうけど、実際に心電図を付けてICUに入っている意識のない患者さんでも、触れることによって血圧が下がったり脈拍が安定したことを示す研究があるんですね。

 

内山 ICUだからこそ看護師はたくさん患者さんの身体を手で触れます。モニターアラームを通してわかるのは患者さんに変化が起きた後のことが多い一方で、手を当てればそうした数字に表れる以前の変化を感じ取れるのです。これは大事なことで、さきほど川嶋先生が「優しくさする」とおっしゃいましたが、リンパ浮腫のケアはその代表例と言えます。皮膚の表面だけを伸展させるように優しく緩くタッチすることにより、リンパの流れを促進させる効果が証明されています。

 

ICUの患者さんは意識状態が悪かったり治療のために鎮静をかけられ、自ら動くことを制限されていますが、そうした状況下では人の筋肉は収縮運動が失われてむくみやすくなります。むくみが出てしまうとその部位の皮膚は大変傷みやすくなるのです。そこで私たち看護師は、患者さんご自身で筋肉の収縮運動ができないぶん、優しく軽擦(けいさつ)をしてリンパの流れを促し、むくみが少しでも抑えられるようにすることで、褥瘡の発生を防ぐ働きかけを行います。

 

褥瘡ができてから褥瘡のケアをするのでは看護の意味がないんですね。できないようにするために何を行うか、つまり患者さんに何も起こらないようにすることが大事なのです。触れた後にも、患者さんが鎮静から覚醒したときに手が重くて動かなくなる状態を見越して弾性包帯を巻いたりもします。ICUで意識がない間に、手術で生じた身体の傷へ配慮するのも、患者さんが自分の生活を取り戻していくことに結びつくからです。現場ではスタッフ自身がそうした看護の力を日々実感しています。

 

私はリハビリテーション病院でも看護経験があります。脳梗塞や骨折の術後でリハビリをしても思うように動けないケースでは重度の便秘に悩まされる方が多いんです。ずっとスッキリできない状態だと、おいしくものが食べられないし、なんだか気持ちも乗らなくてリハビリもなかなか進みません。そこで「じゃあ下剤を出しましょうね」となりがちですが、でもまずは「お腹を見せてもらってもいいですか?」と言って腹部に触ってみることが大事です。

 

そのとき、最初は優しく触れて張り具合がどうかを確かめます。そして患者さんの反応を見ながら、大丈夫そうであれば「もう少し深く触って(押して?)いいですか」と尋ね、腸の走行に沿って少し入念に触ってみる。そうすると「ここに少し硬く触れる便がありますね」と、お互いに便秘の状態を確かめられるので、「少し腸のマッサージをしましょうね」と提案したり、逆に便が全然触れないならお腹を少しトントンと打診してみる。もし打診から得られた音が高めの響きだと「ガスが溜まってますね。少し腸が動くようにマッサージもしましょうか」と言えて、同時に「お水はどれくらい召し上がっていますか?」と聞くことで、例えば「夜にトイレへ行くことが不自由だから、少し水分を控えている」などの事情がわかり、水分をもう少し摂るように促せます。

 

こうしたやり取りを通じて、患者さんご自身が「ああそうか。こうやってお腹を少し触ってくれるだけでも、これだけの話ができるんだね」と理解できるのです。仮に「下剤を飲んだほうがよさそうですかね?」と質問されたら、「今この状態だと、便が出ないのは水分が足りないためです。下剤を飲むのではなく、今日はいつもよりも水を1杯余分に飲みましょう。さらにもう1杯を寝る前に摂れば、おそらく明日か明後日には気持ちよく便が出ますよ」と伝えることで、患者さんも安心してくれます。薬だけに頼らず自ら体調を整えていくことにもつながるのです。

 

こうした「触れること」を起点とする身体的ケアによって「ケアが治療になる」のだと、川嶋先生もよくおっしゃいますね。これこそ看護師が手で触れなければできないことだなと思います。

 

後編へつづく>

   

後編

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会

© Japanese Nursing Association Publishing Company

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