>>「掌の記憶」より
はじめに
病がもたらす喪失。それによって本人とまわりの人たちの間には、大なり小なりさまざまな隔たりが生まれます。筆者の人生を振り返っても、家族の介護や闘病を見つめる中で、また自分自身も若くしてがんを患う中で、さまざまな「喪失」と「隔たり」を感じてきました。
それぞれが内側で抱えている痛みや苦しみ、かなしみ。その個人的でかたちのないものや、人との隔たりをなくすことは難しくとも、時間をかけて自分のまなざしで捉えながらかたちにして、静かに見つめ直したり共有したりできる方法はないだろうか? そんな思いを巡らせる中で辿り着いたのが「本に綴じる」ということ。
そして、本やさまざまなメディア制作の現場を巡りながら「伝える術」を学ぶ中で出会ったのが、アメリカで生まれ、日本でも広がりつつある「ZINE(ジン)」という小冊子でした。
第1回では、まずZINEについての概要を、第2回ではZINEづくりを通して自分を見つめなおす事例を、第3回では「取材」という行為を通して、他者を見つめながらZINEを綴じる事例を紹介します。そして第4回では、ZINEづくりのワークショップや展示での出会い、その経験から感じているZINEという表現の可能性についてご紹介します。
藤田 理代 ふじた みちよZINE(ジン)作家。祖父の介護をきっかけに社会福祉学を学び、病が原因となって断ち切られてしまった人の記憶や関係を「本」というメディアをつかってつなぎなおすことはできないかと考えるようになる。本やWebメディアの制作現場を巡る中、2014年に29歳で絨毛がんを患い、流産・手術・抗がん剤治療を経験。がん寛解後、“大切な記憶”をテーマに経験者の声(ことば)とまなざし(写真)を手製本(ZINE)に綴じ、展示やワークショップを通して経験を共有する活動をはじめる。依頼者から“大切な記憶”を預り豆本におさめて贈る「掌の記憶」、病院などでひらく小さな移動型アトリエ「記憶のアトリエ」、病院内がん患者サロンのボランティア、国立がん研究センター がん対策情報センターの「患者・市民パネル」などの活動を通して、経験者や家族、専門職の方々の声を聴きながら、人の想いや記憶を交わすきっかけづくりを続けている。 https://michi-siruve.com
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