「ナーシング・トゥデイ」2013年4月号 リニューアル記念対談(Web版)

エンドユーザのための研究と実践

 

中原:今やっているプロジェクトでは、一般企業で人材開発をしている人のノウハウを100人ひたすら聞いているんです。彼らがどうやって上司と交渉し、研修を立ち上げ、人を動かしてファシリテーションして巻き込んで、最後にどうやってフォローアップまでしているのか。なぜなら、教育理論とか教材設計理論というものは、組織内において研修やワークショップを立ち上げることを想定してつくられていないんですよ。やっぱり、その射程に入っているのは、初等中等教育なんです。。ですので、理論の力には、あまり頼れない。ならば、実務の力に頼るしかないと思うんだけど、僕自身には実務家としての経験はない。そこで研究者として何ができるのかを考えたら、力のあるたくさんの人にインタビューをして、そこで聞いた事例を定性的に蓄積し、モデルをつくればいいと。めざすべきは、トップクラスの仕事をしている人の実例を基に、定性的につくる研修開発マニュアルですね。これは、たぶん、アカデミクスでは評価されない仕事でしょう。でもいいんです。もう、全く気にしないんです。この仕事において、僕がもっともプライオリティをおくオーディエンスは、実務家の方々です。

 

吉田:私が先生に惹かれているのはまさにそこかなと思いますよ。東大にこういう人がちらほらいることに、日本に対する安心感を感じますね(笑)。

 

中原:アカデミクスを聴衆にした仕事は、別にやるんです。それではそれでやる。だから、わたしの著作は、2つのラインがあることになります。どちらかというと、研究者を意識した仕事と、実務家を意識した仕事。それを2ライン抱えて走ることが、僕の宿命なのかな、と思います。

 

吉田:看護系の研究者も本当にみんなエンドユーザに向き合えているかどうかを考えると、時にはつらくなる時があります。

 

中原:私も苦しいですよ。私自身が。もう身体的にも限界ですし(笑)。研究の仕事とそのエンドユーザに対する仕事の2ラインを並行してやるのは、精神的にも、とても苦しい。このあいだアカデミクスの、ある方に、「中原くんの新刊、読んだよ。あの、エッセイみたいなやつね」って言われて衝撃受けましたよ。こんなことなら、2つのラインを出すときに、名前を変えてやればよかったかな、と思うときもあります(笑)

 

吉田:いや、でもその両方を、ひとりの人間、中原淳がやることに意味があるんですよ。看護研究者だって、エンドユーザ向けの語り口で書く人は少ないですよね。だからできれば自分がそういうことをやっていきたいですね。

 

(2013年1月30日 JNAビルにて)

さらに多くの話題を本誌で紹介。

誌面での議論はまず「中堅看護師とはどういう人たちなのか」という話題から始まります。「自分が次に進む道は管理職なのか、教育職なのか、それともスペシャリストなのか」というキャリア上の岐路を迎える中堅看護職が置かれた状況は、一般の企業で働く人々とどのように違うのか。その人なりの「次のステップ」へ進むために、本人や指導者にできることは何か? 実践知をシェアするために必要な「場づくり」の重要性とは? 「ラーニングバー」をはじめとする中原さんのユニークな取り組みを聞きながら、看護の場でのさまざまな可能性を探っていきます。

日本看護協会出版会

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