第3回「“課題解決”と“知識の定着”
大学や高校で効果を上げている
アクティブラーニング」
知識を活用して課題解決に取り組む高次のアクティブラーニング
前回、アクティブラーニングは3つの学力要素、すなわち「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・協働性」を育成するためのものだと説明した。
では、中学や高校の中等教育、そして高等教育としての大学で、こうした学力を育成するために、どのようにアクティブラーニングをカリキュラムの中に組み込んでいくのがよいのだろうか。もしかすると、すべての授業の中で一様にアクティブラーニングを取り入れるのだというイメージを持たれるかもしれないが、それだけではなかなかうまくいかない。たとえば、大学のすべての授業が卒業論文や卒業研究だったとしたら、どうだろう。
卒業論文・研究は、他の授業でインプットした知識を活用しながら、解のない新しい課題を自ら設定して解決していく、いわば究極のアクティブラーニングだ。授業時間外に、自分でさまざまな資料を調べたり実験したりという取り組みに多くの時間が割かれる。
となると、大学1年生から4年生までの授業が、すべて卒業論文・研究のような内容であったとしたら、学生は時間的にも明らかにパンクしてしまう。そして何よりも、学生たちは活用すべき知識をどこでインプットしたらいいのだろうか。そんな時間はどこにあるのか。というわけで、従来の大学教育でも、卒業論文・研究に至るまでの専門科目では、学生が専門知識をインプットすることを目的としていた。つまり、卒業論文・研究でアウトプットするためには、前もって専門知識のインプットが必要であることは、アクティブラーニングが重視されるようになっても何ら変わりはない。
そこで整理してみよう。アクティブラーニングをカリキュラムに取り入れる上で課題となっていることは、大きく見て2つある。
1つは卒業論文・研究のような専門知識を活用して課題解決に取り組む、アウトプットを目的としたアクティブラーニング(=高次のアクティブラーニング)が大学3年生か4年生になって初めてスタートするのでは遅すぎるということだ。つまり、大学1年生の時点から、その学年までに学んだ専門知識を活用して課題解決に取り組むような、アウトプットするためのアクティブラーニングを含んだ科目を、継続的に2年、3年にも配置し、そして卒業論文・研究へとつなげていくことが大切だということである。
もちろん、このような高次のアクティブラーニングは、同時並行的に多数の科目で進めるべきではなく、コアになる科目として常に1科目程度が配置されているのが望ましい。
知識の定着を目的とした一般的アクティブラーニング
そしてもう1つの課題は、知識をインプットする科目の中で、アクティブラーニング(=一般的アクティブラーニング)の機会をできる限り増やしていくことである。脳科学的に見ても、講義を聴くだけの授業で得た知識は短期記憶に留まるだけで、やがて忘れてしまう。長期記憶に移行させるためには、その知識を活用することが効果的とされる。そこで活用によるインプットを目的とした一般的アクティブラーニングを行うことが大切なのである。
したがって、この一般的アクティブラーニングはすべての授業で行われることが望ましい。具体的には講義である程度の知識をインプットしたら、それをペアワークやグループワークで議論したり、協働で問題を解いたりするアクティブラーニングを組み合わせる授業が効果的だ。だから、授業から講義をなくすべきだというのでは断じてない。
整理するとつまり、すべての知識のインプットを目的とした授業に一般的アクティブラーニングを導入するとともに、1年生から4年生まで常に、その学年までに学んだ専門知識を活用したアウトプットのための高次のアクティブラーニングを1科目は配置し、その組み合わせによって教育効果を高めていくということである。
こうした考えは、現在では大学だけでなく高校でも重視され始めている。具体的には、高校を含む中等教育では、学習指導要領で「習得」「活用」「探求」という考え方が打ち出されている。「習得」はインプットを目的とした学習であり、「探求」は自分で課題を設定し、その課題解決に取り組む大学の卒業論文・研究のような取り組みだ。そして「活用」は「習得」と「探求」をつなぐ学習として位置づけられ、科目の文脈の中で与えられた課題を解く学習である。「探求」が課題自体を自分で設定し、そのためにあらゆる教科の知識を横断的に用いるのとは、その点で異なっている。
以下、このような組み合わせで学生や生徒が大きく伸びている実例を、大学と高校で1つずつ紹介しよう。
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