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講義を動画で配信する=オンライン化?
新型コロナウイルスの感染を避けるために、一つの空間に大勢が集まった講義や研修をしないという体制がアフターコロナでも定着するでしょう。ここに対し、学校やさまざまな教育機関では「さあ、とにかくオンラインで始めなければ……」と動き出しています。
いつもの講義をタブレットのカメラなどで撮影し、YouTube(限定公開)などにアップして「オンライン講義」のコンテンツとする。それを受講した後、課題を提出してもらう──。例えば、このような取り組みがすでに日本中で始まっています。
急場しのぎとしては、まずは、このように「目の前のできることからどんどんしていく」ことが一番と思いますが、同時に、もっと大きな視点で「私たちの社会がどうなったらいいのか」と、ビジョンを描きながら未来志向で教育を考えてみたいと思います。
一斉に教える「オンライン講義」のためではなく……一斉に教える講義と決別するためのオンライン化を……
はるかに遅れている日本の教育スタイル
「オンライン学習」は、簡単に言えばインターネットを利用してパソコンやタブレット端末などで学習することです。それは単に「講義をインターネットで見ることができるようにする」で終えるものではありません。さまざまな可能性を持つネットは多様に教育に活かすことができます。しかし、残念ながら教育の情報化において、日本は世界の中でも進んでいるとはいえない状況です。
今回の新型コロナウイルスの感染予防対策で、日本は教育のオンライン化において世界の中でも非常に遅れをとっていることに社会が改めて気づくことになりました。
日本はインターネットを活用してゲームやSNSなどを楽しむことは他の国以上なのですが、授業の後に関連資料を見つけるためにインターネットを閲覧したり、学ぶために使ったりすることはOECD諸国の中で最下位という現状なのです*1。その理由は、PC端末や通信環境の遅れもありますが、学習者のモデルでもある教員が教科書や参考図書など印刷物を使うことが中心で、インターネット上にある最新情報やデータを使いながら授業を展開することが少ないのも要因ではないでしょうか。
*1:国立教育政策研究所:OECD, 生徒の学習到達度調査(PISA)2018年調査補足資料, 生徒の学校・学校外におけるICT利用,2019年12月.
目指すのは……自らの意志で「知や情報」を獲得できる人
目指したいのは、講師が自らの講義を「オンライン化」するだけではなく、学習者がネットや多様な手段で自らのビジョンや目的を達成するために世の中にある知識や情報、データなどを手に入れ、しなやかに成長し続けるための新しい教育の姿です。それは、例えば同じテーマで学習しているもの同士がネットでつながり課題解決のアイデアを自由に出し合うアクティブなプロジェクト学習、自分の研究や課題解決プロセスに対して国内外の専門家や当事者から意見やフィードバックをもらう、ライブカメラを活かして臨床を定点で観察しながら課題を見出す教育……これらのしなやかな知的活動に多様なメディアを活かす、オンライン講義もその手段のひとつということです。
教育の変化「与えられた学びから、意志ある学びへ」
顔の見える「インタラクティブなオンライン学習」が決め手
オンライン学習では、「講義の動画を見せ、その後で課題を出す」という講師から学習者への一方向ではなく、講師と学習者、学習者同士あるいは学校や組織を超えて国内外の人と双方向で知識や気づき、時に感動などをリアルにやりとりできるインタラクティブな学習であることが求められます。
知識やスキルを一方的に伝える教育であれば、講師が収録した動画より、映像も内容も質の高い動画やアプリが多数あります。同じコンテンツであれば、そのパフィーマンスは教育系ユーチューバーには到底叶いません。
しかし、オリジナルな内容やそこにしかない現場に密着して動画収録したオンライン講座であれば学習者が活用する価値、意義はもちろんあります。その際も互いの顔を見ながらインタラクティブ*2に進められる手段であることが必須です。
*2:インタラクティブとは、単なる双方向ではなく「相互に作用する」ものです。作用とは力を他へ及ぼして影響を与えることやその働きを意味します。講師や学習者、研修の参加者一人ひとりが互いの知識や気づき、思考、これまでの経験、キャリアを「オンライン」というテクノロジーを活かして共有し、刺激し合う──そこから新しい創造的な知が生まれます。これが、これからスタートする教育のオンライン化のイメージです。そのためには、テキストデータやパワーポイントの提示機能だけでなく、互いの顔や状況がライブで見えるオンライン講義、研修であることが重要です。このような意味で、単に「“双方向”のオンライン授業」というより「“インタラクティブ”な対話ができるオンライン講義、研修」と受け止めたいと思います。
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連載のはじめに