連 載

アクティブラーニング ──教育の質的変化とその背景 友野 伸一郎

第3回 page 2

 

立教大学経営学部のビジネス・リーダーシップ・プログラ

 

まず大学では、立教大学経営学部のビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)がその好例だ。BLPは、BL0~BL4と名付けられた5科目が1年前期から3年前期までの2年半連続するプログラムである。1年前期のBL0とBL1は経営学部全員必修、2年前期のBL2は経営学部の2学科のうち、経営学科は必修科目で国際経営学科は選択科目、BL3とBL4は両学科とも選択科目となっている。

 

そして、BL0(1年春学期)、BL2(2年春学期)、BL4(3年春学期)の3科目は、提携した企業から学生にテーマが与えられ、その課題解決にグループワークで取り組む。学期末にはプレゼンテーションによるコンペティションが行われ、優秀なグループが企業と教員からそれぞれ表彰される。ちなみに筆者が見学した2014年度のBL0では、提携企業である日本ヒューレットパッカード(日本HP)から「2020年の東京を盛り上げる新しい日本HP製品の使い方を考え、それが日本HPにとってどのようなビジネスの機会になるか提案してください」というテーマが与えられていた。

 

経営学部であるから当然、経営学の知識を動員して課題に取り組むのだが、1年生前期ではあまり専門知識を学んでいない段階だ。学生たちは、この課題に取り組むことを通じて専門知識の欠如を痛感し、専門科目を学ぶ姿勢がより積極的になる。その経験によって2年次のBL2では、1年時よりも豊富な専門知識を活用して、より経営学的に高次な課題解決案を案出することが可能になる。3年次のBL4では、さらにレベルが高くなることは言うまでもない。

 

つまり、言い換えると、BLPは2年半にわたって継続的に高次のアクティブラーニングに取り組むカリキュラム設計になっているのである。

 

実はこのBLPの教育目標は「権限がなくても発揮できるリーダーシップ」の育成であり、経営学そのものの習得とは別のところに力点があるのだが、経営学の教育にも大きな成果を上げていることで知られる。

 

ちなみに、このBLPによって立教大学経営学部は就職でも大きな成果を残し、採用企業からの評価も高い。それが受験生の人気を高め、河合塾の入試偏差値では、8年前の新設時は早稲田大学商学部67.5、立教大学経営学部62.5と5ポイントの差があったが、昨今の入試では、同程度で並ぶようになっている。

 

 

(立教大学経営学部ホームページより >>)

 

 

京都市立堀川高校の「探究基礎」

 

高校の実例としては、京都市立堀川高校の「探究基礎」の取り組みを紹介しよう。同校は1999年に「探究科」が設立され、同科の1期生が卒業した2002年、国公立大学への現役合格者数が前年の6人から106人に急増。「堀川の奇跡」として注目された。その躍進の秘密は、先に紹介した「習得」「活用」「探究」のうちの「探究」に力を入れた「探究基礎」という取り組みの開始にあった。

 

探究基礎は1年前期から2年前期まで、ホップ・ステップ・ジャンプの3段階で行われる。生徒たちは1年前期に、“ホップ”として「研究とは何か」と、「証拠を集めること」「他の可能性を捨てること」「引用の仕方・ねつ造はダメ」を学ぶ。加えて無駄なコストをかけないことの社会的意味についても学ぶのである。そして1年生の前期の総合的学習の時間に、これらに則した書き方を練習し、後期には“スッテップ”としてゼミが開催される。ゼミは9テーマほどあり、グループによる探究活動が基本となっている。そしてこれらの準備を経て、2年生の前期に“ジャンプ”として全員が個人研究を行う。

 

この“ジャンプ”の段階をグループ研究にしていないのは、フリーライダー(ただ乗り)が生じることを防ぐためであると同時に、将来、大学以降では大きなプロジェクトの一部のみを担うことになる可能性が大きいため、高校時代には一通り始めから終わりまでを自分で経験することを重視しているためだ。

 

このゼミには京都大学や同志社大学などの大学院生がティーチング・アシスタント(TA)として関わっている。それが生徒たちにロールモデルを示すことにもつながっていて、キャリアを考える機会にもなっている。そして全員が研究発表し、その後に論文にまとめる。これは発表→議論→論文というプロセスだ。ポスターセッションやゼミでの議論も論文に反映させる。しかも論文では「考えたこと」「行ったこと」を書くのではなく、結論に関することだけを書くように徹底的に指導されている。

 

この探究基礎を経験した卒業生は、大学入学後に理系であれば研究室配属前の学年でも「もっとやりたい」と自分で研究室に赴いたりする場合も少なくないという。つまり、堀川高校の探究基礎は「教科でインプットした知識を活用して自ら課題を設定し、その解決に取り組むアウトプットの高次のアクティブラーニングが、1年生から2年生まで継続的に配置される」ことで大きな成果を上げているということになる。

 

3年生までの取り組みとなっていないのは、現在の大学入試への対応としての受験勉強に集中する必要があるからだが、2020年度以降に導入が予定されているセンター試験に代わる新テストをはじめとする高大接続改革が進めば、こうした問題も解消していくと思われる。

 

次回は、リーダーシップ育成と生涯にわたるアクティブラーナーの育成について考えたい。

 

 

もっと知りたい人のための参考書

 

大学のリーダーシップ教育について...

 

『大学教育アントレプレナーシップ』(日向野幹也著、ナカニシヤ出版、2013)

 

 

 

堀川高校の「探究」活動について...

 

『奇跡と呼ばれた学校』(荒瀬克己著、朝日出版社、2007)

 

page  1   2

コメント:

フォームを送信中...

サーバーにエラーが発生しました。

フォームを受信しました。

教養と看護編集部のページ日本看護協会出版会  Copyright (C) Japanese Nursing Association Publishing Company all right reserved.