学術集会長講演病院組織における多様性のマネジメント◯座長:小池智子(慶應義塾大学 看護医療学部/大学院健康マネジメント研究科)◯演者:松浦正子(神戸大学医学部附属病院看護部)
松浦氏は標記テーマについて、自身の看護管理実践と研究活動をもとに、以下の3つの観点から論を進めた。
1. コンフリクト(衝突)のマネジメント
コンフリクトはネガティブなものとして見なされがちだが、松浦氏はセカンドレベル研修で、その概念が歴史的に変遷しており、1970年代の後半には“コンフリクトがなければ組織は発展しない”とまでポジティブにとらえられていることを学んだ。そのメリットは「相手の理解を深める」「自分の考えを明確にする」「問題解決につながる」ことだと言う。
これを契機に、コンフリクトにうまく対処し、問題解決を図っている看護管理者の「対処のワザ」を明らかにするための研究を行い、「留保」「装う」「利用」「説得」という看護管理者に特有の対処行動を抽出した1-3)。
2. 多様な働き方のマネジメント
2つ目の観点では、子育て支援や短時間勤務制度の概要を示しつつ論を展開。松浦氏は、自身も子育てをしながら仕事と両立してきた経験をもつが、妊娠・出産・育児はキャリアダウンやブランクではなく、ブラッシュアップだと考えている。副看護部長時代には法人全体の組織として、その名も「ブラッシュアップセンター」を設置。産休・育休に伴うさまざまな相談を受け、キャリアコンサルテーションを提供する。加えてWebサイト教育プログラム「ブラッシュアップパーク」を開発し、センターと併せて運用し、職員の休業中のモチベーション維持と円滑な現場復帰に成果を上げてきた4,5)。
3. 多様な人材マネジメント
3つ目の観点では、ジェネラリストの「教育指導者」育成を中心に自院の取り組みを紹介。同院では、2010年より教育の標準化と質の向上、さらに提供する看護の質向上を目的に、教育指導者養成のための「キャリアシステム・神戸REED(Reflective Educative Develop-ment)」を導入した。講演時現在、累計197名がプログラムを修了し、各部署に2名程度配置され、「教育プログラムの企画・運営・評価」「実地指導者への助言」「実践の指導」「新人のリフレクション」「看護部中央研修のファシリテーション」などの役割を果たしている。
*
最後に松浦氏は、同大大学院経営学研究科教授の鈴木竜太氏との対談8)を踏まえ、個々の医療職のつながりが薄れ、電子カルテで情報を取り、申し送りも廃止されたような昨今の医療現場は「ジグソーパズル型マネジメント」であると指摘。個々のメンバー間には、パズルのピースが隙間なく並ぶように重なりがなく、業務は最適化・効率化されているが、他者との互いの違いに気づくことのない組織になってしまうと、そのデメリットを示した。そのうえで、多様性のマネジメントを進めるには「ちぎり絵型マネジメント」――ちぎった和紙を少しずつ重ねながら台紙に貼り付けていく、ちぎり絵のようなマネジメントがふさわしいとし、メンバーが相互に重なり合ってかかわることにより、互いの違いに気づき、認め合い、活かしていく組織を提唱した。
◉ 参考文献